第2話 新たな提案

男の頼みを聞いた店員は、一瞬だけ真剣な表情に変わり、軽く頷いた。しかし、その次の瞬間には再び明るい笑顔を浮かべ、元気よく続けた。


「わかりました、静かでシンプルなプランですね。でも、シンプルといってもいろいろな形があります。例えば、キャンドルサービスなんてどうでしょう?穏やかな灯りが会場を優しく照らし、厳かな雰囲気を作り出します。とても落ち着いた演出で、参列者の皆さんも心穏やかに過ごせますよ。」


男は少しだけほっとした。ようやく落ち着いた提案が出てきたからだ。しかし、店員の目が再び輝き始めたことに気づき、男は嫌な予感がした。


「それと、キャンドルサービスに合わせて、少し音楽を流すのもいいかもしれません。クラシック音楽やジャズなんて、非常に落ち着いていていいですよね。もちろん、故人が好きだった曲を選んでいただいても構いません。」


「音楽ですか…」男は困惑しながらも、静かな音楽なら悪くないかもしれないと考えた。しかし、店員の次の言葉が再び彼を驚かせた。


「それから、映像を使った演出もおすすめです。故人の生前の写真やビデオを編集して、思い出の映像をスクリーンに映し出すんです。ご家族やご友人の方々にとって、素晴らしい思い出を振り返る機会になりますよ。涙を誘うこと間違いなしです!」


男は思わず口を開けたまま固まった。彼はただ、シンプルで静かな葬儀を希望していたはずだった。それがいつの間にか、華やかなイベントのような提案に変わっていることに気づき、どう対処すればいいのか分からなくなっていた。


「いや、ちょっと待ってください。映像とか音楽とか、そこまでしなくても…」


「ご安心ください!」店員はすかさず言葉を遮り、さらに熱心に続けた。「私たちはシンプルなプランにも、心を込めた演出を取り入れることができます。例えば、故人が愛用していた品々を展示したり、参列者全員でメッセージを書いたカードをまとめてお送りするなんてどうでしょう?そうすることで、故人を偲ぶ時間がより深いものになりますよ。」


男は再び沈黙した。彼の頭の中には、次々と提案される様々なアイデアが浮かんでいたが、それらはどれも彼が思い描いていた静かで控えめな葬儀とはかけ離れていた。


「どうですか?」店員は満面の笑みを浮かべ、男の反応を待った。


男はため息をつき、店員の提案をじっくり考えようとした。しかし、頭の中で整理しようとすればするほど、どの提案が自分に合っているのかが分からなくなっていく。結局、彼は一つの決断を下すことにした。


「それじゃあ、キャンドルサービスと…静かな音楽だけでお願いします。他の演出は…遠慮しておきます。」


店員は少しがっかりした様子を見せたが、すぐに態度を切り替え、明るく言った。


「承知しました!キャンドルサービスと音楽ですね。シンプルですが、とても心温まる葬儀になること間違いなしです。ご安心ください、私たちがしっかりとサポートいたします!」


男はその言葉に一瞬だけ安堵し、ようやく少し落ち着きを取り戻した。店員が手際よくプランの詳細を確認し、次のステップを説明し始めるのを聞きながら、男はようやく自分の希望する葬儀が実現するかもしれないという思いにたどり着いた。

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