第3話
公爵邸まで戻ってきた俺ことダロス君。
ピュグマリオン公爵家、比類なき武勇を誇る貴族であり、強さこそ絶対という家訓があるらしい。
だからお人形さんを動かすだけのダロス君が疎まれるわけだけどもね。
そんな貴族の邸宅となると、当然デカい。
ここは、ピュグマリオン公爵領にある城じゃなく、王都本邸なんだがそれでもデカい。
東京ドーム何個分の敷地なんだろう。
東京ドーム行ったこと無いからわからんけど。
ダロスの記憶によると、基本的に敷地内を移動するときでも、馬か馬車で移動するのが普通らしい。
ただしダロス君は除く。
武勇を誇るなら走れよと思うけども、俺が言っても多分誰も聞かんだろうな。
家に帰ってきたけども、デカい本邸には向かわない。
ダロスの住処は、庭の隅に建てられた掘っ立て小屋だ。
本邸の中に居るところを見られたら、何を言われるかわかったものではない。
「何故貴様がここにいる!」程度ならマシで「さっさと犬小屋に帰れ!」くらいは言われそうらしい。
もっとも、ジョブの実験がしたい俺にとってはこっちのほうが良いかもしれないけども。
誰にも邪魔されない環境最高!
2号くんは、人形化を解除すればすぐ地面と一体化しちゃう1号くんと違って、簡単には消せなさそうだし、下手に文句言われないこの環境は嬉しい。
大貴族様にとっては犬小屋程度のサイズでも、庶民の俺にとっては十分な家だぜ!
「ただいまー!」
テンションが上がって挨拶してしまった。
まあ、前世からずっと家に帰っても家族なんていないんだが。
「おかえりなさいませ。」
「うおお!?」
誰もいないと思っていたら、小屋の中にメイドがいた。
顔を見てやっと記憶が呼び起されたが、この娘はサロメ・ロアエク。
ダロスと同い年の15歳で、ダロス付きのメイドにされている。
されている……、というのは、彼女もこのピュグマリオン公爵家で疎まれる存在だからだ。
元々は、このサロメって娘も大貴族の令嬢だったらしいけれど、父親と兄がやらかした結果お家が取り潰しになって、迷惑をこうむったからと意趣返しも兼ねてピュグマリオン公爵がメイドに雇って俺につけたらしい。
そういうことは、先に教えておいてくれよダロス君。
いや、勝手に独りぼっちだと思って思い出そうとしなかった俺が悪いのかもだけど。
「如何しました?」
「……いや、なんでもない。」
記憶によると、サロメは何考えているのかよくわからない女の子らしい。
まあ、一緒に住んで世話してもらってるだけで、全く親しいわけでもないみたいだしな。
ってかね、この娘元々お嬢様だから仕事なんてあんまりできないんだよね。
精々掃除くらい?
ごはんは、ダロスが食堂で余りものをもらって来て2人で分けて食べてたらしい。
悲しすぎんか?
「イレーヌ様とはどうでした?」
「うん、婚約解消になるかも。」
「それは良かっ……はい?」
お!記憶の中でもあんまり感情を表に出さないサロメにしては珍しく驚いた表情してるぞ!
「家まで行ったら庭で第3王子と仲良く散歩してた。んで、泣かして帰ってきた。」
「それは……そう……ですか……。」
どう反応していいのかわからないって感じだな。
まあサプライズにも程があるよね。
「イレーヌとの婚約が無くなったら、ピュグマリオン家にとって俺を養う価値はなくなるかもしれない。そうなると、放逐されちゃうかもしれないなぁ。それならそれでもいいけど、そうなる前にジョブの習熟はしておきたいかな。だからちょっとうるさいかもだけど、許してな。」
「うるさいのは構いませんが、本当に放逐なんて事になるのでしょうか…?」
「可能性は、結構高いと思うな。イレーヌと小さいころから婚約してたから俺でもまだ利用価値があっただけで、それが無くなったらあの人たちにとっては邪魔でしかないだろうし。」
この世界の人間は、10歳になるとジョブが貰えるらしい。
貴族においては、戦闘系のジョブこそが至高であり、それ以外だと文官になるようなジョブもちしか求められていないとか。
人形動かすのは、演劇か何かとしか認識されていないこの世界だと、ダロス君の価値なんて無いに等しい。
因みに、サロメのジョブはアサシン。
戦闘系のジョブではあるが、正々堂々戦うタイプのものではないため、あまりいい評価を受けていないらしい。
それでも、護衛とか諜報には良いんじゃないかと思うけど、そういう関係の人たちは大っぴらに良さを宣伝しないのかもな。
「放逐ならまだいいけど、もし家の恥を雪ぐとか言って殺しに来たら俺は全力で逃げるから。サロメも一応身の振り方考えておきなよ。俺のついでにサロメも消しに来る可能性も無くはないしさ。俺がサロメは助けてやってくれって嘆願しても、多分聞いてもらえんし。」
「……わかりました。では、その時はご一緒させていただきます。」
うん、これでとりあえずはいいか……。
ん?
「今ご一緒にって言った?」
「はい。」
「俺と一緒に逃げるの?」
「できれば。」
「俺はいいけど、給料なんて出ないよ?俺は、金なんてほとんど持ってないし。」
「では、2人で冒険者でもしますか。」
なんだろう、なんかグイグイ来るなこの娘。
記憶と違って、やけに仲良さげなんだが。
「まあ、サロメがきてくれるなら俺は嬉しいけどさ。」
「……先ほどから気になっていたのですが、アナタは本当にダロス様ですか?」
おっとー?
なんかいきなりぶっこんできたぞこいつ。
「そうだよ?どう見ても俺は俺でしょ?」
「ダロス様の一人称は僕ですし、歩き方も今日の朝までと今では変わっています。」
何この娘……ストーカーか何か……?
あーそうか!アサシンってそういうのもわかるやつなのか!
じゃあ、ウソもわかるスキルとかあるかもだし、正直に話しちゃうか。
逆に信じがたい内容だし。
「んー。じゃあ今日起きたことを説明するよ。他言無用な。」
「わかりました。」
それから俺は、サロメに今日起きたことを話した。
イレーヌと王子の話まではしていたので、それを見たダロスが憤死したこと。
その体を女神が治して消えたダロスの魂の替わりに俺を入れた事。
それらの事をネタにイレーヌを泣かせて来たこと。
神人形師の可能性に目覚めていろいろ実験しながら、自作人形に乗って帰って来たこと。
「中々の大冒険だろ?」
「まあ……はい。」
主人が死んでて、その体に他の人間が入ってて、しかもそいつは王族に目を付けられてるっぽくて、その王族のお気に入りっぽいイレーヌを泣かせて来たのだ。
びっくりだよねー。
「それを聞いたうえで改めて聞くけどさ、それでも俺についてくるの?」
「はい。」
何故か意志は固いようだ。
まあ、物凄い美人だし俺はいいんだけどさ。
「理由聞いてもいい?そこまで慕ってもらえるのが不思議なんだが。」
「給料が比較的高いのと、ダロス様の担当メイドは蔑まれるとはいえ、仕事は楽でしたので続けていましたが、ダロス様がいなくなるのであれば、今度は全ての嫌がらせの対象は私に向くでしょう。それに耐えてまでここで働く気もございませんので。」
「盾が無くなるからか……。」
「それに、今までのダロス様は頼りない印象でしたが、今のダロス様は、少しだけ頼ってもいいような気がします。私は、没落する前は上流階級でしたし、家が取り潰しとなった今でも庶民の生活に馴染めるのかわかりません。正直にいいますと、生きていく自信が無いのです。依存でも、傷の舐めあいでも構いません。傍に置いてください。」
この娘正直だねぇ。まあそういうの嫌いじゃないけども。
「いいけどさ、俺だって男なわけだ。サロメみたいに美人でスタイルもいい女の子が隣にいたら、いつ理性を失って欲望の限りを尽くすかわからんよ?」
なんつって。
俺は前世から童貞ですけども。
それでも、金のない2人が一緒に逃亡生活なんてなったら、そのくらいは覚悟してもらわないといけないだろう。
って事で脅してみたんだけれども。
「構いませんよ?というか今から犯しますか?担当メイドなんてそういう仕事だと理解しております。にも拘らず、未だに私の身が清いままなのは、てっきりダロス様にとって興味の出ない不細工に見えているのかと思っておりました。」
「何言ってんだお前。しねぇよそんなこと。もっと体大事にしろ。」
思わず脅してたのを忘れて言い返してしまう。
すると、見たこともないほど楽しそうにニヤッとしながら。
「童貞っぽいですね。」
なんて言ってくる。
何だお前!
何だお前!!
「悪かったな童貞で。」
「私も処女なので。」
…………なんだお前。
「因みになんですが、少なくとも没落する前の私の家にだと、担当メイドはその担当貴族の慰み者だったって事は別に冗談じゃないですよ?」
「そんなんだから取り潰されたんじゃねぇのか?」
「……否定できないですね。」
いやそりゃあね?
美人のメイドさんとならしたいですよ?
でもさ、そういうのって愛が必要だと思うんだよね。
俺って初めては重要なものだと思ってるし?
「あと、今のダロス様になら犯されても構わないって部分も冗談じゃないので。」
………………なんだお前マジで。
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