3.革命への道

「エリス様…」


 アルマは一瞬ためらった後、意を決して口を開いた。


「実は、私もこの世界のことをずっと不思議に感じていたのです。どうしても、私がここにいる理由が理解できなかった…。でも、あなたのお話を聞いて、ようやく理解しました。この世界は、私がかつて楽しんでいた乙女ゲームの世界なのです」


 エリスの眉が微かに動いた。自然に流れるままにしてある髪を指先で弄ぶ仕草には、少しの動揺が現れていた。


「乙女ゲームの世界?」


 彼女は鋭い返答をした。


「そうです」


 アルマは小声で続けた。


「つまり……元はといえば恋愛をテーマにしたシミュレーションゲームのプレイヤーでした。ゲームの中で、私はさまざまな選択肢を選び、結末を見届けるだけの役割を果たしていたのです。ですから、昨日のセドリックによる行いは、私にとっては予想通りでした」


 エリスは、その言葉に静かに頷いた。だがその頷きは、ただの同意の表現ではなく、深い思索と重みが込められていた。


「なるほど、彼らの動きが芝居がかっていたわけだわ」


 エリスは、アルマの目を鋭く見据えながら、柔らかな声で問いかけた。


「それで、予想外であろう私の呼びかけに応えたアルマは、何か思うところがあるわけでしょう?」


 その問いかけは表面的に穏やかであったが、ただの確認をしているわけでもなかった。


 一瞬、言葉を選ぶように口を閉じ、そしてわずかに唇を動かしてから、アルマは静かに話し始めた。


「こうして転生し、実際にこの世界で生活を送る中で……私が世界を捉える方法が大きく変わりました。特に……断罪イベントを経験してからは……」


 その声には、何か重いものを背負っているような響きがあった。


 アルマの視線はエリスにしっかりと固定されており、その真剣さは何か重要なことを伝えようとしていることを物語っていた。


「この世界がどれだけ歪んでいるかを、死の恐怖によって学びました。そして、その歪みを正さなければならないと思っています」


 アルマは少しばかり反省の色を見せる仕草をしながら、金の巻き髪を指先で、数本だけ、かきあげた。彼女の動きは、まるで紅茶の葉がカップの中で踊るように優雅であり、反省のニュアンスすらも一つの芸術作品だった。


「かつてはゲームの中の出来事として楽しんでいたことも、今では現実として受け止めざるを得ません。階級意識に目覚めた今、私は攻略対象たち……すなわち反動的階級に対して深い憎悪を抱くようになりました」


 その言葉を聞いて、エリスは微笑を浮かべた。その微笑は、自らの考えが正しかったことを確認したかのようだった。


「アルマ、あなたの持つ乙女ゲームとやらの知識は、非常に貴重な武器だわ。私たちがこの帝国を根底から覆すために必要不可欠なものですから」


「エリス様、私はどうすれば……?」


 その言葉には、奥底に潜む重い信頼が見え隠れし、絡みつくように期待が滲み出していた。そして響きには、本人も気づいていないかのような深い依存が織り込まれていた。


 エリスは彼女の手を取り、少し興奮気味に、早口で話した。


「私たちはエリューシオンに巣食う、あなたを殺そうとする重罪人共を一掃するのです。同志アルマ、私はあなたという革命の火種を防衛しなければいけませんわ。そのためには、計画的かつ大胆に動く必要があるでしょう。あなたの知識を活用し、彼ら一人一人を階級闘争の敗者として抹殺するために団結しましょう」


 アルマはその言葉に静かに頷いた。彼女はもう、かつてのプレイヤーとしての自分ではない。自らが持つゲームの設定やシナリオを利用し、世界を根底から覆す。


 革命の前衛となったのだ。


「エリス様、私はあなたと共に闘います」


 決意と覚悟に満ちていた。


 エリスはその言葉を聞き、満足げに頷いた。


「素晴らしいわ。同志アルマ、これからは二人で、この帝国に革命の嵐を巻き起こしましょう。彼らが私たちを侮ったことを、血で思い知らせるのです」


 こうして、エリスとアルマの革命計画が始動した。彼女たちは目前に立ちはだかる数多の障害を乗り越えながら、この世界に革命をもたらすため、冷徹かつ無慈悲に行動し始めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る