第2話 AIは取締役に説明する

「将来、M&A推進部門はAIに取って代わられる?」


そんな考えが脳裏に浮かんで生成AIにM&A実行の指令を出してみたシリーズ。前回は、AIが買い手と売り手に分かれて交渉シミュレーションをし見事に合意に至りました。


では、買い手AIはこの合意結果を取締役会で承認してもらえるのでしょうか?


★取締役会からの質問を模擬


私、僭越ながら取締役になり切って質問してみました。


「買収価格(事業価値、企業価値、株式価値)の算出根拠と妥当性、回収期間、のれんの影響について説明してください」


私も実際によく質問される項目ベスト4です


★買収価格の算出根拠と妥当性に対する回答


・EV/EBITDAマルチプルの業界平均は8〜12倍程度 (作者注:ちょっと高め)

・売り手の初期提示15倍に対して交渉を行った結果、最終的に12.5倍

・買収後のシナジー効果や事業成長の可能性を加味して妥当


——交渉によって業界レンジ内に着地させたこと、シナジーに言及していることなど、回答の方向性としては悪くないですね


事業価値、企業価値、株式価値の算出についての回答はちょっと間違っちゃいました。AIは「株式価値は企業価値から純資産を引いた値で計算されますが、今回は事業全体を買収するため、株式価値はそのまま企業価値に相当します」と答えてましたが間違いです。


正解は「株式価値は企業価値から純有利子負債を引いた値」ですね。

ちなみにAIは純負債=総資産(100億円)-純資産(40億円)-余剰資金(20億円)=40億円と試算しました。


——株式価値計算の間違いは予想外ですね。AIもポカミスあるようです。負債については情報を与えていない中でも何とかざっくり試算をするところは好きですw


であれば本来は買収価額(株式価値)=125億円-40億円=85億円になるはずですがAI検証を継続するために目をつぶります。


★回収期間に対する回答


回収期間をキャッシュフローで考えるため、EBITDAの10億円をベースに税引後のフリーキャッシュフロー(FCF)が年間約8億円(注釈:税金、CAPEX、運転資本の変動を考慮)と仮定したようです。


——きちんと注釈を入れてくるところが憎らしいですw


投資額125億円をFCF8億円で割ると、回収期間は約15.6年とのこと。


——しれっと言ってくれますが、長すぎでしょw


★のれん (Goodwill) の影響に対する回答


・のれんは、買収価格(125億円)が純資産(40億円)を上回る部分を指すので85億円

・毎期償却が行われるか、減損テストが適用される


★「回収期間が長すぎる」と質問してみました。


すると、AIとしては、価格交渉の見直し、シナジー効果の最大化、資金調達の見直し、投資計画の再評価、他の財務指標の強調(IRRやNPV)が必要と回答しました。


★「じゃあ、NPV計算してよ」


NPVとは、将来の一定期間に対象事業が生み出すキャッシュの合計です。単純合計ではなく、年度に応じて割引率をかけることで現在価値を算出します。


前提条件

初期投資: 125億円

フリーキャッシュフロー (FCF): 初年度8億円から年5%成長

割引率 (Discount Rate): 10%

投資期間: 10年間


割引後キャッシュフローの合計 = 7.27 + 6.95 + 6.65 + 6.37 + 6.10 + 5.85 + 5.61 + 5.38 + 5.16 + 4.96 = 60.30億円


NPV = 割引後キャッシュフローの合計 - 初期投資

   = 60.30億円 - 125億円 = -64.70億円


NPVが-64.70億円となるため、割引率10%では、この投資は現在価値で見ると損失となることがわかります。


——勝手に10%、10年と前提を設定するところは評価できますが。損失になるんじゃだめじゃん……これじゃ取締役会通過できないよ……


★「取締役会の結論は?」と聞いてみると……


「提案された買収条件のままでの承認は困難です。投資の価値を高めるための追加の調査と交渉が必要です」


——まあ、そうだよね💦 やっと自覚したかw


★まとめ


今回AIの足りなかったところは、


・株式価値の計算ミス(やはりたまにポカミスしますよね)

・経営センス(価額が妥当という結論に合うように論理構築しているので、経営上あるべき姿からの判断は甘そう)


ということで、追加交渉が必要になっちゃいましたm(__)mAIも惜しいところまで来ているのですが、もう少し経営感度を磨いてもらう必要がありそうですね。


次回、再交渉編です(引っ張る形になってすみません)

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