スキット 決勝後のテンション
第9回女子高生ラップ選手権は、決勝でAsh blossomを破ったDependenceの優勝で幕を閉じた。
新たなチャンピオンと、敗れはしたものの大きな波紋を残したニューカマー達が、この後シーンに大きな影響を与えるであろうことは疑いようがない。
その中の筆頭である新王者Dependence。普通ならば、勝利に酔いしれ夜が明けるまで暴れまわっていてもおかしくないほどの功績を挙げた今宵のヒーロー。しかし彼女は、自身が主賓であるはずの打ち上げの喧騒から離れ、煙の中で一人佇んでいた。
勝利を勝ち誇るでもなく黄昏る彼女に、顔面に大きな傷跡を持つ女が近寄ってくる。
その者の名はDiavolo。
日本語ラップの第一人者であり、未だに現役で最前線を走り続ける大御所ラッパー。そして、常にヒップホップをより大きく広めるために画策するオーガナイザーとしての顔も併せ持つ。
そんな彼女が、若き才能に接近しないわけはなかった。
「お疲れー。さすがだねぇ、ディペデ。優勝おめでとォ」
「ありがとうございます」
「で、さっそくなんだけどさあ、お願いがあるんだよね」
「……お願い?」
「うん。今度さMCバトルの番組がオレ主導で始まることんなってて、そこにオマエ、レギュラーで出てくんない?」
「はあ、べつにいいっすけど」
「おお。返事が早くて助かるよぉ。じゃ、戦いたいヤツとかいる? そういうのあった方が番組的にもアツいからさあ、出来るだけ実現させるようにするけど」
「そしたら……Dさんですかね」
「オレ笑??? ごめん、それはなんか番組が打ち切りになりそうになった時とか用にとっといてもらっていい?」
「そっすか。じゃああんま人気でないといいっすね」
「オイオイ笑笑。オマエももっと有名になるチャンスなんだからそう言うなって。誰かほかにいないワケ?」
「うーん……、じゃあRequiem、イルミナ、LFD、異挫無未、ZAKURO……」
「あー、もう審査員で呼んじゃってるからその辺は。もう少し若手、いない?」
「注文多いっすね……。なら27。あいつに勝ち逃げされてるんすよね今」
「かー、27かー。27はもうチームメイトとしてブッキングしちゃったんだよなぁ」
「はあ? あいつとチームとか勘弁してくださいよ。あんなラップしか能のないオタク女」
「まあいいじゃん。オマエとアイツが組むとか、アツいだろ」
「寒いっすよ」
「いやむしろマブいしサグい。なんか他にいないの? 因縁の相手とか」
「因縁なんかもうないっすよ。こう見えてこちとら真面目にヒップホップしてるんすから」
「そっかあ。ディペデも丸くなっちゃったかあ」
「いや、そこは後輩の更生を喜んでくださいよ」
「嬉しいなあ。じゃあ、その更生に一役買ってやった先輩の顔を立ててくんない?」
「……ああ、そういえばもう一人闘いたい女いました」
「おっ、いいじゃん。誰? 教えてよ」
「──禰寧音ねね」
少女は、目を見開いてそう言った。
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