龍のたまご

これむのあ

第1話 祖母の預言書

アルセウスは、静かな村の外れにある祖母の家を訪れるのが大好きだった。そこは、風に揺れる緑の森と、清らかな小川が流れる、美しい自然に囲まれた場所だった。祖母は昔から数多くの物語や伝説を彼に語ってくれた。彼はいつも彼女のお話に心を躍らせていた。


その日、祖母は少し厳かな表情でアルセウスを呼び寄せると、古びた木製の箱を取り出した。

「わあ、きれいだね」

目を見張るような美しい文様が施されているその箱を開けると、中には年季の入った一冊の書物が大切にしまわれていた。


「これは、我が家に代々伝わる預言の書だよ、アルセウス」

と祖母は優しく微笑みながら言った。

「あなたが持つにふさわしい時が来たのだと思う」

なぜか、未知の本を託すその言葉は真実味を帯びていた。


アルセウスは慎重にその本を手に取り、表紙を撫でた。紙は古く、少し黄ばんでいたが、力強い文字で書かれた不思議な言葉が彼を誘うように連なっている。

「よめない」

なんとか祖母に習って覚えた母国語ではなさそうだ。古代語だろうか、今まで見たことのない文字の羅列に少し戸惑っていると、

「この預言は必要なときに必要な人に必要な言葉をくれるものなの、私のそのときはもう来ないと本が言ってるね」

と、祖母は続けた。

「恐れずに、そして決して信じることをやめないでおくれ」


アルセウスは一言一言を噛み締めるようにして頷いた。その預言書が彼の運命をどのように変えていくのか、その時はまだわからなかった。しかし、この瞬間を通じて、彼は自分の中に芽生えた冒険心と使命感を強く感じたのだった。彼の旅は、ここから始まろうとしていた。


次の朝、バタバタと両親が動き回り、様々な人が弔問に訪れる中、ただその場に立ち尽くしていた。昼には家族が集まり、静かな涙と、温かい思い出を語り合った。

そっと抜け出し祖母の家の扉を開けた。彼女の好きだった花の香りがまだ残っている気がした。

『そのときはもう来ない』

預言書と祖母の関わりは終わりを告げ、新しい持ち主との時が刻まれ始めたのだ。

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