第一章・裁かれる人

1.絶望的情勢にて

 アルマ・ヴァレンシュタインは、断罪イベントが発生する帝国立学院の卒業パーティに向かう準備を整えるため、屋敷の自室で着替えをしていた。ドレッサーの前に立ち、身体が覚えているままに身支度を整えていくと、メイドのセリーナが静かに部屋に入ってくる。


「アルマ様、お着替えはもうお済みでしょうか?」


 セリーナは、手際よくアルマの衣装を整えながら尋ねた。その言葉には、安心感を与える穏やかな響きがあった。


「もうすぐ。もうちょっとで準備できるわ」


 アルマは鏡に映る自分の姿を見つめながら、無表情だ。


「それにしても、このドレス、どうしても落ち着かないわね」


 セリーナは微笑んで答えた。


「アルマ様、衣装は完璧に仕上がっておりますよ。今日のパーティでは、貴女の美しさが一層引き立つことでしょう」


「ふむ、馬子にも衣装ってやつね。あまりにも完璧すぎて、逆に自分が別人みたいに思えてくるわよ」


 つぶやきながら、鏡にうつった自らの姿を改めて見つめる。エンディングへと向かう道筋はもう衣装でどうにかなる段階ではないのであるが、愚痴をこぼさずにはいられなかった。


「どうしても気が引けるのよ、この華やかさが」


 セリーナはその言葉を受けて、優しく言った。


「アルマ様、今日は貴女が主役なのですから、その華やかさが合っているのですわ。皆様が貴女の姿を見て、どれほど感動するか想像してみてください」


「感動するのはいいけれど、それがどうしてか私にとっては逆効果になってしまうように思えてならないのよ」


 ため息をつきながら、少しイライラした口調で続けた。


「私はただ、無難に振る舞って、このパーティが無事に終わることを願っているだけなのよ」


 そして、心の中でだけで、このように続けた。―――「これがゲームのシナリオ通りになるとしたら、パーティでの出来事が私にとって最悪の結果をもたらすんじゃないかと心配なのよ」


 主人の機嫌の悪さを修正するために、メイドはなんとか取り繕おうとする。


「どうかご安心ください、アルマ様。パーティが無事に終わるように、私たちも全力でお手伝いさせていただきます。貴女の役割はただ一つ、素敵に振る舞うことだけです」


 アルマはその言葉に少し心を軽くしながら、再び鏡に目を向けた。


「ありがとう、セリーナ。せめて、今日の一日くらいは何とかうまくいくといいのだけれど」


「もちろんです。お心を落ち着けて、自信を持ってお出かけください」


 セリーナは最後に、アルマのドレスの裾を整えながら、心からの笑顔を見せた。その後、アルマは静かに部屋を後にし、廊下を歩きながら、心の中で今夜のパーティに対する複雑な思いを抱えていた。目には、これから待ち受ける運命への軽蔑と諦めが色濃く浮かんでいた。

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