【8】おうえん✕ブレイブ=超新星



「"ステラ・アズール!! オマエは最高の女だ!

 そこいらのカスじゃ到底ついてこれねェ過酷な修行で磨き上げた闘いの腕! どんな事にもへこたれねえ強ェ心! どんな困難を前にしようがくじけず輝かせるスマァァァイルッッッ!!!

 そんで決してもそンな心の勇敢さを顕したような最ッ強のギフト! オマエは負けねえ、この国で最も輝く星がオマエだオラァ!

 このオウガ様が保証してやる! オマエは最高だ。この俺様の隣を歩める女だっ!!!

 だからとっととクソキマイラのヤロウにィ⋯⋯オマエの強さを証明して来やがれっ、ステラァァァァァァァッッッ!!!!"」



 旧砦の外壁が崩落しかねないほどの大声量での、まさか過ぎる大絶賛であった。

 世が世なら学校の屋上で叫ぶような、一世一代の大告白であった。

 それはもう、聞いてる方が恥ずかしいレベルの全身全霊、全力全開のエールであった。



(えええええ。いや。え? な、なんなんですかこれ一体。えっ、夢? こんな状況でなにを、応援してるんですかこれ。もはや告白っぽいというか⋯⋯しかも熱烈な。現にオウガさん顔真っ赤ですし!? あれ!? ああもう、本当になんなんですかこれ一体ぃぃぃ!?!?)


 こんなもんを聞かされれば、流石の銀藍凍土のアイリーンといえど、困惑せざるを得ない。炎を堰き止める氷壁が驚きのあまり消失しなかったのが、むしろ奇跡だ。

 だってそうだろう。

 あのオウガが。悪鬼羅刹の大魔王と恐れられし男が。

 聞いてる方が赤面するレベルの大絶賛の大告白をするなんて、夢にも思うまい。

 現にアイリーンの顔は虚を突かれながらも、トマトみたく真っ赤であった。


「ふっ、ふふふ。キタキタキタァァァァ!!!」

(なっ、ステラさんの周りにまたあの赤いオーラが⋯⋯しかも、さっきとは比べものにならないくらい強い光!)


 だが一方で、真っ赤に燃え上がっている乙女も居た。

 どこまでも青い瞳に星を宿しながら、歓喜するステラを赤きオーラが包み込む。

 否。それは最早オーラというより、紅蓮の炎を纏うが如し。


「さあさあさあ! 度胸十分、気合も充分、オウちゃんからの愛情エールで無限大のパゥワーを! 今見せましょうかね、キマイラ君!」

『グルルルゥ!』


 小さな体躯に満ちる、とてつもない力の躍動。これにはキマイラですら吐き出し続けた火焔を仕舞い、力場の発生源へと威嚇していた。

 だが獣は驚異に鋭敏である。獣は本能で察していた。"あれは挑む事がそもそも間違いな相手"であると。


「ターゲット・ローーーック!!」


 ステラは意気揚々と構えを取った。

 両手でハートを作り、その中心にキマイラを置く。

 さながら照準を定めるように。


『グオオオン!』

「あ、鎖をっ⋯⋯キマイラが逃げます!」

「⋯⋯フン、ほっとけ。どうせもう逃げられやしねえよ」


 キマイラの行動も早かった。警鐘を鳴らす本能に従い、尾蛇に絡まる鎖を無理矢理噛み千切り、剛翼をはばたかせ宙を飛ぶ。だが焦るアイリーンとは対照に、オウガは静かだった。

 鎖とてわざと解いたようなものだ。急ぎ割れた天蓋のむこうへ逃げようとしても、もう遅い。


ぃっぁぁぁつ!!」


 もう手遅れなのだ。

 ステラの光は、空さえ喰らう。


「スーパーノヴァ・ブレイブゥゥ⋯⋯────ビィィィィィィィィィムッッッ!!!!」



 ハートの手から放たれたのは、超膨大な極太光線。

 天井の向こうに九死の先を求めた魔獣は、その先の一生を手にすることは叶わず。


 ビショップ級の魔物キマイラは。

 影すら残さず、赤光に消えた。







◆ ◆ ◆



「おうえん⋯⋯それが、オウガさんのギフトなのですか?」

「そだよー! オウちゃんはね、なんと真心込めて応援することで、お手軽にパワーアップしてくれるんだー! すごいでしょー!」

「え、ええ⋯⋯」


 確かに凄い。否、凄いと言わざるを得なかった。

 オウガによって強化されたステラは、自分でさえ手を焼いたキマイラを一撃でもって葬ったのだ。意固地なきらいのあるアイリーンとて、彼らのギフトの凄まじさを認めざるを得なかった。


「こ、このアホステラ、人の力をペラペラと⋯⋯つうかよ、別に真心なんざ込めてねえし。勝手に勘違いしてんなクソが」

「ふふん、もう何年幼馴染してると思ってるのかなー。テキトーに応援したってオウちゃんのギフトは発動しないことくらい、ステラはちゃあんと知ってるもんね! つまりさっきのオウちゃんのべた褒めっぷりは、ぜんぶぜーんぶ本心なんだよねえ! んにゅふふふふふ!」

「ぐくくっ、ニヤニヤしやがって、心底ムカつくぜ⋯⋯ああクソッ、だからオマエにギフト使うのは嫌だっつってんだ!」

「いえーーい!貴重なオウちゃんのデレタイム、大変美味しゅうございました! オウちゃん大好きーー!」

「ギャアアアア!! やめろこのクソバカ単細胞が、ベタベタ引っ付くんじゃねえええええ!!」



──ギフトとは、即ち才能である。


 才能とは残酷だ。明確な格差を産むのだから。 

 そして、格差は嫉妬と憎しみを芽吹かせる。

 格差が産んだ憎しみに苦しみによって、やがて信じる心を捨てたアイリーンではあったのだが。

 闘いを終えてもなお平然としたやり取りを繰り広げる二人を見て、茫然と思った。


(⋯⋯真心。悪鬼羅刹とまで言われた彼でさえ、そう思える相手が居るのですね)


 誰かを信じる事を止めるということは、自分だけしか信じられなくなるという事である。

 なら、一人で戦うしかない。その覚悟はあった。

 自分が逃げたのは、そういう悲しい道だって分かっていた。

 けれど。けれども。


(⋯⋯でも、私は)


 アイリーンは空を見上げる。天井向こうの青空には、敷かれた分厚い曇がハートの形に"くり抜かれていた"。

 途方もないギフト。尋常ならざる才能。

 でもそれは、彼女だけの力でもない。彼だけの力でもないのだろう。


「あ、ねえねえ。オウちゃんオウちゃん」

「なんだ」

「むふー。討伐スコア、今のでステラの方が一匹分リードだねー?」

「⋯⋯あァ!?」

「わーいステラの勝ちー!」

「こ、このクソアマ、クソキマイラ吹っ飛ばしたのは俺のギフトも兼ねてんだから、そこは同数タイだろうが!」

「駄目デース! ステラの勝ちデース!」


 微笑ましいやり取りを繰り広げるオウガとステラ。その相乗効果。さながら比翼連理のような、確固たる絆でもって示された結果。

 それがまるで、ただ一人のアイリーンでは到底届くことのない光に見えて。


「⋯⋯まぶしい」


 ぽつりと呟いた一言は誰に向けたものでもない。

 向けるべき誰かさえ今のアイリーンには居ないのだ。

 二人から背を向け、もう一度空を見上げた。

 夜に星を探す、迷い子のような横顔で。

 

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