4.取り返しのつかない嘘


「おっしゃりたいことはよく理解できました。殿下がご指摘の罪の内容についても、十分に理解しているつもりですわ」


 続けてアルマは言う。


「エリス様に対する私の行為が、いかなるものであったかを、私自身もよく知っています。ですが殿下の言葉が、この国にとって本当に『正義』であるのかどうかは、また別の問題でしょうけれども」


 追い詰められた状況にも関わらず、その冷静さを失うことなく、挑発的な態度を示しながら反論した。その言葉は、周囲の沈黙の中に潜む圧迫感や不安の影を反映しつつも、自身の毅然とした立場をも示している。反論は重苦しい空気の中で不協和音を奏でるようなものでありながら、あくまで理性的なものだった。


 セドリックはこの冷静で挑発的な態度に、怒りを露わにしながら応答する。


「お前の行動は、この国に対する背信行為であり、『正義』の名の下に断罪されるべきだ!」


 厳かに声を上げるたび、その響きはあまりにも完璧で、劇的で、ますます舞台の上に立つ役者のように聞こえた。しかも、声のトーンから抑揚、言葉の選び方に至るまで、すべてが緻密に計算され尽くしているように思えた。


 もはや現実の断罪というよりも、観客のために巧妙に演出されたドラマとしか感じられなかった。


「なるほど、これが本当に『正義』というものなら、私たちは皆、ただの役者に過ぎないのかもしれないわね」


 アルマは皮肉を込めて内心で呟いた。セドリックの一言一言が立場を保つための見せかけに過ぎないのだとしたら、自身がこの広間で果たすべき役割もまた、意志とは無関係な台本の一部にすぎない。


 そして、その演技がどれほど洗練されていても、アルマにはそれが「現実」であるとは到底思えなかった。全員が舞台上で、自分に与えられた台詞をただ正確に読み上げるだけの役者たちのように見えた。自分の運命さえも、どこか別の場所で書かれたシナリオに沿って進行しているかのように感じられたのだ。


 このとき、アルマは明らかに自棄を起こしていた。表情にはもはや偽りの冷静さを装う余裕すらなく、心の奥底から沸き起こる焦燥と諦念が混じり合っていた。一見、平然としているように振る舞ってはいても、その実、全身から発せられる微細な震えやわずかな動作には、絶望と不満の色が濃く滲んでいた。


 アルマはふと小さくつぶやいた。

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