番外編3 安藤優太は隣を歩みたい

───それは後夜祭の時の出来事であった。

詩音の告白の現場に出くわした恵と優太の2人だが、神成の本性を目の当たりにした恵は神成の頬を叩くと涙を流してその場から走り去った。

そんな恵の後を、優太は急いで追いかけ……


「加納さん走るスピードが……」


必死に恵を追いかけるが追いつく事が出来ない。

だが、見失う程の距離になることは無く、何とか追い続ける。



そうして、学校の裏門から出て人通りの少ない道に出た頃にようやく恵の足は止まったが……恵の目からは未だに涙が零れている。


「はぁ……はぁ、加納さん足早すぎ」


少し遅れて優太も恵のすぐ側にまで来た。


「加納さん……大丈夫?」

「……私の……せい……で……」


優太は恵に声をかけるが、優太の方を見ることなく恵は途切れ途切れに独り言を呟いている。

そしてそんな恵の姿を見て優太は呆然としてしまう。初めて見る想い人の弱った姿に対してどう声をかけるべきなのか分からなかったのだ。


「私がっ!私が詩音の事を傷つけたんだ……私が神成の事を理解わかっていればこんなことには……」


「加納さんは悪くなんて───」


「やめて!やめて……」


恵は頭を両手で抑えると遂にはその場でうずくまった。


「加納さん……」


「やめて……下さい。私は最低なんです。

許されちゃいけないんです」

「そんなことは───」


「私はまた、逃げてしまった……もう逃げないって決めたのに。それに思うがままに神成に手を出して……」


「加納さんは悪くなんて!だって、僕に詳しい事は分からないけど神成君が水町さんにやった事はきっと酷い事で……神成君を叩いたのも水町さんを思っての事じゃないの?」


「……分からない、私はただ感情的になって……どうして安藤君は私なんかを庇うんですか」


「それは……」


「私は、安藤君が思うよりずっと弱い人間なんです。あの時だって、好きな人に気持ちを伝える事から逃げて……」

「……」


恵から出た『好きな人』と言う言葉を聞いた時に優太は1人の友人が思い浮かぶ。

───が、今はそんな事はどうでも良くて……


「弱くなんてない!僕は、何度も加納さんに救われてきたから……昔からずっと加納さんの存在に。今だってそう、今僕が頑張れているのは加納さんがいるからなんだ。少なくとも加納さんよりも僕の方がずっと弱かった」

「……そんなこと、安藤君は───」

「でも!弱いなら強くなればいい!」


(ヒュルヒュルルル〜ドーーン)

───そう、優太が口にした時花火が上がり始めた。


「人間は、変われる。加納さんが弱いって言うなら強くなればいい!

……それでも強くなれないって加納さんが言うなら、僕が支えます。ううん、僕だけじゃない。大樹も、涼も、それに他のクラスの皆、加納さんの事が大好きなんです」


「私の事が……?」


「加納さんが……好きなんです。だから、1人で抱え込まないで。僕がここまで変わったのも加納さんの力になりたくて……隣に立ちたかったからで……」

「……」

「だから、もっと頼って……欲しいです」


優太がそう口にすると───恵が右手を差し出した。


「え?」

「立たせて……下さい」

「え、あ……はい!」


その言葉で少し慌てながらも優太は恵が起き上がる手伝いをする。


「……あの、加納さん」

「戻りましょうか」

「え?」

「やっぱりちゃんと話さないといけませんから……神成とは向き合わないとけないと思うんです」



「姉さん……姉さん……」


涼達が立ち去って以降、ずっとその場でうわ言を呟いている神成だが……


「神成!」「神成君」

「姉……さん?なんでここに……」

「……ちゃんと話に来たの」


神成の元に、少し目が腫れたままの恵と優太が現れた。


「なんで、だって俺は……」

「『俺』、なんだね。」

「え?」

「今まで『僕』だったから」


優しい瞳で見つめる恵と、気まずそうにした神成が対面している。そしてそれを優太が横で見ている。


「ねぇ、今まで知らなかった神成の事教えてほしいの」

「姉さんは俺が憎くないのか?」

「憎いとか……ないよ。神成は私にとって大切な家族なんだから。───でも、詩音にしたことは許せない」

「……」

「ねぇ、神成どうしてあんな事したのかも含めて全部教えて」

「分かったよ姉さん───」






「……神成君、加納さんのこと大好きなんだ」

「当たり前だ、姉さんは俺にとっての神なんだ」

「そんな風に思ってたんだ……そっか。今まで気づけなくてごめんね」


神成から告げられた内容に2人とも動揺はしたものの、しっかりと受け止めた。

そして優太に限っては改めてライバルとして敵対心を燃やした。


「姉さん、今までごめん」

「違うよ神成、謝るのは私じゃなくて詩音にだよ」

「うん……」

「確かに神成は酷いことしたけど、根は悪い子じゃないの知ってるから……きっと変われる」

「俺は……」


「確かに、知らない所の方が多かったけど……ずっと見てきたから。バイトしてるお金を施設の子供達のゲーム機とかおもちゃの為に使ってること、それに施設に行くと毎回従業員の人に神成がいつも手伝いしてる事、感謝されてるんだよ?」

「……」

「だから、私は神成の事嫌いにならないからこれからは本音で接して?」

「うん……」


この時、神成は初めて涙を流した。

そして恵はそんな神成の頭をただ優しく撫でた。



「涼ーー!」

「あ、優太……それに加納さんも!」

『おかえり』

「それと……神成」

「───本当に悪かった」


優太らが涼と詩音の2人と合流すると、その場で神成が頭を下げた。


「詩音さんの好意を利用して傷つけた事、許されない事だ。許してくれとは言わない。本当にすまない」


『いいよ』


神成の謝罪すると即座に返事が帰ってきた。その返事の速さに神成すら驚いている。


「本当いいのか?」

『気持ちが伝わったから許すよ』

「……ありがとう」


「なぁ優太、なんか神成……凄い変わってないか?」

「まぁ……色々あったから」


神成の姿を見て、涼もまた驚いきながら、一緒に戻ってきた優太にそんな事を耳打ちした。


「ねぇ、涼」

「うん」

「僕、涼に負けないから!」

「……?うん」


優太のそんな言葉の真意は分からなかったが、真剣そうな雰囲気を感じ取り涼は言葉を返した。

そして、この時優太は改めて決心をした。

『加納さんの隣を歩ける様になる』と


────────────────────

【補足】

これ以降、卒業するまでの間は神成が事件を起こすことはなく恵が後に入ってきた1年生に告白される事が増えます。

───が、告白をOKする事は無かったそうです。一応3年生になると『生徒会長の恵』と『副生徒会長の神成』が付き合ってる噂が立ったりもしますが、他にも『書記の優太』と付き合ってるという噂もあった様です。


それでも実際は恵は誰と付き合っていたでもなく……月日と共に優太に惹かれてはいた物の、いつまで経っても優太が告白しなかったために大学生になってからのデート中に自分から告白したとか。

優太の言い訳としては、「もっと加納さんに見合う男になってから告白する予定だった」だそうですが……恵としては?










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