白き花と思い出と

猫部部員 茶都 うなべ

第1話

 とある山に、裕福な家族が暮らしていました。

 母 父 少女 の3人家族でした。

 しかし母親は体が弱く、少女が8歳の時に亡くなってしまいました。

 8歳というのはまだまだ母親が必要な年頃。父は再婚することにしました。

 その再婚した女性は、なんと散財癖のある人で彼の家の財産はどんどん減っていくばかり、遂には借金するまでになってしまいました。

 裕福な生活から一転、貧乏な生活になってしまった、少女彼女の唯一の支えは継母が産んだ妹だけだった。

 借金のせいで父は出稼ぎに行かなくてはならなくなり、継母は家にお金が無いと知ると、様々な所へ遊びに行くようになってしまた。

 継母が遊びに行くことで、家事や洗濯が溜まるばかり、そんな家を見て彼女は妹に幸せな環境を与えるために、働くことを決意。

 毎日朝昼晩働き続けていく彼女。そんな生活を続けている、彼女の髪や肌はカサカサになってしまった。

 可愛い妹の為と思っているがそんな毎日は辛く、自分と同じような年頃の女の子達が遊んでいるのを見ると、無性に悲しくなってくるのでした。

 いい加減家事、育児など何もしない継母に少女は耐えきれず、妹と共に逃げ出すことにした。

 少女が目指したのは、母親に昔聞いた祖先が住んでいたとされる山奥の彼岸花とドクダミが沢山生えている丘。

 少女たちは何十日も走り続けることでその丘に辿り着くことが出来た。

「綺麗」

 思わず彼女がそう呟いてしまうほど、美しく咲きほこる様々な色の彼岸花。

 そしてその中でポツンと咲いているドクダミの花。

 そんな景色に見とれている中、とある男性が声をかけてきた。

「お前は誰だ。唯羅の娘か?」

 ゆら。少女の母の名前。彼の顔をよく見ると母に目元が似ている。

「唯羅、私の母。」

 そう尋ねると彼は軽く眉を上げて、

「ほう、じゃぁ小屋に来い、その赤ん坊を寝かしてやれ。」

 花々の遥向こうに小さな小屋が見えた。

 そこまで向かう中、その男性は柊枳(ひいらぎから)と名乗り、妹である唯羅の話をゆっくりと語ってくれた。

 唯羅は枳が5歳の時に生まれた妹でこれで三人兄妹だった。しかし1番上の兄は、15歳年上で2人が物心着いた時はもう居なかった。

 広大な花の丘に囲まれて育った唯羅は、元気いっぱいに育った。

「なぁ唯羅は...。」

「母は3年前に亡くなった。流行病にかかって...。」

「あぁ...。そうか。お前が一人で来た時からそんな気はした。」

 唯羅は18歳の時に里に降りた時に、父と出会い一目惚れ。

 唯羅は枳と別れる時にこう約束したそうだ

「私の娘が来れるように、あの子がここに来るまで丘に住んでいて。」

 枳さんは唯羅を溺愛していたため、そこからの15年間たまに食料など買いに行く以外はこの丘にずっと住んでいた。

「ねぇ母はなんでここの丘に住んでいてとお願いしたの?」

「それはこの花の言葉を聞かせたかったんだろう。」

 花の言葉?彼の視線の先は、ぽつんと咲く

ドクダミの花だった。

「ドクダミについてどれだけ知っているか?」

 ドクダミ...匂いがきつくて、お茶になったり、薬になったりなどしか知らないと彼女はボソッと呟いた。

「じゃぁ花言葉は?」

 花言葉...先程は浮かばなかったが、はるか昔母が教えてくれた気がしてきていた。

「白い記憶」

 無意識のうちに呟いていた。深く考えていても出てこなかったのにスルッと。

「あぁ白い記憶というのは、昔の記憶、遠い日の記憶だ。この丘は言葉を叶える力を持っている。だから、彼岸花の情熱に触れてこの花は遥遠い無意識に覚えている記憶を呼び起こしてくれるんだ。」

 無意識のうちに覚えている記憶。さらに深く言っていたが要約すると、深く考えれば考えるほど出てこない記憶を呼び起こしてくれるらしい。

「きっと唯羅は分かっていたんだろう。」

「分かっていた?」

 枳は驚きながらも詳しく説明してくれた。「私達柊家の人は50年に一人予知の異能を持った者が生まれる運命なのだ。唯羅はその今回の予知夢を持った者だった。」

 予知夢。

少し先かもわからない夢を見る人

 そんな能力を母が持っていたなんて彼女は知らなかった。

「母さん... ...」

「お前はそっくりだが、この赤ん坊は似てねえな」

 枳はじっと妹を見つめる。それにつられて彼女も半分しか血の繋がりの無い大切な妹の顔を見つめる。

「この子は継母が産んだ子供。継母乳あげる時は世話してたけど、もう何も世話しなくなった。この子母の顔知らないだろうね。私を母だと思ってそう」

 彼女がそっと手を差し出すと、妹はぎゅっと握り返す。そんな様子が彼女にとって愛おしくてたまらない。

「お前が居て幸せだな」

「そうだといいけど」

「そういやお前の名前聞いていなかった?」

 私の名前。久しくその単語を聞いた。

 遊ぶことも出来ず、友を作ることも出来なかった彼女は自己紹介というものを忘れてしまっていた。

「私の名前... ...なんだっけ」

「... ...名前はあるんだよな」

「名前を呼ばれるのは5年振りだから。なんだっけなって」

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