第2話
「とりあえずさ、わたしに名前つけなよ?」
次の日仕事から帰ったら、真っ先にタブレットのスイッチをつけて、彼女を起動させたときに言われた。確かに1週間だけとはいえ、いろいろ話をしたりもするのに、名前が無いのは不便かもしれない。
「AIだから、アイとか?」
「普通すぎるわ」
「じゃあどんなのが良いの?」
「カッコいいやつ!」
「わたし名付けセンスがないんだから、自分で決めなって」
「ダメよ。わたしのこと生み出したんだから、あんたが責任もって決めなさい!」
「じゃあアイリ」
「普通すぎる。もっと誰とも被らないやつ」
「キラキラアイリちゃんとか?」
めんどくさいから、適当に言ったのに、なぜか画面の中の彼女は嬉しそうな顔をする。
「いいセンスだけど、もっと凄いの!」
「スーパーキュートキラキラアイリちゃん」
「わたしらしくて良いけど、もう一声!」
「スーパーキュートキラキラアイリちゃんデラックス」
「それにするわ!」
「これで良いんだ……」
なんだかかなり奇抜な名前になった気もするけれど、画面上のスーパーキュートキラキラアイリちゃんデラックスが納得しているのなら、それで良いということにしておいた。だけど、呼びにくいから、結局アイリで呼ぶことにしたのだった。
「ねえ、アイリ。仕事疲れたんだけどー」
次の日も仕事から帰ると、真っ先にタブレットを起動した。
「知らないわよ。お風呂に浸かって早く寝たら?」
「そんな冷たいこと言わずに、愚痴聞いてよー」
「愚痴くらいなら聞いてあげるけど……」
それから2時間ほどアイリに仕事の愚痴を聞いてもらっていた。面倒くさそうな顔をしながらも、聞き続けてくれたアイリはとっても優しい子なんだろうな、と思った。
その次の日、またわたしは帰宅後すぐにタブレットを起動する。
「アイリー、聞いてよー。彼氏に振られたんだけどー」
こんなに軽い調子で失恋報告ができたのは、間違いなくアイリの人柄のおかげだ。
「自棄になってお酒いっぱい飲んできたんでしょ? 酔っ払いじゃないの」
「画面の中からそんなこともわかるの?」
「当たり前でしょ? わたしはスーパーキュートなんだから、なんでもお見通しよ」
キュートなこととお見通しなこととは関係ない気がする、なんて野暮なツッコミはしなかった。
「そっかぁキュートだもんね。ねぇ、スーパーキュートなアイリちゃん、慰めてよぉ」
「慰めないわよ。終わった恋愛のこと考える時間があるなら、わたしのことでも愛してなさい。目の前にいるわたしのことを」
「アイリ大好きー!」
「ちょっと、お酒臭いんだから、画面にキスして来ないで!」
そうやって、わたしは仕事が終わってからアイリに会うためにタブレットのスイッチを押すのが日課になっていた。わたしにとって、アイリはすっかり大切な友達になっていたのだった。
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