第6話
そう!獣をその比類なき性能で狩って俺に肉を提供するのです3号!
だって、ダロス君いっつも食堂で肉の切れ端とか野菜の切れ端とかパンの切れ端恵んでもらって生きながらえてるんだもん。
可哀想すぎない?サロメちゃんもそれで何年も我慢してるんだからすごいわ。
それを竈で焼いて終わり。
しかも焼いてるのはメイドのサロメじゃなくてダロス君です!
最初は、サロメも自分で焼こうとしたらしい。
でも、消し炭にしたからお役御免となったんだってさ。
サロメちゃん元貴族令嬢だもんね……。
料理できないもんね……。
なので、ちゃんとしたものが食べたいんです!
幸いなことに、公爵家のこの王都本邸は、裏がそのまま森に通じていて、獣が生息しているんだとか。
獣の体内に魔石が発生すると魔物になっちゃうらしいけれど、ここら辺はそこまで魔物化した獣というのはいないらしい。
獣よりも、魔物になってからの方が美味しいらしいけれど、力も凶暴性もマシマシだと言う事で、この世界ではまだ初心者マークの私といたしましては、絶対近寄りたくない対象ですね。
因みに、魔物と魔物が交尾して生まれる子供は、獣じゃなくて、魔石を持った魔物になるんだとか。
不思議だね?
狩りのターゲットは、ウサギもしくはイノシシだ。
ダロス君の記憶によると、細かい種類や修正はわからないらしい。
ただウサギ、イノシシって覚えてるみたいだ。
生物学舐めてんのか。
味は、ウサギの方が野性味が少なくてマイルドな高級食材みたいだけど、警戒心が強くて中々捕まえられない。
対してイノシシは、前世のイノシシと比べて攻撃的で、近づいてくる人間を積極的に攻撃するんだとか。
前世のイノシシは、突撃することで相手をビビらせて逃げるって言うのがメインだったみたいだけど、こっちの世界のイノシシは、そんなマイルドな性格ではないらしい。
肉の味もマイルドじゃないそうだけど、体力はつくんだとかで兵士たちが好んで食べるとか。
というわけで、狩り素人の俺に狙えるとしたら、イノシシになるのかなぁ。
3号と一緒に森に入ってみる。
すると、早速獣道のようなものを発見したため、なにも当てが無いよりはと思い辿ることに。
しばらく行くと、変な臭いがしてきた。
俺の直感が働く……。これは、ずばり獣臭!
いやちょっと待て。仮にこれのニオイの元がイノシシだとして、俺はそれを食うのか?
冷静に考えると、前世で食べてた牛とか豚も、ウンコもシッコもしてたんだと知識としてはわかってるけど、捌いたりしてる所はイメージしてなかったな。
正確には、無意識にイメージしないようにしてたのかもしれないけれど。
魚ならまだいいけどなぁ……。哺乳類かぁ……。
いや!ここで引いちゃだめだ!だって肉食べたいもん!
そもそもこの臭いの元がイノシシかどうかもわからんし。
「フゴッ フゴッ」
無情にも、イメージピッタリの鳴き声が聞こえてきた。
3号をこっそりと進ませると、獣道の先にある少し開けた場所に大きなイノシシが1頭いた。
てか本当にデカいな!?肩までだけで2mくらいあるぞ!?
あと色が全体的にどす黒い!すごい禍々しい!
うん、これはダロス君の記憶見なくてもなんとなくわかるよ。
魔獣だよねこれ?
これぞ魔獣っていうか、これが魔獣じゃなくて普通の獣だったら、俺この世界で生き残る自信ないよ。
推定魔獣のイノシシ君、以降『魔猪』って呼ぶか。マチョね。マッチョじゃないよ。
その魔猪君は、現在絶賛ごはん中らしい。木の根を掘り起こしてぼりぼり食ってる。
ごぼうか何かみたいに食ってるけど、あれ太さ30cmくらいある根っこだぞ?
3号が小さいから、その視点からだと更に大きく見えるっていうのはあるかもしれないけれど、それを加味してもヤベーよ。
あっ、食いながらウンコまで始めた。
やりたい放題だなコイツ。
感じからして、天敵と呼べるものがいない強者の風格があるな。
ヒグマでも、同種のヒグマと出会うのを恐れてコソコソ活動するというのに、緊張感のかけらも無いなこの魔猪野郎。
いや野郎かはわからんか。
まあでも、折角だしこいつを狩るか。
正直怖いけれど、魔獣は美味しいらしいからな。
仮に3号が負けても、俺が逃げ切れるならそれでいいわけだし。
俺は、美味い肉が食いたいんだ!
イノシシの一番の急所は、分厚い筋肉や骨に守られた心臓のはずだ。
猟銃で撃たれればそれでおしまいってくらいの急所だけれど、あの全高2mの肉だるまの急所を3号のちっちゃなお手々でぶち抜ける気がしない。
となると、耳の後ろの辺りを狙うのが最善だろうか。
確かあの辺りが、頭蓋骨と頸椎が交わる部分で、ここを砕けば即死させられるって聞いた気がする。
いや頭蓋骨と頸椎砕かれたらそりゃ死ぬよ。
俺でもわかる。
幸い、3号は現在、魔猪君のケツアナが見えるくらい真後ろに待機してる。
うん、ケツがうんちだらけだ……。
ホントに……狩りが成功したらアレを食うのか……。
考えが脱線した。
作戦としては、シンプルに行こうと思う。
最短距離を走って、相手が行動を開始する前に叩き殺す。
だって3号は、武器持ってないもん。
拳が最大の武器だから他に方法が無いもん。
精々がキック?
頭の中で打ち合わせも済んだし、早速行動を開始しよう。
獲物を前に舌なめずりは何たらかんたらっていうしな。
実際には、ウンコのインパクトでそれどころじゃないが。
3号の操作に集中する。
自分の中の最高の動きをイメージする。
走り出しから最後まで前傾姿勢で無理やり加速し、頭の直前で一気に方向転換して拳を耳の後ろに叩きこむ。
木の幹を貫通できる威力なんだし、これで倒せる……と思いたい。
無理そうなら、3号には尊い犠牲となってもらって俺は逃げる。
作るの楽しかったし、愛着もあるけれど、流石に心中するつもりはないんだ。
ごめんな。
脚を踏み出す。
自分の体では実現できない程の躍動感。
あっという間に尻を通り過ぎた。
魔猪君は、まだ気が付いてないように感じる。
そのままさらに加速し、肩を通り過ぎた辺りで左脚を軸に回転し、右腕に全ての運動エネルギーを送る。
この時、初めて魔猪の目がこちらを見て、驚愕したのが分かったけれどもう遅い。
3号の右腕は、何の抵抗も感じないように魔猪の耳の後ろに差し込まれた。
いや、本当に抵抗全くないんだけど、幻とかじゃないよね?
どうなったのかわからず、とりあえず魔猪の様子を伺うと、白目を剥いてビクンビクンしているのが見えた。
3号が腕を引き抜くと、そのまま倒れる魔猪。
痙攣はしてるけど、生きてる感じはしない。
これ死んでるよね?そうだよね?
うん、成功したっぽい。
やったぞ!肉ゲットだ!これで育ち盛りのダロス君も満足できるはずだ!
確か、狩った獲物はさっさと血抜きしないといけないんだったか?
栄養の事考えたら、血は残した方が良いのかもしれないけれど、元々血なまぐさい肉をさらに血なまぐさい状態で食うなんて、現代っ子の俺には耐えられない。
自慢じゃないが、肉なんてスーパーの肉コーナーでパッケージに詰められた奴しか買ったこと無いぞ。
とりあえず頸動脈を切ろう。
3号の手刀であっけなく切り裂かれる魔猪の首元。
新鮮な血液が溢れだしてくる。多分まだしばらくは心臓が動いているんだろう。
さっさと出て行ってくれよ?俺は美味しい肉が食べたいんだ。
血抜きと並行して、内臓をさっさと取り出してしまう。
確か、腸はすぐ腐るし、臭いも酷いから即廃棄がいいって聞いたな。
飼育されてる牛や豚の腸ですら、食べるためには徹底的に洗う必要があるんだ。
こんな野生動物の極みみてーなやつの腸をそこまでして食おうとは思えん。
またまた3号の手刀で腹を切り裂いていく。
すると、内臓がこぼれ出てくる。あー、この長いのが腸か。この辺りは全部切り取って廃棄っと。
それ以外の内臓も基本廃棄でいいかな。
レバーなんかは美味しいらしいけど、生物濃縮とか考えるとちょっとなぁ。
見た感じデカいから、この魔猪君は結構長く生きてる気がするし、老廃物が溜まりやすい肝臓は遠慮したい。
心臓だけは取っておこう。ハツは、割とどんな獲物でも新鮮なら美味しいらしいからな。
血抜きしないと血の味しかしないそうだが。
因みに、この作業中俺はずっと吐いてました。
自分の本体が吐いてても、不思議と3号の操作には支障が無かったのがわかったのは幸いでした。
ただしもう俺の口からは、ため息と胃液しか出ません。
思ったより内蔵がグロかったです……。
血を抜いて、内臓を取り外すと、大分軽くなったような気がする。
まあ、体の中身がごっそりなくなってるわけだしな。
それでもデカいなぁ。
3号で運べるだろうか?
いくらパワーがあると言っても、3号の大きさ的に持ち上げる事は無理だ。
という事で、魔猪のデカい牙を掴んで引っ張ってみると、頸椎も砕けてるはずなのに問題なく引き摺ることができる。
どんだけ頑丈なんだコイツ?それを苦も無く倒せる3号も中々ヤバいな。
帰り道の途中に小川があったので、そこで魔猪を洗っておく。
もう徹底的に洗う。
特にケツをな!
なんとか、見た感じ奇麗になったと思う。
やっとの思いで小屋に帰って来た時には、既に朝8時ごろになっていた。
この世界、時間と時計という概念は、前世の世界と同じく存在しているけれど、残念ながらダロス君の持ち物に時計なんて高級品はありません。
時間は、腹具合と太陽の位置で何となく把握している状態です。
小屋まで帰ってこれたので、最後の仕上げに取り掛かる。
まず、皮を剥ぎます!肉と皮の間に3号の手刀だ!いいぞ!一気に肉っぽくなってきた!
そしてしっぽと頭を外す!なんかコイツの皮と頭蓋骨は売れそうだから奇麗にしておこう。
皮のなめし方とかわからないから、二束三文かもしれんけどな。
何にせよ肉だ!他はおまけだ!
ああいや、ジョブの確認実験がメインだったか?
よくわからなくなってきた。
だってお腹空いたもん!目の前に肉があるんだもん!
とりあえず解体は無事終了したと言っていいと思う。
素人にしては上出来なんじゃないか?
まあ、やったの全部3号だけど。よく頑張ったな3号
俺がゲロ吐いてる時ですら頑張ったんだから誉めてやろう。
取り合えずという事で、2人分くらいの肉を切り分けていると、小屋の方から人の気配がした。
「……えーと、何をなさっているんですか?」
サロメちゃんがまだ眠そうな顔でやってきた。
今起きたのかい?君本当に使用人なのかい?
「ジョブの確認のために狩りに行ったら、なんかデカい猪がいたから狩ってきた。食うぞ!」
端的に状況説明をしてみた。
サロメも何かいいたかったようだが、全てを飲み込んでこういった。
「お肉、もう少し多めにしてもらえますか?」
「お前のそういう正直なところ好きだぞ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます