2 烙印の確認

『禰寧音ねね、熱愛』

『トップアイドル、爛れた性事情』

『ねねね、不倫バレで降板』

『AIZIAセンター、大手事務所から圧力か』

『ゴリ推し人気アイドル、前代未聞スキャンダルで大炎上』

『ねんごろねね、お泊まりデート』


 週刊誌、ネットニュース、ワイドショー、掲示板、SNS、全てが禰寧音ねねを糾弾した。

 街を歩けば後ろ指を指され、エゴサをすれば阿鼻叫喚。


『何も見たくなしい聞きたくたい。ねねねが全てでねねねのためだけに生きてきたのに。本人が幸せならいいとか、ファンなら祝えとか言うやつは本当に推してなかった外野だろ。黙ってろクソカスが。何が悲しくて他の男に体明け渡しまくってたビッチに命かけてたんだよ。本当に無理だ。底辺の雄の群れに媚び売って騙して絞りとって頂点の男達と幸せによろしくやってましたってなんだそれ。なめてんのか。気持ち悪い。バカみたいだ。夢を見せきる覚悟もないのにアイドルなんかやるなよ。舞台で道化を演じるのはそっちのはずだろ。これじゃ完全にオタクの方がピエロだ。何がかなしくて観客のはずの俺たちがこんな思いをしなきゃならねぇんだ。腐ってる。あの公演も、あの演技も、あのライブも、あの歌詞も、あのダンスも、男の影響を受けてたのかもしれないなんて思ったらもう思い出さえも全部灰色だ。自分の推しがただのクソ女だったなんて知りたくなかった。無理だ。死んでくれ。俺の記憶から消え去ってくれ』


 溢れ返る誹謗中傷。けれど。

 ああ、あたしの事をそんなにも想ってくれていたのね。少し感動すら覚える。そこまで赤の他人でしかない1人の人間に固執できることに羨望すら感じる。

 愛されていた頃よりも、むしろそんな呪詛を浴びる方が不思議と心地よい様に思うのは、錯覚だといいな。

 だってそうじゃなきゃ、またこんなことを繰り返してしまいそうだから。

 ずっとあたしのかわいさは誰かを喜ばせると思っていた。でも、悲しませることだってある。どうでもいいけど、少しは自覚しておいてあげようかな。

 こんな状況でも、自分が悪いとか自分がダメだとかは全く思わなかった。なんて自分勝手なんだろう。でもそれがあたしなのだから、仕方がないでしょう?

 それにしても。

 ある程度は事実とはいえ、そこからまたあることないこと付け足され、想像を絶する世紀の悪女にされてしまった。

 仕事は全て消え、外に出たら騒ぎになるから家に篭ろうにも記者が押し寄せる。


 というわけで、仕方なくあたしはマネージャーが用意したセーフハウスに引きこもった。

 逆に言えば久々の休みとも言えたけど、あたしには趣味なんてないし。だいたいこんな状況でなにかを楽しもうという気にもなるのもおかしな話だろう。

 だからあたしはひたすら次の仕事に向けて、対策を練ることにした。

 マネージャーが持ってきた、初めての仕事に向けて。

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