第2話 柊

 そう淡々と告げる彼女。そんな彼女の姿は幼き頃のあの子と重なる。

 彼はあの頃伸ばせなかった手を今、彼女の背中にそっと置く。

「あれれ... ... 私の名前なんだっけ」

 頭では彼女はあの子の娘だと分かっているのに、そうやって泣く姿がどうしても妹いやあの幼なじみに似ている。

「(なぁ唯羅お前が望んだ未来とはこうなのか... ...お前は彼女にあの力を... ...)」

「ふあっ?!」

 まさかの考えが当たってしまったようだ。彼女はドクダミの花を摘んだ途端倒れた。彼女の手に結ばれていたのは唯羅が作ったであろうお守り。

「君は自分で答えを見つけ出さなくては目が覚めない」

 これが唯羅が彼女を救うために渡した苦肉の策。彼女は未来視でわかっていた。彼女が放置されることも、逃げ出すことも... ...。

「はは、これが唯羅お前を見捨てた罰なのか」


 時は十年以上にも遡る... ...


 まだこの丘に人々が溢れていた頃私、いや俺と唯羅は生まれた。彼女は月下美人が咲く夜に生まれた。彼女には五歳年下の妹と言ったが、実際には同い年の幼馴染だったのだ。

 彼女は小さい頃よく体調をくずしていて病弱だった。そんな彼女は、いつも俺と一緒に行動していた。確かに彼女は同い年だけど、妹のようで、守りたくなるそんな存在だった。

 やがて彼女は倒れる回数も減り、花言葉のように艷やかな美人に育っていった。

「お前いい加減唯羅と話すのやめろ。釣り合ってないの自分でもわかるだら」

 成長するにつれ、唯羅と恋仲になりたい村長の息子やその他の奴等にそんな言葉をかけられるようになった。

 唯羅はどこからその情報を仕入れてきたのか、言われた後必ず俺を抱き締めるようになった。

「大丈夫。私はからくんを必要としてる、釣り合いとか関係ない」

 昔は俺が守る側だったのに、今となっては俺が守られてる。彼女に守られるのではなく俺が守りたい。ずっとそばにいたい。

 この時やっと俺は自分の思いに気がついた。思いを告げたときの彼女の笑顔を一生忘れられない。

 しかしそんな幸せな時間はすぐに消え去ってしまった。

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白き花と思い出と 猫部部員 茶都 うなべ @tyanomiya_3

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