第13話 散歩中に佐々木と再会

新しい生活に少しずつ慣れてきた男は、日々の喧騒から解放されるため、近所の公園へと散歩に出かけた。緑豊かな木々が並ぶ小道を歩きながら、最近の出来事を振り返っていた。スムーズムーブとの引越し体験、ハンバーガーショップでの奇妙な出来事…彼の頭の中には、まだ解消しきれていない疑問が渦巻いていた。


ふと、公園のベンチに目をやると、一人の男性が座っているのが目に入った。どこかで見たことのある顔だと思いながら、男は少し近づいてみた。すると、その男性がこちらを振り返り、にっこりと笑った。


「おや、偶然ですね。」その男性は声をかけてきた。「やすらぎの佐々木です。」


「佐々木さん!」男は驚きの声を上げた。まさかこの公園で、葬儀屋「やすらぎ」の佐々木と再会するとは思っていなかった。


「最近はどうですか?新しい生活にはもう慣れましたか?」佐々木は穏やかな表情で尋ねた。


「ええ、少しずつですけど、なんとか順調に過ごしています。」男は微笑んで答えたが、心の中にはまだハンバーガーショップでの不思議な体験が残っていた。


「実は、最近ちょっと変わった体験をして…」男はためらいながらも、佐々木に打ち明けることにした。「近所のハンバーガーショップで、どうにも納得がいかないことがあったんです。」


佐々木は興味深そうに頷き、話を促した。「それはどんなことですか?」


男は、無愛想で不可解な態度を取る店員とのやり取りを詳細に話し始めた。語尾に「ですか?」と言うのをやめさせられたり、再訪時に同じやり取りが繰り返されたこと、そして最後にそれが店の「お遊び」だったと知ったことを話し終えると、佐々木は優しく微笑んだ。


「それは随分と面白い体験ですね。ある意味、その店員さんはあなたに忘れられない体験を提供したということですから、ある種のサービス精神とも言えるかもしれません。」


男はその言葉に思わず笑ってしまった。「サービス精神ですか…。確かに、そう考えると少しは納得できるかもしれませんね。」


「人生には、時に予想外の出来事が起こるものです。」佐々木は遠くを見つめながら言った。「でも、その一つ一つが、私たちを成長させるきっかけになることもあります。あなたがその経験をどう捉えるかが大切なんですよ。」


男は佐々木の言葉に深く頷き、心の中のもやもやが少しずつ晴れていくのを感じた。「ありがとうございます、佐々木さん。あなたのおかげで少し気が楽になりました。」


佐々木は穏やかに微笑んだ。「いつでもお話し相手になりますよ。何かあれば、また『やすらぎ』にお越しください。」


二人はしばらく公園を歩きながら、日常の話を続けた。男は、佐々木との会話を通じて、自分の中にあった小さな不安が解消されていくのを感じていた。夕陽が公園をオレンジ色に染める中、二人は別れ際に軽く手を振り合った。


「では、またお会いしましょう。」佐々木は柔らかい声で言った。


「はい、また。」男は微笑んで応じた。


佐々木が去った後、男は一人静かに公園の小道を歩き続けた。彼の心には、佐々木との会話から得た安らぎが広がっていた。人との出会いは、人生において何よりも大切なものであることを、改めて実感したのだった。

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