第12話 驚愕の再訪
あの日以来、ハンバーガーショップでの出来事が男の頭から離れなかった。「あれは一体何だったんだ?」あの無愛想な店員との奇妙なやり取りが、どうにも理解できず、男は日常生活に戻りながらも、どこか落ち着かない日々を送っていた。そして、ついに彼は決断した。もう一度、あの店に行って真相を確かめるべきだと。
土曜日の昼下がり、男は再びあのハンバーガーショップに足を運んだ。暖かい陽光が照らす中、店のドアを開けると、以前と変わらない明るい照明と心地よい音楽が流れていた。しかし、その瞬間、男は前回との違いに気づいた。店内の雰囲気が微妙に変わっている。椅子やテーブルの配置が少しずつずれており、壁に掛かっていたポスターが一枚なくなっていた。
「何かが違う…」
彼はカウンターに近づくと、例の無愛想な店員が立っているのを見て、少し緊張した。店員は相変わらず無表情で、淡々と客をさばいている。男の順番が回ってきた時、店員はまるで昨日のことのように淡々と声をかけた。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「チーズバーガーセットをひとつ。ポテトはLサイズで。」男は前回と同じ注文をしたが、今度は少し勇気を持って、店員の目を見ながらしっかりと答えた。
「チーズバーガーセットですね。ポテトは…Lサイズですね?」店員は無表情のまま再確認を取った。
「そうです、Lサイズです。」男は少し焦りながらも答えた。
すると、店員は一瞬、口元を動かし、まるで悪戯が成功した子供のような顔をしたかと思うと、再び冷たく言い放った。
「語尾に『ですか?』って言われるのが俺は嫌いなんだよ。言い直せ。」
男はその言葉を聞いて、一瞬目の前が真っ白になったが、すぐに気を取り直し、逆に言い返してやろうと考えた。「いや、前回もそれで言い直したんですけど…」
「言い直せって言ってるんだよ!」店員はさらに冷たい声で繰り返したが、今度は男の反応に少し驚いたようだった。
「分かりましたよ、『Lサイズにしてください』。これでいいでしょう?」男はやや挑戦的な態度で言い直した。
店員は一瞬、男をじっと見つめたが、すぐに無表情に戻り、レジを打ち始めた。男はその様子を見て、何か異常なことが起こっていると確信した。何かが変だ。店員の態度、店内の雰囲気、そして自分の感じるこの不安感…。
支払いを終え、番号札を受け取った男は、少し後悔しながらも席に座った。呼び出しを待つ間、彼は心の中で次の展開を予測していたが、あまりにも非現実的な気がしてならなかった。
しかし、次の瞬間、男の予想を超える出来事が起こった。番号が呼ばれ、トレイを受け取ろうとカウンターに近づいたその瞬間、店員が突然笑い始めたのだ。無表情だった彼の顔が急にほころび、まるで芝居がかったような笑顔を見せながら、店員は言った。
「冗談だよ。お客様、気づかなかったんですか?」
男はその言葉に呆然とし、何も言えずに立ち尽くした。店員は肩をすくめ、ニヤリと笑いながら続けた。
「実は、当店の新サービスとして、お客様の反応を見て楽しむという、ちょっとしたお遊びをしてたんですよ。もちろん、本当のサービスには何の影響もありませんからご安心を。」
男はその言葉に怒りが込み上げたが、同時に自分が完全に店員に乗せられていたことに気づき、どう反応すればいいのか分からなくなっていた。店員の顔にはまだ笑みが残っているが、男はその奥に何か計り知れないものを感じた。
「まあ、二度と来ることはないだろうな…」男は心の中でそう呟きながら、トレイを受け取って席に戻った。
座席に戻ると、男は冷静になろうと深呼吸し、ハンバーガーの包みを開いた。何が起こったのかを理解しようとしながらも、結局は笑い話として消化するしかないことを悟った。
「まんまとやられたな…」
男はハンバーガーを一口かじりながら、次第にその奇妙な出来事も笑い飛ばせるようになっていた。たとえそれがどんなに不条理であっても、これが彼の人生の一部となり、新たな経験として記憶に残ることは間違いなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます