エピローグ がーるみーつひっぷほっぷ
朝、目覚めてしばらく横になる。
寝起きは体調最悪でしばらく起き上がれないのは、どんなに環境が変わっても変わらない。
やがて、なんとかして起き上がる。
そこから、水分補給。歯磨き。シャワー。ドライヤー。スキンケア。メイク。ヘアセット……。
ご飯は朝は食べない。とりあえずサプリ飲む。そんな、だいぶ前からずっと同じモーニングルーティン。そこへ、ながらフリースタイルが加わったのが唯一の変更点。
そうこうするうちに、インターホンが鳴った。
だるいなぁと思いながら、作業を止め、立ち上がってモニターの前へ歩く。映っていたのが予想通りの人物であったことを確認して、ボタンを押す。
そして、あたしの部屋に入ってきた彼女は、開口一番。
「まったく、こんな朝っぱらから私を働かせても許されるクソタレントは貴様くらいだぞ……」
その久しぶりの憎まれ口が懐かしくて、抱き着いた。
「おい、いくら正統派アイドルはやめたからといって即ハグはアバズレすぎるだろ」
「即尺みたいに言わないで」
「言ってないが……。まだ束縛の方が近いくらいだ」
「うるさい。殴られないだけ感謝して」
「そうだな。暴君に仕えるまたとない光栄に、今一度打ち震えるとしよう……。ありがとな、ねねね」
「感謝より先に、言うこと」
「ああ?」
「……あるでしょ。言ううことが。このあたしに」
「……ああ。チッ……。これでいいか? ──お願いだからもう一回プロデュースさせてください」
久しぶりに聞いた彼女のその声が普段よりもちょっと弱弱しかったのは、あたしが力強く抱きしめ過ぎたから、だけじゃないといいな──。
中野サンプラザ。
アイドルの聖地と言われたステージ。あたしも何度も立ったことがあった。
けどしばらく疎遠になっている間に、取り壊されてしまうことが決まっていたらしかった。
その最後のステージに、あたしは立っていた。
もっと大きな場所でライブをしたことなんて、いくらでもある。でも、何度もお世話になったここで再びアイドルとして観客席を前にしていることに大きな意味があった。
「今日はみんな禰寧音ねねAIZIA復帰ライブに来てくれてありがとう♡ 色々あったけど、未だにファンでいてくれる変わり者のみんな、そして新しくファンになってくれたヘッズのみんな、全員大好き」
わああああと歓声があがる。となりに立っているメンバー達も、なぜか各々自分勝手に騒いでいた。その様が、懐かしい。
「でも、今日はあたしの大嫌いなクソラッパーもゲストに来てるみたい! だから、ほんとにムカつくけど、まずは一緒にあの曲でぶちかましてあげる!」
どよめきが沸き起こる。メンバーはゲラゲラ笑っていた。人間の感情を動かすことをあたしたちは誰よりも生き甲斐としている。その一点においてだけ、あたし達5人はひとつになれた。
「それでは聞いてください♡ AIZIAで、【がーるみーつひっぷほっっぷ。feat.Dependence】!!!!!!」
今日もこのパフォーマンスで誰かの人生が変わることを願って。可愛く、そして不敵に口を開いた──。
がーるみーつひっぷほっぷ ふみのあや @huminoaya
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