第3話 運命の当日
葬儀当日、穏やかな日差しが斎場の窓から差し込み、厳かな静寂が場を包んでいた。参列者たちは深い悲しみを胸に、故人との最後の別れを惜しんでいる。男は、会場の片隅で慎ましく佇んでいた。彼の心にはまだ少し不安が残っていたが、準備が整った会場を見て少し安堵した。
会場内はシンプルな飾りつけでまとめられていた。キャンドルが優しく灯り、静かなクラシック音楽がかすかに流れている。男は、この落ち着いた雰囲気こそが故人にふさわしいと感じていた。店員との打ち合わせの結果、ようやく自分の希望通りの葬儀が実現したように思えた。
しかし、その静けさが破られるのは、ほんの数分後のことだった。
「それでは、キャンドルサービスを始めさせていただきます。」
店員がアナウンスをすると、参列者たちは一斉に静かに頷き、手元に配られたキャンドルを持ち上げた。男もその一つを手に取り、心の中で故人に別れを告げた。
ところが、突然のことだった。会場の照明が一斉に落ち、代わりに天井から降り注ぐように現れたのは、色とりどりのライトの光だった。思わず男は顔を上げ、周囲を見渡したが、他の参列者たちも同じように驚き、何が起こったのか分からない様子だった。
「…え?ライトアップ?」男はつぶやいた。
次の瞬間、店員が再びマイクを手にし、興奮気味に声を上げた。
「皆さま、こちらは特別サービスのライトアップキャンドルサービスです!故人を思い出しながら、光の演出をお楽しみください!」
男はその言葉に耳を疑った。キャンドルサービスは話に出たが、こんな派手な演出を頼んだ覚えはなかった。しかし、会場のライトはますます強まり、カラフルな光が揺れ動きながら会場内を照らし出している。
「これは…違う…」男は思わず声を上げたが、その声は既に流れ始めた音楽にかき消されてしまった。静かに流れるはずのクラシック音楽は、突然、壮大なオーケストラに変わり、場内に響き渡る。
その瞬間、男は全てを理解した。店員が最後に言っていた「心を込めた演出」が、こういう形で現れたのだということを。彼は頭を抱えたが、もうどうすることもできなかった。すでに演出は始まり、会場は一種のショーのような雰囲気に包まれている。
参列者たちは戸惑いながらも、キャンドルを揺らし、故人を偲んでいるようだった。男は内心で謝りながら、何とかこの状況を受け入れようと努めた。
「故人も…きっと驚いているだろうな…」男は苦笑いしながら、キャンドルの光を見つめた。心の中で、故人にもう一度静かに別れを告げるために、少しの間だけ目を閉じた。
そのとき、天井からふわりと白い風船が降りてきた。さらに驚いたことに、風船の一つひとつには「ありがとう」「さようなら」などのメッセージが書かれていた。参列者たちは一瞬静まり返り、次の瞬間には笑みを浮かべ始めた。
「…結局、賑やかになってしまったな…」
男は完全に意表を突かれたが、参列者たちの和やかな表情を見て、少しだけ肩の力を抜いた。これは自分が望んでいた形ではないが、きっとこれも一つの素敵な別れ方なのだと、少しずつ受け入れ始めていた。
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