2.白色の転生
突然、視界が白く輝き、まるで万華鏡のような光のシャワーに包まれると、ゆうなの意識は瞬時に別の次元へとシフトした。
目を開けると、そこには神秘的なモノの姿が現れていた。その姿はまるでルネサンス期の彫刻のように荘厳である。それを神であると直観的に理解した。
「ここは…一体どこなの?」
ゆうなの声は、驚きと困惑が入り混じっている。周囲の煌めく光景にただただ目を見開くばかりであった。
神は優雅に手を振りながら、まるで長年の友人に語りかけるかのように、微笑みを浮かべて語る。
「高瀬ゆうな、よくここまで来たものだ。実に気配りの行き届いたプレイヤーであったな。」
「え、私、ここにどうして?」
その問いは、明らかに錯乱に近い困惑を示していた。
「お前は乙女ゲーム『プリンセス・セレナーデ~聖女の恋の運命~』の世界に転生することが決まった。」
神はその言葉を、まるでさも当然のことかのように告げた。その口にするには少し恥ずかしいそのタイトルを読み上げる声音には、歴史の重みを感じさせる落ち着きと、どこか戯けたような調子が混じっていた。
「転生……って、どういうこと?」
ゆうなの言葉は、急に呼び止められて注文を取り始めたウェイターのように、少し焦りを含んでいる。
「それって、つまり私がゲームの中に……ってこと?」
神は優雅に微笑みながら、手のひらをひらひらと振り、軽やかに続けた。
「その通りだ、お前はゲーム内のキャラクターとして新たな人生を送ることになる」
「はぁ?それって本気で言ってるの?私、ただのプレイヤーだったんですけど!ていうか死んだってこと!?」
さらに混乱を深めていった。
神は一瞬、慈しむように、そしてちょっとした楽しげな輝きを見せながら言った。
「心配するな、難易度はかなりのものだが、楽しむ気持ちさえあれば、きっと良い結果が得られるだろう」
ゆうなの目は、大きな不安と期待が交錯する複雑な感情でいっぱいになっていた。この女性は、なんだかんだとポジティブなのである。
「うーん、ちょっと頭が混乱してるけど。せっかくのチャンスだし、このまま死ぬくらいならやってみるしかないのかなぁ……」
神は優雅に頷き、その微笑みを一層深めた。
「それでこそ、我が選ばれし者よ。お前の運命は、アルマ・ヴァレンシュタインとして生き、彼女の悲劇的な結末を変え、新しい未来を創り出すことだ。」
「はあ?なんで?どうして?私が悪役令嬢なんて……」
困惑しながら訊ねた彼女の心には、ゲームの悪役令嬢アルマ・ヴァレンシュタインの冷酷な姿が深く刻まれていた。アルマはゲーム内で多くの困難を引き起こし、その存在はプレイヤーの間で嫌悪の対象だった。
「どうすればいいの?」
そんなプレイヤーとしての不安を受けて、神は優雅に微笑みながら答えた。
「お前が転生するのは、エリスの好感度が最高の状態に達した断罪イベントの当日だ。お前のフラグ管理によって、エリスの未来は安泰だが、お前自身はこのままでは死刑になる運命だ。知識と経験を生かして、運命を変えなければならない」
「いや、無理だろ」
心の中で呟いた。運命を変えるための時間はあまりにも短く、焦りと逆ハーエンドなんて余計なことをしてしまったという後悔しか湧き上がってこない。
「こんな状況でどうしろっていうの?」
「打開するための手段は用意しておいた。アルマとしての新しい人生を歩み、この世界に希望の光をもたらすために、力を尽くせ。」
神の言葉が終わるやいなや、眩い光がゆうなを包み込んだ。その光は一瞬のうちに、彼女を風変わりだけれども贅沢極まりない寝室に送り届けた。そこは、シャンデリアが天井から垂れ下がり、壁には金色の装飾が施された絢爛たる空間だった。
ベッドの上には、複数のレイヤーから成るカーテンが整然と垂れ下がり、その周囲にはファインレースが優雅に舞っている。ここはまさに、夢のような寝室であった。
目を向けた鏡の中には、貴族の装いをまとった少女が映し出されていた。
緻密に寸法を計算されたドレスは身体にぴったりと合っており、金糸で織られた繊細なレースは煌びやかに輝いている。
それは、ゲームの中に登場するアルマの装いが、鏡に写った姿にしっかりと反映されていることを意味していた。
「これが私の新しい人生か…アルマ・ヴァレンシュタイン」
その姿を鏡の中でじっと見つめながら、深いため息をついた。
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