弐
ある時、弟の軍が敵国を退け、敵の使者が休戦を申し出てきた。邪馬台国の強さは認める。そして無闇矢鱈に、戦力を消耗させたくない、と。
「……その言葉、信じて良いのだな?」
「勿論。八百万の神に誓って、嘘偽りなどございませぬ」
彼の問いかけに、使者は物腰丁寧に答える。そして傍らの付人に呼びかけ、竹の葉の包みを持って来させた。
「こちら、土産の品にございまする。お口に合うか分かりませぬが、是非ともお召し上がりくださいまし」
「むすび」とは、
……だが、敵国となれば話は別だ。彼はそう思い、卑弥呼に進言した。
「申し出はありがたく頂戴いたしますが、むすびは後日、頂くとしましょう」
「そのような言い方をなさるとは、我々を疑っているのですか?」
「いや、そう言う訳ではなく……」
彼が言い淀むと。
「良いのです」
──卑弥呼が、凛とした声をあげた。
彼は驚いた。あの卑弥呼が、はっきりと物を言ったことに。
「むすびを、こちらに」
白い手でむすびを包み、小さく口を開く。
一口、二口。卑弥呼はゆっくりと、味わうように食べてしまった。
「さ、弟様の分も、ございますぞ」
使者の言葉も右から左。弟は卑弥呼に釘付けになった。流れるような所作と、恐れ知らずな精神に。
卑弥呼が巫女として大胆であるから、出来た所業であろうか。
……いや、違う。彼の直感が、違うと告げていた。
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