3-3. 屋根裏部屋!
「夕食をありがとうございました。それでは、わたしは護衛任務に戻ります」
後片付けまでギル様はひとりでやってしまうと、ギル様は礼儀正しくワタシに頭を下げる。
「護衛ではなく、神殿に戻るつもりはないのですよね?」
なんとなく答えは予測できたが、万が一気が変わったということもありえるので、念のために確認してみる。
「神殿に戻るなどありえません!」
そうですよね。
すみません。愚問でした。
まだ短い付き合いですけど、それくらいはワタシでもわかるようになってきましたよ。
「ちなみに、ギルはどこでワタシの護衛をするつもりですか?」
「裏口がだめなら、今日は正面入口に立つとします」
さらにダメだろ!
なにを考えているんだこの筆頭守護騎士は!
「長期になるようでしたら、向かいの住人には、きえ……立ち退いてもらって、そこを拠点とします」
おかしいな。今、『立ち退いて』っていう部分が『消えてもらって』って聞こえたんですがっ!
それって、空耳でしょうか?
ただでさえ、ワタシにはこの街の医師と薬師を窮地に追いやったという前科があるのだ。
そこにご近所さんも立ち退かせたという罪を上乗せするのだけは、勘弁してほしい。
ワタシを原因に被害が発生するのだけは、なんとしても阻止しなければならない。と決意する。
「家の周囲は、正面だろうが裏口だろうが、人の目があるのでやめてください。ご近所さんを追い出すというのもダメです」
「……わかりました。それでは、屋根の上に登って」
「落ちたら危ないでしょ! ダメです」
「ご心配なく。屋根の上には、幼い頃によく登っていたので大丈夫です。久々の屋根上です。腕がなります」
そんなところで腕を鳴らさないでください!
「だとしてもやめてください! 落ちて怪我でもしたら大変じゃないですか」
それに、ここの屋根がギル様の体重に耐えられるかどうかも怪しい。
ギル様が地上に落下するよりも、屋根に大穴ができる方が困る。
だめだ。
ギル様を外に出したら、とてつもなくマズイ展開になってしまう気がしてきた。
ハッピーになれるビジョンが全く見えない。
このヒトは、ワタシの目が届く範囲に置いておいて、悪さをしないようにしっかりと見張っていないとダメだ!
ひとりになると、確実になにか余計なことをやっちゃうヒトだ。
それこそ、縛りつける縄と首輪が必要だ。
「ナナ様はわたしの身を案じてくださっているのですね。わかりました。それでは、わたしはどこで護衛をしたらよろしいのでしょうか?」
最初からワタシに聞いてくれたらよかったんだ。
盲点だった。
外がダメなら、内しかない。
仕方がない。
今日はここに泊まってもらおう。
その方が絶対に安全だ。
きっとみんながハッピーになれる。
一階の店舗エリアは、薬師にとって神聖な場所だ。いくら聖女様の守護騎士様でも、薬師不在の場合は立ち入り禁止区域だ。
危険な素材や器具もあるからね。
手狭な二階のダイニングキッチンや書庫では、ギル様が寝るだけのスペースが確保できない。
ワタシの部屋は論外だし、同じ階にギル様がいると思うと、ワタシが落ち着けない。
「この上は屋根裏部屋になっています。今は使用していない物置同然の小さな部屋ですが、そちらでなら……」
「屋根裏部屋! よろしいのですか? わたしは屋根裏部屋を利用してもよいのですか? ナナ様! ありがとうございます」
ギル様の顔がぱっと輝く。
全身から喜びが溢れ出ているのがわかる。
いや、ちょっと喜びすぎでしょ。
屋根裏部屋だよ?
師匠が生きていた頃は、ワタシの部屋だったけど、今は完全に物置だ。
掃除も一年くらいやってない。
こんなに喜ばれると、物置……じゃなかった屋根裏部屋に案内するのがちょっと心苦しい。
「ナナ様。催促して申し訳ないのですが、部屋に案内していただけますか?」
「はい。こちらです」
いまさらダメとも言えないし、屋根裏部屋以外の場所が思いつかない。
地下室でもあれば、そっちに放り込んでおくのだが、残念なことにこの建物には地下も地下牢もない。
ワタシとギル様は狭い階段を登り、屋根裏へと向かった。
階段を登り終えると、目の前に小さな扉がある。
ギル様が扉の前に立つと、小さな扉がさらに小さく見える。
ワタシは手にしていた鍵束の中から目当ての鍵を探し出すと、扉を開けた。
久しぶりに開けた屋根裏部屋の扉は、ギイギイと不愉快な音をたてる。
蝶番が錆びているのかもしれない。
日も暮れてしまい、採光用の窓はあったが、それはとても小さなもので、屋根裏部屋はとても暗かった。
ワタシは光の精霊にお願いして、部屋を明るくしてもらう。
「掃除もしていない、狭い場所なのですが……」
大きな身体のギル様には、使いづらい部屋だろう。
「いえ。ナナ様。素晴らしいです! 素晴らしい屋根裏部屋です! 理想的な非常に優秀な屋根裏部屋です」
ギル様は歓声をあげると、屋根裏部屋を見渡す。
理想的で優秀な屋根裏部屋がどういうものかわからないが、気に入っていただけたようだ。
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