第8話
人形4号の上に乗り疾走する俺とサロメ。
速度は、原付と同じくらいに感じるから大体時速30kmくらいだろうか。
事故が怖いからこの程度にしているけれど、その気になればこの数倍は出せる。
ただ、さっきから気になっていることがある。
「あのさ、今更かもしれないんだけど、道路交通法とかあるの?」
そう!ダロス君は、現在ルールもわからず町中を走っています!
そもそも、乗っているものが馬車でも馬でもない時点で、特殊な扱いがあるかもしれないけれど、それすらわからないのが現状だ。
何となく皆中央より右側を歩いているから、俺もそうしてるってだけなの!
てか他に馬車も走ってなくて真似も出来ねーとか完全に計算外だ!
「私にわかると思いますか?」
「わかってほしいとは思います。」
今回サロメは、恐らく大して役に立たないだろう。
それは、初めからわかっていたことではあるけれども。
元上級貴族令嬢で、現在引きこもり使用人な彼女に期待するのは、俺の精神安定剤としての役割だ。
とにかく手を握っててくれと言ってある。
それだけで勇気が出るんだ童貞は!
とりあえず、お巡りさんに止められない限りは大丈夫だろうと自分に言い聞かせながら、冒険者ギルドへと向かっている。
向かっているんだよな?本当にこっちだよな?
ダロス君は、将来的に追放されて冒険者になるかもしれないと考えていたようで、何となくの住所だけ調べていたようだ。
でも、実際に行ったことがあるわけではないらしく、現在非常に心細い情報を頼りに移動しています。
カーナビが無い時代に、どこぞの秘湯にでも行こうと思ったらこんな気分だったんじゃないだろうか?
それにしても、やけに皆こちらを見てくるな。
何か俺に注目する要素でもあるんだろうか?
寝ぐせが無い事はサロメに確認してもらったし、股間のチャックは自分で確認した。
ここまで一様に注目される理由がわからない。
「なんで皆こっち見てるんだ?」
「この乗り物と、乗せてる魔獣のせいじゃないですか?」
「そうなの?じゃあもっと気持ち悪いデザインにしてキャーキャー言わせてやればよかったか……?」
「新しいダロス様って色々アレですよね。……今度やりましょう。」
俺も注目される事にちょっと緊張しているけど、サロメもそこそこ緊張しているのが握られた手から伝わってくる。
この世界初心者と、美人の引きこもりメイドのペアだからな!
そうこうしていると、遠くに剣とピッケルが交差してる間に、頭蓋骨が描かれている看板が見えてくる。
ダロス君の記憶だと、あれが冒険者ギルドの看板のはずだ。
まさか、王都の大通りっぽいとこに面したデカい建物にあるとは思ってなかったな。
これ多分、商業系の建物としては一等地なんじゃないか?
冒険者ギルドの前に4号君を乗り付けて、脚を畳み座らせる。
ちょっと通行の邪魔かもしれないけれど、すまんな!
「じゃあ、ちょっと中で交渉してくるから、ここで荷物みててくれ。」
「私をこんな危険な場所で一人にするんですか?」
「人目があるし多分王都でもっとも安全な場所の一つなんじゃないか……?まあ3号を操作して護衛しとくから、心配しなくていい。何かあったら駆けつける。」
「……絶対ですからね?」
この娘ここまで対人恐怖症的な感じなのか?
まあ、何があったのかよく知らんけど、優しくしてやろう。
この世界で数少ない味方だしな!流石にボッチはやだ!
建物の中に入ると、イメージと違って清潔さを重視した内装が目に入った。
もっと荒くれ者たちが、汗臭い臭いを漂わせながら、ラム酒を煽ってガハハってやってるのかと思ってたけど、少なくともそういった輩は見当たらな……、いやいるわ。
しかも、カウンターの中っぽいとこにいるわ。
あれ職員か?なんでジョッキでぐびぐび飲んでんの?アレ酒だったりしないよな?なんでモヒカンなの?
俺は、とりあえずあのヤベー奴から一番離れたカウンターへと向かう。
可愛い女の子が座ってる場所だ。
おっぱいも大きい。
結婚したい。
いや別に邪な理由でここを選んだわけじゃないぞ?
ただあのヤベーのに関わる確率をできるだけ下げたいだけだ。
本当だぞ?
「すまない、狩りで捕まえた獲物の素材を売りたいんだが、ここであってるか?」
一応俺は貴族らしいので、貴族っぽく偉そうに言ってみる。
マウントは、先に取った方が勝ちだ。
「素材買取ですね!では、冒険者登録証の提示をお願いします!」
「……冒険者登録証?」
「あれ?もしかして未登録でした?未登録の方からの買取は行っていないんですよ。最低ランクでもいいので、登録して頂ければ問題ないんですけど。」
会員限定サービスなのか!?
身分証明書がないと登録できないんだろうか?
いきなり躓いたかもしれないな……。
ダロス君そんなもん証明する方法ないかも……。
「すまないが、登録の仕方が分からない。身分を証明するものを持っていないんだが。」
「それなら大丈夫です!ちゃんとご説明しますし、身分を証明することができない人なんて冒険者にはたくさんいらっしゃいますから!冒険者登録証自体が身分証として機能してくれますよ!」
それはそれでどうなんだ?
身分確認ガバガバすぎて色々問題ないか?
俺が口出すことじゃないだろうからスルーするけどさ。
「じゃあ、登録の仕方を教えてくれ。生肉もあるから早く売ってしまいたいんだ。」
「そうでしたか。それでは、登録作業の間に査定もしてもらいましょう!お荷物は、どちらにございますか?」
「店の前に置いてある。」
「それでしたら、買取担当の職員を呼んで参りますので、案内をお願いします。」
そう言うと、受付のお姉さんが立ち上がり、先ほどのモヒカンの方へ行く。
ちょっと待て。
あのモヒカンは、買取担当の職員だったのか?
どう好意的に見ても精々がヤベー客が来た時にぶつけるヤベー奴だろ。
勘違いであってほしいという願い虚しく、モヒカンはこっちまでやってきた。
「アナタが買取希望の方ですね?私、このギルドの長をしておりますティモテ・ジルロンと申します。周りからは、単純にギルマスと呼ばれております。」
なんか理性的な挨拶してきたぞ?
魔猪(推定)に遭遇した時よりビビってるんだが?
「……えーと、ダロス・ピュグマリオンです。よろしくお願いします。」
くっ!敬語を使ってしまった!貴族っぽい感じでマウントとりたかったのに、インパクトで心が敗北してしまっている!
「ピュグマリオン……失礼ですが、ピュグマリオン公爵家の方ですか?」
「あー、はい。4男坊ですね。」
「成程、それで、公爵家の方がどのようなものを?」
「でかいイノシシですね。肩までの高さが2mくらいの。」
「……2m?それは、魔獣化していてもそこそこ大きい個体だと思うのですが、魔猪という事で間違いございませんか?」
「正直わからないです。遭遇したので倒したというだけで、魔獣なのかどうか判別できる程イノシシの知識が無いので。」
「わかりました。では、早速査定に入らせていただきますので、そのイノシシの素材がある場所まで案内をお願いします。」
不味いな。どう考えてもおかしい。モヒカンが喋ってる内容がマトモなせいで、頭に入ってこない。
それでも、とりあえず4号の所までギルマスを名乗るモヒカンを連れて行く。
ここからは責任もって管理してくれるとのことなので、戻った途端手を握ってきたサロメを連れて、再びカウンターへ向かう。
先ほどのおっぱ……、お姉さんが戻ってきていたので、登録手続きをさせてもらおう。
「改めまして!私、今回登録手続きを担当させていただきますリリアーヌ・ルドリュと申します!早速ですが、冒険者登録をするのは、ダロス様だけということで大丈夫ですか?」
「いえ、折角なので、こちらのサロメも一緒に登録してください。」
仲間外れは嫌だろ?
俺も一人は嫌なんだよ!
「かしこまりました!それでは、それぞれこのカードにお名前をフルネームでご記入ください!」
「サロメは、字かける?」
「問題ありません。これでも貴族教育を受けておりますので。平民になりましたが。」
やめろよ……リリアーヌさんが困ってるじゃん……。
「名前を書き終わりましたら、名前の欄の隣にある円の中に指を押し当ててください。これによって、それぞれの魔力が登録されて、個人特定ができるようになります。」
「へぇ……。おおっ、何か魔力がちゅるっと吸われた気がする!」
異世界の不思議技術だなぁこれ。
偽造とかできないんだろうか。
きっと偽造が不可能に近いから、身元確認ガバガバでも登録できるんだろうなぁ……。
「これで冒険者登録が完了しました!初心者の方向けに、冒険者の心得説明会というのが毎週1回開かれているのですが、参加されますか?」
「うーん、今の所そこまでしっかりやるつもりもないので、とりあえず遠慮しておきます。もし、規約書とかあったら下さい。」
「そうですか……。冒険者は、危険な仕事なのでできるだけ事前に情報を得るようにしてくださいね。規約に関しましては、冒険者登録証の裏側に書いてありますので、そちらをご確認ください。依頼を受ける時は、ギルド内の掲示板に貼りだされる依頼用紙をとって、受付まで持ってきてくださいね!もしご希望でしたら、こちらの受けつけでもお勧めのクエストを選んでお伝えすることも可能ですのでご利用ください!」
説明は終わったけど、査定が終わるまでもう少し時間が掛かりそうという事で、カウンターから離れてギルドの中を見て回ることにした。
サロメが何故か不機嫌だけど、何かあっただろうか?
それにしても、さっきの受付の人は好感の持てる女の人だったな。
おっぱい大きかったし。
多分、そういうビジュアル面も加味して受付に選ばれてるんだろう。
あの人になら、多少の無茶な依頼でも頼まれれば受けちゃいそうだもん。
なんてことを考えてたら、サロメにほっぺを抓られた。
「ダロス様は今、脳より下半身で思考していませんでしたか?」
「鋭いね?実はサロメの手がすべすべで、ちょっと興奮してた。」
「……まあいいでしょう。あとですね、胸の大きさなら私も負けていませんよ?」
わかってるよ。
考えないようにしてるんだよ。
同居してる相手が若い男だってことわかってるのかお前?
依頼書が貼りだされている掲示板を眺めてみる。
毎日早朝に貼りだされるらしいので、この時間は残り物しかないそうだ。
それでも、雰囲気くらいはつかめるだろうとみてみたら、夢も希望も無い依頼ばかりだ。
下水清掃、糞尿処理、死体処理、ゴミ拾い。
どれもこれも残るのがわかりやすい物ばかりだ。
中には、魔物を倒す依頼も幾つかあるけれど、どれも常に貼りだされる初心者用の物か、もう何年も貼りっぱなしになっているような色褪せたヤバそうなやつだ。
この世界の魔物とは、体内に魔石を持っている存在全般の事であり、その中でも身近な獣が魔石を獲得して変化した魔獣と呼ばれる存在が一番有名だ。
なんせ高級な食べ物になるから。
それ以外だと、鉱物などに魔力がしみ込むことで魔石が生成されたゴーレムなんかがポピュラーらしい。
え?この世界そんなポンポンゴーレムが出てくるの?
嫌なんだけど……。
そういや、今日倒したあのイノシシって結局なんて種類なのかなぁ。
魔獣っぽいってだけで魔猪っつってたけど、全く関係ないただのデカいイノシシだったら恥ずかしいな。
なんてことを考えていると、さっきのモヒカンギルマスに呼ばれた。
「お待たせしました。今回、ダロス様が持ち込まれたイノシシなのですが、鑑定の結果『ブラックボア』と呼ばれる魔獣から、更に特殊な進化をした特異個体の魔物であったと判明いたしました。」
「へぇ、ブラックボアですか。よくわかんないですけど、美味しかったです。」
「ダロス様は、ご自身で討伐されたとのことですが、可能であればどこで遭遇したのか教えて頂けますか?」
「どこ……?うーん、公爵家の裏手の森の中を20分くらい歩いた場所でしたけど、詳しい場所を説明するのは難しいです。こんな感じでいいですか?」
「ありがとうございます。それにしても、あの辺りにブラックボアの特異個体が出るなんて聞いたことがありません。もしかしたら、何か異変が起きている可能性がございますので、何かお気づきの事が事がございましたら、後日でも構いませんのでお知らせください。」
「わかりました。ところで、特異個体ってなんですか?」
「先ほども申しましたが、魔物の中で特殊な進化を経た存在ですね。ブラックボアの特異個体の場合、同種のブラックボアを何頭も捕食すると、特異個体化すると言われています。ですから、ブラックボアが生息していない地域で出現することはあまり考えられないのですが……。」
モヒカンが真面目な顔で考え事してる……。
未だに慣れんぞ。
「おおっとそうでした。買取の査定額なのですが、骨格と肉、革、そして魔石で、合計2000金貨で如何でしょうか?」
うん、貨幣価値が分からない。
「なあサロメ、金貨2000枚ってどんな額?」
「……公爵家に仕えている使用人たちの1月の給料が最大で50金貨くらいだそうですよ。」
つまり、公爵家の使用人の給料3年分以上?
なんでそんなに高いんだ?
「高すぎません?」
「いえいえ!寧ろ多少安いくらいです。ここから更に商人たちや貴族の方が買っていかれるわけですから、手数料分が抜かれてますので。そもそも、ブラックボアの毛皮や骨というのは、貴族や有力商人の間でとても人気が高く、絨毯や壁飾りの材料として引っ張りだこです。しかも、今回はその特異個体。更に、傷も殆ど無い完璧な状態とあって、これは久々のギルドオークションが開催される可能性があるほどの一品です。更に、肉もとても丁寧に処理がされており、既に王都でもトップクラスのレストランから注文が来ております。恐らく、本日ダロス様がここまでくる間に、ブラックボアの特異個体であると見抜いた料理人がいたのでしょう。」
随分高く評価されてるんだなあのイノシシ。
ウンコしながら木の根っこ食ってたくせに。
ウンコするだけでお金貰える仕事かよ。
いや、あいつは喰われるだけか。
「更に、今回は特大の魔石が採取できましたので、こちらは王城の方で買い上げになるかもしれません。」
「魔石?そういやさっき言ってましたね。魔獣は魔石持ってるって聞きますけど、そんなのどこにありました?」
「魔獣は、基本的には心臓に魔石を持っています。今回のブラックボアは、心臓に特大の魔石を持っていました。小さい魔石は、いくらでもそこらのモンスターから採取できるのですが、今回のブラックボアの魔石サイズだと、年に1つ流通すればいいほうという所ですね。買取額の半分は、この魔石の値段となっております。このサイズの魔石を採取できるモンスターを倒す方なら、大抵ご自分で魔石を利用してしまうので、市場に流れないんですよ。」
ほへぇ……。
金貨1000枚分の魔石があの心臓に入ってたのか。
心臓なんて後で食べようと思ってて、完全に忘れてたわ。
てか、デカい魔石って特殊な何かに使えるのね。
魔道コンロだの魔道ボイラーだのにも使えるかな?
「じゃあその値段でよろしくお願いします。」
「かしこまりました。お支払いは、現金でよろしいですか?当ギルドでお預かりすることも可能です。冒険者ギルドに預けて頂ければ、冒険者登録証に紐づけされるので、他の冒険者ギルドでもお引き出しすることが可能ですよ?」
お!冒険者ギルドってのは銀行もやってるのか!
それは親切だな!
「因みに、預けている冒険者が無くなった場合、遺族がいなければギルドで回収ということになっておりますので、是非ご利用ください。」
すげぇニコニコしながら言いやがったなこの野郎。
モヒカンらしさがとうとう出てきやがった。
「では、金貨500枚分だけ現金でお願いします。残りは預金で。」
「かしこまりました。」
なんとか終わったみたいだ。
あー、物を売るって大変なんだなぁ。
パソコンぽちぽちで商売できる世界が恋しいよ……。
「そういえば、一つ聞きたかったことがあるんですけどいいですか?」
「はい、なんなりと。」
「さっきどうしてカウンターの中でジョッキを煽ってたんですか?」
「ははは、アレはただの能力上昇薬ですよ。査定には、臭いや味で行う物も多いですからね。繊細な作業の場合は事前に飲むようにしております。本当は、後任に任せたい所なのですが、なかなかいい人材がみつかりませんので……。ですので、私がギルマスと掛け持ちなんですよ。」
へぇ……。なんか貴重な人材なんだなこのモヒカン。
「モヒカンなのはなんでですか?」
「趣味です。」
趣味か。
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