第4話 予想外の結末

葬儀が終盤に差し掛かると、男は少しずつ周囲の状況を受け入れ始めていた。店員が用意した派手な演出に驚きはしたものの、参列者たちが笑顔を浮かべ、心から故人を偲んでいる姿を見て、男の心にも少しずつ穏やかさが戻ってきた。


「これも悪くないかもしれないな…」男は心の中でつぶやき、キャンドルの優しい光を見つめた。


そのとき、店員が再びマイクを手に取り、少し興奮気味に最後の案内を始めた。


「皆さま、本日は故人を偲ぶための特別なセレモニーにご参加いただき、誠にありがとうございます。これから、最後の演出として、バルーンリリースを行います!」


男はその言葉に一瞬、心臓が止まるかと思った。バルーンリリース?そんなことを頼んだ覚えはまったくない。彼はすぐに店員に駆け寄り、低い声で問いただした。


「ちょっと待ってくれ!バルーンリリースなんて頼んでないぞ。キャンドルサービスと音楽だけのはずだったんだ!」


しかし、店員は悪びれることなくにこやかに答えた。


「ご安心ください!バルーンリリースは本日の特別サービスです。お代はいただきませんので、どうぞお楽しみください!」


「いや、そういう問題じゃなくて…」男は何とかして事態を止めようとしたが、店員はすでに準備を進めてしまっていた。会場内の参列者たちは、ひとつずつ白い風船を手に取り、何が起こるのか期待に満ちた表情で待っていた。


「それでは、皆さん、故人へのメッセージを込めて、バルーンを空に放ちましょう!」


店員の合図とともに、参列者たちは一斉に風船を放ち始めた。風船は静かに上昇し、天井近くまで達すると、あたかも天国へ向かうかのように、ゆっくりと漂い始めた。その光景に、参列者たちの間からは感嘆の声が漏れた。


「これは…」男は、目の前で展開されるこの光景に、もう何も言えなくなっていた。確かにこれほどまでに壮大な演出は想像していなかったが、ふと目を閉じて心の中で故人の顔を思い浮かべたとき、その温かな記憶が蘇ってきた。


参列者たちの穏やかな表情、空に漂う風船、そして遠くで静かに流れる音楽。全てが一つになって、この場を包み込んでいた。


「これは、これでいいのかもしれないな…」


男はようやくその結論に達した。確かに彼が最初に求めたシンプルで静かな葬儀とは違っていたが、こうして故人が多くの人々に愛され、偲ばれている姿を見て、何か大切なことに気づかされたような気がした。


そんな中、店員が再びマイクを握りしめ、最後の言葉を告げた。


「これで本日のセレモニーは終了となります。故人が安らかに眠られますよう、心よりお祈り申し上げます。どうぞ皆さま、お気をつけてお帰りください。」


店員の言葉に、男は静かに頷いた。参列者たちは一人ずつゆっくりと会場を後にし、それぞれの思いを胸に秘めたまま帰路についた。最後に残ったのは、男と、彼に向かって微笑む店員だった。


「いかがでしたか?」店員が声をかけてきた。


男は一瞬、どう答えようか迷ったが、最終的には微笑んでこう言った。


「驚いたよ。でも…ありがとう。きっと彼も喜んでいると思う。」


店員はにっこりと笑い、軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。何かございましたら、いつでもご相談くださいね。」


男はもう一度、会場を見渡し、心の中で故人に最後の別れを告げた。そして、静かに斎場を後にした。外に出ると、穏やかな風が彼の頬を撫で、澄んだ青空が広がっていた。


「また、どこかで会おうな…」


男はつぶやきながら、ゆっくりと歩き出した。背後で風船が空高く舞い上がり、やがて見えなくなるまで、男はしばらくその姿を見送っていた。

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