第2話 アルセウスの預言書

アルセウスは部屋の静けさの中で、その古ぼけた本の表紙をじっと見つめていた。本は重厚で、時代を感じさせる手触りがあった。祖母が遺した言葉が彼の心に残っている。

『あなたが持つにふさわしい時が来たのだと思う』

幼いアルセウスには、まだその意味が完全には理解できていなかったが、確かに何か神聖で重要なものであることは感じ取れた。


彼はそっと本を開き、古代語で書かれた預言の数々を読み始めた。ページをパラパラとめくる、

「よめないな」

読み解くきっかけが掴めない。

龍の谷、山々を越える冒険、見知らぬ土地の人々との出会い、そして避けられない運命的な戦い、今まで祖母に話してもらった冒険譚を思い出す。

ー自分に与えられた運命、預言とはどんなものなんだろう

アルセウスは深呼吸し、心を落ち着けた。彼がこれから辿るべき道は簡単ではないだろう。それでも、祖母の想いを胸に刻み、この預言書と共に歩む運命に胸を躍らせた。


朝日が窓から差し込む、あのまま寝ていたのだろう。腕の中には祖母からもらった本がある。

「なんだこれ」

確かに昨晩、腕に抱いていた本は祖母から貰ったもので、その本は古びた古代語の本であった。今、目の前にあるのは、真新しい本、貰った本より少し小ぶりで金色の版が押されている。

『おはよ!』

「え?」

アルセウスは振り返るが、誰も居ない。

『こーこーだーよ!』

「わぁっっっ!」

思わず手元の本を取り落とした。開いたページは白紙だ。

ーあの本から明らかに声がする、気がする。そして少しだけ光っている、気がする。

ー怖い、本が話してる…これが預言なの?

『しばらくすると、妹が生まれるよ。君にとってとても重要な存在になるから、大事にそして強くなるよう面倒を見るんだよ』

「それはよげん?」

「ねぇ、君は誰なの?」

預言書からの返事はなく、それっきり何も言わなくなった。異様な雰囲気もなくなり、また新しくそして少し豪華なただの本となった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る