機械仕掛けの人形師

@mk-6

第1章

第1話

 やっと…………、やっとだ!


 やっと積んでいたプラモを消化できる!


 本来出来上がったプラモを飾るための棚に所狭しと押し込まれた箱たちよ!


 お前たちは、今日から数日の間に本来の形へと至ることだろう!




 おや?地震か?


 地震って言っても、最近は震度4くらい無いと気にならなくなってきたな。


 って思ってたらなかなか強いじゃないか!


 まずいまずい!飾ってあった完成品プラモやフィギュアたちが倒れてしまう!




 プラモは、またポーズを直せばいい場合が多いけど、他のフィギュアたちは壊れるかもだし!


 この手のものは、基本的に再販してもらえないしなぁ。


 されたとしても、作る時の型が劣化してて出来栄えが変わってることもあるし。


 なんとか地震が収まるまで手で押さえておこう。




 あれ?なんかこの棚倒れてきてない?


 おっ……おおおっ!?潰され








 …………んん?棚はどうなった?


 体は……特に痛みとか無いな。


 なんか大事な所が潰される感触があった気がしたんだけど、気のせいだったんだろうか?




 ところで、何だこの状況……。


 体が全く動かせない。おまけに世界も全く動いてない。


 場所は、どうも外らしいけど……。


 俺は、自室で積みプラモを組もうとしてたら地震で倒れてきた棚に潰された気がしてたんだが?




 この場所は、どうもどこかの庭園って感じか?


 視線の先には、仲睦まじく肩を抱かれて歩く女の子と、イケメンが見える。


 誰よこいつ?……って、何か記憶が流れ込んでくるというか、蘇ってくる?




 えーと何々?あの女の子は、イレーヌ・ソルボンちゃん?


 へぇ、伯爵令嬢なんだ。……それってめっちゃ良いとこのお嬢さんじゃない?


 んで、あのいけ好かない男は……イカロス・ペルセウス君。


 なんと第3王子様ですかぁ!すごいですねぇ!




 ……ここって貴族とか王政があるとこなんだ?


 日本じゃないのか?




 それにしても、何なんだこの感情は……。


 俺と関係ない所から、怒りと絶望が押し寄せてきてるような……。


 おっと、また記憶が蘇ってきた。




 ふーん、イレーヌちゃんは俺の婚約者なのか。


 いや俺婚約者とかいないけど……。




「それはぁ、その体の記憶よぉ。」




 うおっとビックリした。いきなり耳元で女が囁いたと思ったら、体が動くようになった。


 でも、なんだか違和感があるな。体がやけに軽い。


 まるで10代の頃に戻ったような……。


 それより、今話しかけて来たっぽいこの女は誰なんだ?




「あのぉ、これどういう状況なんですか?」


「わかりやすく言えばぁ、アナタの魂をリサイクルしたのぉ。」




 魂?リサイクル?それって一緒に使っていい言葉なの?




「私のお気に入りの子がね?憤死しちゃってぇ。魂が残ってればどうとでもできるんだけれどぉ、それすら粉々に砕けちゃったみたいなのぉ。仕方ないから多少似たような魂をぶち込んだってわけぇ。」


「はぁそうですか。」


「もうちょっと慌ててくれた方が嬉しいわよぉ?」




 何なんだこの女。サドか?サドなのか?しかもすごい美人だから雰囲気あるわ。女神様みたい。




(女神よぉ?あたしはぁ、愛と美の女神であるアフロディーテ。アナタの考えてることは、口に出さなくてもわかるから気をつけてねぇ?)




 こいつ直接脳内に!?




「でもぉ、ちゃんと美人だと評価してくれたのは誉めてあげるわぁ。たとえ言われ慣れててもぉ、女を褒めるのは疎かにしちゃだめよぉ。」


「はい、それはもう。結婚してほしいです。普段ならこんなこと言いませんけど、なんか状況がすごすぎて勢いで言えちゃいますね。」


「流石にそれは冷静になった方が良いんじゃないかしらぁ……。」




 それはそれとして、この女神様とやらは、この状況をちゃんと理解できているらしい。


 というか元凶っぽいから、ご説明を願うか。




「アナタはぁ、前の世界でしんだのぉ。棚に潰されちゃったみたいねぇ。エッチなフィギュアとかも散乱しててぇ、連絡が無いから様子を見に来たご両親はぁ、心の整理が大変だったみたいねぇ。」


「酷い話だ。」




 PCのデータは見ないで消してくれよなパパとママ。




「それでぇ、今この世界ではぁ、神たちが自分のお気に入りに力を貸して戦争をさせてるのぉ。」


「戦争?」


「ゲームみたいなものだと思ってくれればいいわぁ。未来の決まっていない娯楽って、神にとってとても重要なのよぉ。もうそのくらいのヒマつぶしが無いとぉ、永遠の時を生きる神なんてやってられないってわけぇ。」


「こっちも酷い話だったか。」




 この世は、地獄。




「アナタが入ったその体はねぇ、私に許可されてる干渉力を一身に受けた子なのよぉ。つまり私専用の駒ねぇ。それなのにこんな所で死んじゃうなんて悔しいじゃなぁい?だからぁ、アナタに引き継いでほしいのよねぇ。」


「引き継ぐって言っても、俺この世界の事何も分かってないんですが?」


「それは大丈夫よぉ。だってその体に記憶が残ってるものぉ。」




 そういえば、さっき知らない記憶が蘇ったっけ。


 知らない記憶が勝手に再生されるとかやりにくいなぁ。




「今日からアナタはぁ、ダロス・ピュグマリオンくんでーす。私のぉ、神の使徒ってことになるのだけれどねぇ、特にノルマとかはないのぉ。強いて言えばぁ、派手な展開があると嬉しいわねぇ。」


「愉快犯か。質が悪い女神様だな。結婚してくれ。」




 まずいな。自覚は無かったけど、この女神様に心酔しそうになってる。


 何か神様特有の力に寄るもんだろうか。とりあえずちんちんが痛い。




「この世界ではぁ、皆一人1つジョブと呼ばれるものが貰えてねぇ。ダロス君のジョブはぁ、神人形師っていうのぉ。すごい事がいっぱいできるはずなんだけれどぉ、この世界の人たちがイメージする人形って大したこと無いのよねぇ。だからぁ、上手く扱えなくてハズレ扱いだったみたいなのよぉ。」




 そういわれると、なんだか随分悲しい人生を送ってきたようだなこの体の子は。


 続々といやーな記憶が蘇ってくるわ。


 ごはんも大したものが貰えず、服もボロボロ。部屋も狭くて家具も汚い。


 どうも公爵家の人間らしいけども、よっぽどいらない子だったんだろうなぁ。




 そんな中で、唯一自分を肯定できる要素が、あのイレーヌちゃんが婚約者だって事だったのか。


 小さい頃は、彼女も大して目立つ存在じゃなかったみたいだけれど、成長するにしたがってどんどん美人になって来て、今ではこの国でもトップクラスに人気のあるお嬢様になってたと。


 今日は、彼女に会えると思って、自分が持ってる衣装の中で数少ないまともな服に身を包み、彼女んちに来てみれば、その婚約者様はイケメン様と楽しそうに歩いてたと。




「これは、アレか。脳が破壊されるってやつか。」


「そうよぉ。脳の血管がプチって切れちゃったみたいねぇ。あまりの激情に魂が崩壊するなんてそうそうみないわねぇ。普通ならあんまり手出しするとルール違反になるんだけれどぉ、神連盟の人たちも流石に同情しちゃったらしくてねぇ。私の陳情を受け入れてアナタを使ってニューゲームってわけぇ。」




 悲しいなぁ。悲しいけどさぁ。




「でもさぁ、確かにコイツの記憶は残ってるけど、所詮他人の記憶だし、そこまで感情移入できないとおもうぞ?」


「そこはしょうがないわぁ。結局私たちもぉ、面白い物がみたいってだけだものぉ。そういう意味ではぁ、ダロス君の状況もとっても人気あったのよぉ?」


「趣味悪いな神様。」




 暗い内容のアニメとかドラマばっかり見てる層かよ。




「辛い境遇はぁ、乗り越える事で未来をさらに輝かせるためのスパイスなのよぉ。だからぁ、ここから盛り上がるはずだったのよねぇ。」


「悲しいなぁ。」




 俺、こういうタイプの作品嫌い。


 大抵雨ばっかり降ってんだ。


 それくらいなら無駄におっぱいいっぱい出してるアホみたいな内容の方がまだ受け入れられる。




「というわけでぇ、そろそろアナタの第2の人生を始めるわねぇ?治したとはいってもぉ、脳が壊れたところから再開だからぁ、一回気絶しちゃうと思うけれどぉ、すぐ目が覚めるから安心してねぇ。」


「精神からの脳破壊を経て復活とか正直キッツいなぁ……。」


「アナタに、良い人生を。」










「……んんっ。」




 おっと、周りの景色が動くようになったな。


 とは言え体の力が抜けていくんだが。




「な!?なんだ貴様は!?」


「ダロス様!?」




 おおう、浮気者どもが慌てておるわ。


 俺とお前ら、どっちが慌ててるか勝負でもするか?




 そんなくだらない事を考えながら、俺の意識は、地面に頭が激突する衝撃共に闇に飲まれた。










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