第2話

 暗い暗い場所から意識が浮上してくる。


 確か、俺は倒れたはずだ。


 脳みそ破壊された衝撃らしいが。




 目が覚めてきている感覚があるって事は、とりあえず生きてはいるって事かな。


 でも、後頭部からなんだか体感したことが無い気持ちのいい感触がする。


 しかも、良い匂いまでしてくるような。




 軽いうめき声を上げながら目を開けると、覗き込んでくるイレーヌの顔が見えた。




「お目覚めになられましたか?」


「……ここは?どういう状況?」




 俺は、どうやらイレーヌちゃんに膝枕されているらしい。


 女の子に膝枕してもらったのなんて前世も含めて初めてだなぁ。




「ダロス様は、先ほど突然倒れられたんです。お怪我は無さそうなので、こうして安静にしておりました。」


「ふーん。王子は?」


「……その、先ほどお帰りになりました。」


「そう。」




 成程、ダロス君に浮気現場を見られたから、俺の反応にビクビクしているわけだな。


 王子は、そそくさと逃亡したと。


 まあいいや。それよりも今俺が一番気になってるのは、ジョブとやらについてだ。


 神様がくれた神人形師の力かぁ。試してみたいよなぁ!




「よっ。」




 俺は、あおむけの状態から脚で勢いをつけて一気に立ち上がる。


 イレーヌちゃんがびっくりしてる。


 まあそうだよね、ダロス君こんなことするキャラじゃないもんね。


 話し方も大分違うから違和感あるよね。




 さぁてと、まず何から試そうか。


 うーん……ジョブとやらの使い方がわかんねぇなぁ……。


 とりあえず技名みたいに叫んでみればいいのか?




「神人形師!!!!!!」


「キャ!?」




 カッコいいポーズと共に叫んでみたけれど、特に何も起きない。


 イレーヌちゃんがびっくりしてるのがちょっと可愛いくらいだ。




「あの、何を……?」


「いや、ジョブってどうやって使うのかなって。」


「ジョブですか?それであれば、頭の中で念じると、使い方が思い浮かぶはずですが……。」




 ほうほう成程。なかなかいい教師じゃないか。


 言われた通り念じてみる。


 すると、ゲームのステータス画面みたいなものが表示された。






 ―――――――――――――――――――――――――――――






 神人形師:レベル1


 解放スキル:人形生成、人形操作、人形強化






 ―――――――――――――――――――――――――――――






 ……いやゲームかよ!?何だよこれ!?




 そういや、アフロディーテさんもゲームみたいなことしてるっつってたっけ?


 まあ、人間に使わせる以上わかりやすさは重要なんだろうけど、俺はゲーム感よりファンタジーさの方が欲しかったなぁ。




 まあいいや。


 それよりさっそく使ってみようぜ俺!




「人形生成!!!!!!!」




 再度カッコいいポーズと共に技名を唱える。


 すると、地面がモリモリ盛り上がっていき、次第に人型になってきた。




「へぇ、これが人形かぁ。イメージと材料次第でもっと色々作れそうだな!」




 はい、もう俺ウキウキです。


 いやぁ、プラモ作ってる時に一度は考えるよね。


 こうやって自分だけの機体を即座に作れる能力欲しいなって。


 まさか本当に手に入るとは思わなかったけども。




 まあ、プラモはプラモで作るの楽しいんだけども!




「こいつは、いったい何ができるのかなぁ……。試していくしかないか。」




 所詮そこらの土で作った人形ではあるけれど、とにかくこいつが最初の基準になるわけだ。


 そうだなぁ、とりあえず近くの木でも殴らせてみるか。




「人形操作!!!!!!!!」




 うん、技名叫ぶのは気持ちが良いな。


 イレーヌちゃんがびっくりしたまま固まってるのもとてもいい。




 因みに、技名は別に叫ぶ必要無いらしい。


 念じるだけでいいんだけれど、良いギャラリーがいるとついついね。




 人形操作の対象になった土人形は、のそのそと狙いの木まで歩いていく。


 思ったよりトロいな。てか崩れてきてないか?


 それでもなんとか木の近くまでたどり着いたので、全力で幹を殴らせる。


 すると……。




「うん、弾けたな。」


「……弾けましたね。」


「人形がね。」




 哀れ、土人形の土は、元の土にまで還元されてしまいました。


 これじゃあ戦力にはならんな。


 となると、最後のスキルとやらを使うしかないか。




「人形強化!!!!!!!!」




 イレーヌちゃんが大分慣れてきてしまったようだ。


 ダメだぞう、キミにはもっとギャラリーとしてやれることはあるはずだ。




 強化されたはずの人形には、特に変化した所は見られない。


 まあ、見た目は変わらないにしても、性能は変わっているはずだろう。


 そう考えて、残っている左手で幹を殴らせてみる。




 ドオオオン……。




 そんな音を立てて、幹の直径が50cm程の木が倒れた。


 人形の左腕も吹き飛んだけれども。




「すごいなこれ。土でこれなら他の素材で作ったらどうなるんだろう……。」


「……す……す……」




 うん?なんかイレーヌちゃんがすっす言い出して




「すごいです!」


「うお!?」


「なんですか今のは!?人型の土を操ってあの太さの木を破壊なんてどうなっているんですか!?」




 イレーヌちゃんのテンションがアゲアゲだ。


 でも、超能力とかない世界……少なくとも無い事になってる世界から来た俺だからすごいと感じるけれども、この能力って凄いのか?


 ダロス君の記憶だけでも、土ゴーレムなんてものも存在しているし、この世界で暮らしてる人たちからは大したことないんじゃないかなぁ。


 事実、ダロスはハズレ扱い受けてたみたいだし。




「土ゴーレムとかに比べれば大したことないんじゃない?」


「いいえ!土ゴーレムは、確かに厄介な敵とされていますが、あのような破壊力のあるパンチは打てません!絶対的に強度が足りないのです!その強度の低さを利用し、傷をすぐに回復できるようにする事で、物理ダメージを低減させるという特性が厄介なんだと本に書いてありました!コアを体内で簡単に移動できるという点も大きいそうですね!なので、基本的に攻撃となると全身の体当たりによる質量攻撃なんです!」




 いきなり早口になったなこの娘。


 よくわからんけど、今の土人形は土ゴーレムよりはすごかったらしい。




「詳しいね?」


「あ……、えっと、ダロス様のお力になれるように勉強しておりましたので……。その、婚約者ですので……。」




 照れてる女の子って可愛いね。




 え?でも待って?君さっき王子様と仲良さそうに歩いてたよね?


 アレ無かったことになってるの?




「イレーヌは、俺と結婚するつもりなの?」


「……え?あの、それはどういう?」


「いや、王子様の愛人にでもなるつもりなんじゃ?」




 俺の言葉に、信じられない物を見たような顔になるイレーヌちゃん。


 それがまず俺には信じられないんだが。




「どうして……そのような……?」


「いや、さっき王子様と楽しそうに歩いてたじゃん。肩まで抱かれてさ。婚約者の俺が来る日にそれを見せつけるって事は、そういうことなんじゃないの?」


「違います!あれは王子が突然訪ねてきて、父から庭を案内するように言われただけで!」




 うーん、ウソは言ってないような気はするなぁ。


 でもさぁ、俺は、曲がりなりにも成人してるからそうやって冷静に考えられるだけでさぁ。


 思春期真っただ中のダロス君は、脳みそ破壊されちゃったわけよ。




 俺としては、まあ無かったことにしてもいいんだけどさぁ……。


 正直、今この瞬間はとにかく神人形師について実験をしまくりたいし……。


 ただ、この体に残ってるダロス君の記憶がさぁ、俺に語りかけてくるわけよ。


 スルーなんてできないなぁ。




 とはいえ言っちゃうか?言っちゃおっかなぁ!?


 言っちゃうときっとイレーヌちゃんめっちゃ傷つくけど、若い衝動が抑えられないなぁ!


 どうせ真実伝えても簡単には信じられないだろうし、カミングアウトしちゃえ!




「ダロスならさっき死んだよ。魂まで消え去ったらしい。」


「……はい?」




 鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってこんな感じだろうか。


 そりゃそうだよね。


 頭が狂ったかって思うよね。




「ダロスにとって、キミが婚約者だっていうのは、唯一この世界で生きる理由だったみたいなんだよね。そんなキミがさ、目の前で他の男に抱かれて楽しそうにしてるの見てさ、怒りと絶望で脳の血管破裂しちゃったらしいよ。感情が激しすぎて魂も壊れて、復活させられなかったってさ。」


「あの、何がなんだか……。」


「俺は、ダロスじゃない。ダロスの魂が消え去ったから、スペアとして入れられた存在……らしいよ?俺自身よくわかってないけどさ。」




 うん、全然理解できてない顔してるな。


 それでも、ダロス君が大変なショックを受けた事だけはなんとなくわかってきたようだ。




「で……ですが!私は、ダロス様を!ダロス様だけをお慕いしております!先ほどは確かにイカロス王子と談笑しながら案内しておりましたが、アレはあくまで社交的なもので……!」


「あー、うん、そうなんじゃないかなとは思ってるよ?」


「あ……それでしたら……。」


「でもさ、それは『俺』がそう思ってるだけなんだよ。『ダロス』の中では、キミは裏切り者のままだろうね。なんせ死んだし。」




 段々と、イレーヌちゃんの顔色が悪くなっていく。


 うーん、可哀想だとは思うけどさ、この体の元の持ち主の気持ちを優先してやりたいんだよなぁ俺は。


 なんせ俺の体だし。




「それにさ、キミの父上が王子を案内するように言ったんだよね?しかも2人きりで。」


「は……はい……。」


「ってことはさ、父上としては、ダロスとの婚約より、王子の婚約か、愛人にでもしたいんじゃないかな?これに関しては、キミの意志は関係ないんだよ。だって貴族だし。」


「そんな!?」




 イレーヌちゃん大分ヒートアップしてきたな。


 でも、純情ボーイの前で他の男に抱かれちゃうのはダメだよ。


 脳みそ壊れちゃうもん。




 そんな事を思いながら、俺は2体目の人形を作る準備をする。


 先ほど倒れた木を腕を再生させた泥人形で解体させ、木人形のパーツを削りだす。


 よしよし!泥で適当に作るのに比べたら、断然プラモっぽくなってきたぞ!




「皆酷いことするよね。ダロスの事虐める事に関しては余念がないよ。公爵家の子供相手なのに、周りが皆こんな扱いってことは、当の公爵家自体がダロスを疎ましく思ってるって事なんだろうなぁ。そうでもないと辞めさせるだろうし。だからこそ、イレーヌちゃんだけは信じてたんだろうにさ。」


「あっ…あ……私……私は……。」




 イレーヌちゃん泣き出しちゃったな。


 流石にここまでにしておくか。


 ダロス君の記憶からもたらされた感情だと、もっと言ってやろうと思ってたけど、泣いてる女の子見ると罪悪感が半端ないわ。




 2体目の人形も完成したしな!


 今度は、俺が乗れるタイプだ!




 高さ2m程、座席付きで二足歩行。


 頭をスペース的余裕がなかったから、前面に目みたいなマークを付けた。


 とりあえず強化してから乗って操作してみると、中々の速さで動けそうだ。




 てかね、ダロス君の記憶引っ張り出してたんだけど、イレーヌちゃんの家まで徒歩で来てるんだよね。


 普通こういう時って貴族なら馬車なんじゃないの?


 まあ、俺の考える貴族のイメージならだから、この世界でどうなのかはわからんけど。


 ダロス君の記憶は、あまりに碌な目に合ってないからその辺りもわからんわ。




「今日の所は、この辺りで失礼するよ。今後どういうつきあいになるかわからんけど、イレーヌは気にしなくていい。どうせダロスは消えたし、俺はそこまでキミに入れ込んでるわけでもない。キミの思い通りになるかは知らないけど、好きに生きるといい。それじゃ!」


「お待ちください……!ま、まって……!」




 イレーヌちゃんが追ってこようとしてるけど、置いてく。


 あそこまで虐めちゃうと、これ以上ここにいるのもちょっとなぁ。


 俺は、言いたい事言ってスッキリしたしな。




 大体、貴族社会で疎まれるハズレ子息のダロスより、そりゃ第3とはいえ王子の方がいいだろうさ。


 貴族としては、イレーヌちゃんの父親の判断が正しいと思うぞ。


 まあ、上手く行かなければ公爵家を敵に回すかもしれんけど。


 それとも、公爵も「まあ、ダロスとか嫌だよね!」って納得しちゃうかもしれんが。




 そんな事を考えながら、王都の貴族街を走る俺。


 街と言いながら、貴族たちの屋敷は敷地が広すぎて森の中みたいだけども。


 ダロスの記憶を頼りに走っていると、公爵邸が見えてきた。




「そういや、俺はダロスとして家に帰っていいんだろうか?家族には、中身が入れ替わってるってバレたりしないか?家族の絆的なやつで。」




 記憶によると、家族関係は最悪に近いので、大丈夫だとは思うけどもな。


 まあ、問題が起きたらこの2号くんで逃げればいいさ!








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