スマホに送られてきた写真

神無月そぞろ

珍しくきたメッセージは写真付き


 スマートフォンが振動したので画面を見ると、島をでて本土にいる姉貴からメッセージがきていた。


 『これ、どう思うー?』のメッセージに画像がついている。風呂場のドアを撮ったもので結露ができたようだ。アクリル板には水が流れて穴のように見える丸い部分が複数できている。


 画像はドアをアップで撮ったものが1枚だけ。ほかに何もない。どう思うも何も、これだけでわかるわけがない。画像から読み取れた情報『結露がどうかしたのか?』をメッセージに打って返した。


 姉貴は主語や核心が抜けた状態で話してくるから意図が読めないことが多い。前にも似たようなことがあった。



 『レアな写真だよー!』のメッセージ付きで送られてきたのはモニュメントの台座を写した画像だった。公園に行くと偉人の像が設置されてることがある。そんな像の下にある部分をアップで撮ったといった感じの構図だ。


 撮られた台座には、上部分に表札のようにモニュメントの名前が書かれた石板があり、下部分に説明書きの石板が配置されている。肝心のモニュメントは写っていない。たったこれだけの情報だと、どこがレアなのかまったくわからない。


 『○○○○○って名前のモニュメントなのはわかった』と返した。すると姉貴から『辺りには誰もいなかったんだ』と妙な返事がきた。もう一度、画像を見てみた。


 台座をメインに撮ったのはわかっている。そんな画像にわざわざ 「誰もいなかった」と言ってるから意味があるんだろう。「人」を意識して画像を見ていたら気づいた。


 黒い石を使った台座は表面が磨かれて鏡面になっている。鏡が対面を映すのと同じように台座には周囲の景色が映りこんでいる。その中に人がいた。


 姉貴のやつ、誰もいなかったと言ってたくせに……。


 ため息をつきながら姉貴にメッセージを打った。


『右側に人がいるけど』


『ふふっ 人はいなかったんだよ♪』


 は? ワケがわかんねえ。


 メッセージではらちが明かないので姉貴に電話をかけた。詳細を説明してもらい、意味がわかってぞわっとした。


 オフィス街を歩いていたときに姉貴は変わったモニュメントを発見した。それでスマートフォンで撮影を始めたそうだ。


 始めはモニュメント全体、次に台座の順で撮っていった。撮影の間は通行人を撮ってしまわないように十分に気をつけ、周囲に誰もいないことを確認してから写真を撮る。そうして無事に撮り終えたという。


 しばらく経ってノートPCで撮った写真データの整理を始めた。そのときに人が写りこんでいるのに気づいた。初めは人がいることに気づかず撮影して写りこんだと思ったらしい。でもすぐに撮影時を思い出し、つじつまが合わない不思議な写真と姉貴は認定した。


 不思議と認定したことに俺も同意見だ。鏡面に写っている人は確かに変だった。下半身ははっきり写っているのに上半身は見えない。しかも靴ではなく足袋を履いているように見える。


 姉貴いわく、撮影場所はオフィス街なので通行人はいた。でもビジネスパーソンばかりで、みんなオフィスカジュアルかスーツでかっちりした服装をしている。写真を撮ったときに、白い足袋を履いた人が近くにいたなら目立って気づくはずだと。


 写りこんだ人が時代錯誤していることもあって、姉貴はむかしの幽霊を撮ったかもと興奮していた。めったに連絡してこないくせに、それを伝えたくて俺に画像を送ってきたのか……。



 姉貴は変わっていて、幽霊のようなものを視たり妖怪のようなものから接触アプローチされたりと、子どものときから奇妙な体験をしてきている。弟の俺が思うに、どうもアヤカシから好かれているようだ。


 姉貴の能力なのか、それともアヤカシがわざと写りに来ているのか、今回のように不思議な写真を撮ることもあって、これまで何度も画像を送りつけてきている。さっきのドアの写真もおそらくそのたぐいのものだろう。


 姉貴から返事がくるのを待ってる間、送られてきた画像を拡大して細かく観察していたらメッセージがきた。


『結露 指の跡に見えない?』


 読み終えて全身の毛が逆立った。送られてきた画像は風呂場のドアを写したものだ。ドアには結露ができていたようで、アクリル板には水が流れて丸い形ができていた。


 丸い形は重力に沿って水が流れたものだと思っていた。ところが思考を変えて見直すと、5本の指の指先だけをアクリル板に押し当てたようにも見えてくる。姉貴が言ったとおり、指が触れて跡が残っているように思えてきた。


 またスマートフォンにメッセージが届いた。


『結露はドアの内側にあるよね?』


『写真を撮ってる側の反対にあるな』


『ドアには触ってない』


 またぞわゎと悪寒が走る。


 撮影場所は風呂場だ。覚えのない指跡ができたってことは、室内に侵入されてるじゃねーか!


 画面が動いてさらにメッセージが追加されていく。


『自分と比べると小さい』


 小さい? 子どもの手なのか?

 姉貴は街歩きが好きであちこち出かける。 

 そのときに子どもの幽霊がついてきたのか!?


 90%は偶然だと思っている。冷えこんだので風呂場に残っていた水分から結露ができ、水が流れたときに偶然にも指の跡をつけたように見える形状になったんだろう。でも姉貴にはアヤカシのほうから接触された前歴がある。


 ぷらぷらと街中まちなかを散歩している姉貴の姿が思い浮かび、すぐ後ろを不気味な影が近づいていく様子が想像できて心配になってきた。


 知らないうちにたちの悪いアヤカシに憑かれたかもしれない……。


 不安になり、神社とかへ行ってお祓いしてこいとメッセージを打とうとした矢先にメッセージがきた。


アヤカシの痕跡なら

 うちに座敷童が到来か~♪』


 一気に脱力した。


 姉貴は万事にこういうところがある。悪いほうじゃなくて良いほうに思考が向く。おかげで緊張感がなくなったのはよかったが、ふつふつと怒りがこみあげてくる。


 アヤカシに好かれる体質なんだから、もう少し用心してほしいぜ……。


 姉貴の性格を知ってるから行動を止めるのは無理とわかっている。だから島に帰ってくるときは、危険な目に遭わないようになるべく一緒にいるようにしている。そばにいると無鉄砲ではらはらするけど、姉貴は一人でも大丈夫となんとなく思うことがある。


 姉貴は野生動物のように勘が良くてヤバイものは自然に避けている節がある。それにあんなマイペースな姉貴をカバーしなければならない守護霊はかなり強いに決まっている。


 奇妙な写真なので心配ではある。でも姉貴は本土にいる。俺ができることはないので守護霊に全任せすることにし、写真を深追いするのはやめておいた。



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スマホに送られてきた写真 神無月そぞろ @coinxcastle

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