5 深夜にTinder

【彼方遠くに瞬きを見つけて

 追いかけて追いかけて

 夢中になって見失ったのに

 また向こうで光るから

 いつまでも終わらない100m走

 この夜が明けるまで走り続けよう

 太陽よりも早く


 明日にはわたし星になれるかな

 そしたらみんなで星座になろうよ

 暗い夜空を見上げて欲しいから

 寝るなんて許さないから

 背けてもいい

 開き続けて


 AIZIA/明けない夜を】



「おい! あいつの住所! 分かるわよね!?」

「ああ? なんのことだいきなり?」

 あたしはスマホをぎりぎりと握りしめ、イキりたっていた。

「あいつよ! あいつ!あたしのオタクになんか白髪ロングのちっちゃめの女子いたでしょ!!?」

「はあ? いちいちそんなお前のオタク1人1人のことなんて覚えとらんわ」

 スマホの向こうからは、眠そうな声のクソマネージャーの声が聞こえてくる。深夜通話うぜぇよという言外のアピールなのが腹立つ。この業界にいてなんで夜に電話されて鬱陶しそうにしてんだよこいつは。どうせ朝は寝てるだろ。

「それでもあたしのマネージャーかよ! 使えないわね……」

「優秀なマネージャーなどこの世に存在しないからな」

「まあそうでしょうけど」

「だがまあ、お前のオタクだったかは知らんが、白髪ロングの小柄なラッパーの連絡先なら、知ってるぞ。27(にな)とかいう名前の」

「……知ってんなら最初から言いなさいよ。ほんっと鬱陶しいわね……」

「今のご時世、顧客の個人情報をやすやすと教えたとあってはコトだからな」

「誰にも言いふらさないわよ別に」

「お前のことは信頼していない。なにせ最悪のスキャンダルを内緒で進行させていたようなコンプラ最低の輩だからな」

「どうせ敢えて泳がせてたくせによく言うわ」

「私は人間の性欲に歯止めをかけることには反対なんだ」

「はいはい。で、住所は?」

 いちいち長ったらしい前説とか嫌味を言わないと結論を言えないのかこのマネージャーは。

「お前一人で行ってまた関係をもたれても困るからな。明日私が連れてってやるからそれまで待て。そもそもどうせこういう流れになるだろうと思って既にこっちで段取りを組んであるから勝手に動くな社会不適合者が」

「いやあたし別にノーマルだし。てか、あたしは今すぐにでも行きたいんだけど?」

「知らん。私はもう寝る。次深夜にかけてきたら揉み消してるお前のゴシップをその度に1つずつ世間に解き放ってやるからな! 二度と私のプライベートの時間に侵食してくるなこのクソビッチが!!!」

 ドゥルン。

 言いたいことをまくし立てたかと思うと、一方的に通話を切断された。

「おい!なんなのよ!もう!」

 部屋で1人スマホに吠える。

「だいたいあんたが焚き付けたくせになんなのよ!」

 爆弾を抱えてたあたしをこうなるとわかって放っておいて、爆発した後で別の戦場に駆り出して、血の味を覚えさせたのはあんただろうに。

「まったく、最後まで面倒見てくれるんでしょうね……」

 もう本気で頼れる人間なんて、悔しいかな、この人しかいないのに。

「あたし性格終わってるからな~」

 もうアイドルでもないし、いよいよいマッチングアプリでもやって友達かなんか作るか~と思ったけど、そんなことしてたらラップの練習が疎かになるなと思って、やめた。

 とりあえず、もう一度あの動画を見よう。

 第8回女子高生ラップ選手権決勝戦、27(にな)対Dependence戦を。

 そして、27がDependenceに完勝するその瞬間を。

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