番外編2 好きな映画作品の続編は最高
季節は夏、ちょうどお盆の時期だ。
詩音にマリの世話を任せて僕は藍斗らと会うために外出している。
僕は待ち合わせとなっている映画館の扉の前で今回見る映画の予告映像を立ち見する。
藍斗と直接会って話すのは何年ぶりだろうか。記憶が正しければ結婚式に呼ばれて以来だから……2年程前になるのか。
やっぱり大人になるとお互い時間が合わなくなるもので……それに住んでる所も遠くて気軽に会うのも難しい。
確か藍斗の住んでるのはいい所のマンションなんだよな。
確か波乃……じゃなくて香奈さんの車で向かってる話だったから時間的にそろそろ来る頃だと思う。
「おーい!涼!」
―――お、この声は……!
そうして僕が声の聞こえた方に視線を向けると底には藍斗と香奈さんの姿があった。
「藍斗、それに香奈さんも久しぶり!」
「おう!久しぶりだな」
「涼先輩、お久しぶりです」
……大人になっても未だ先輩呼びは抜けていないらしい。
「うん、それじゃあとりあえず席の予約とか済ませよう」
そうして最低限の挨拶を交わした僕らは予めスマホで予約していた席のチケットを発券するために館内へと入ることにした。
◇
チケットの発券を済ませたのはいいけど、まだ上映時間まで30分以上あるな……飲食物を買うにしてもまだ早いしどうしたものか。
―――と、そんな事を考えて一旦2階にある座席に着くと……
「そういえば涼、子供の件おめでとう!」
「あ……そういえば直接まだ言えなかった。
涼先輩おめでとうございます」
「ありがと、ちなみに写真あるんだけど見る?」
「え!見たいです見たいです!」
うん、香奈さんが凄い目を輝かせてる。
自分の娘の写真の為にこんなにもいい反応をして貰えるというのはいい気分だ。
「うわぁ……ちっちゃいですねぇ可愛い〜」
「目つきとか涼にそっくりだなぁ」
「もう本当に可愛くて仕方ないよ」
「親バカですねぇ」
親バカ……まぁ否定はしない。むしろ全力で肯定する。
それにしてももうマリも生後6ヶ月か……
時間進むの早いなぁ。成長していくのは嬉しいけどもう既に成長した時のこと考えて涙出そう。
これが大人になるってことなのかもなぁ。
「なんか……俺達も早く子供欲しいな」
「もう、藍斗ったら」
おい、子供が沢山いる所でイチャつくな。
(ひそひそ……)
おや?何やら僕よりも少し年下っぽい青年2人がこちらを見ているな。
まぁイチャついたカップルがいれば目にも止まるか。
……なんか青年の1人が近づいてきたわ。
「あの、間違ってたら申し訳ないのですが
もしかして水泳の藍斗選手ですか?」
「あぁ、そうだけど何かな」
「あの!実は俺達藍斗選手のファンなんです!」
「お、そうなのか!それはありがとう」
あー藍斗のファンなのか。
まぁこういう事もあるか……なんせ去年のパリ五輪の男子1500m自由形で金メダルを取った訳だからファンが居てもおかしくも
無い。
「良ければツーショットとかって……いいですかね」
「そうだなぁ……まぁ俺で良ければ」
「あ、ありがとうございます!おーい、
ーー大丈夫だってさ!」
藍斗から許可を貰った青年はもう片方に、そのことを知らせる。
―――そうして、少年2人とツーショットを撮り終わると入場出来る時間の間近となっていた。
「そろそろ食べ物とか買いに行こ」
「あぁ!そうだな」
「私は限定のハートジェムポップコーンがいいです!」
ハートジェム……それは「魔法少女マジカソレハ△」に出てくるキャラクターが変身する時に使う魔法アイテムである。
どうやら、その魔法アイテムを容器としたポップコーンがあるらしい。
味は『ドキドキ♡憎悪のイチゴ練乳味』だ。
そうして各自でドリンクとポップコーン、そしてフライドポテトを購入するのだった。
……久しぶりに映画館に来たのだがソフトドリンクが単品じゃなくてドリンクバー形式になってる。
一応単品のドリンクもあるが、それはコラボ商品だとか、ちょっとオシャレな飲み物でドリンクバーを頼むよりも高い。
そこまで以前までと値段に差がある訳では無いが映画館でドリンクバーというのは損した気分になる。だって1度入場したら終わるまで1階には降りられないから仮に飲み終わってもおかわり出来ないし。
まぁ、映画見終わった後におかわりすればいい話だけど……それはなんか違うんだよなぁ。
『───もう絶望する必要なんて、ないよ』
覚醒した主人公の手によって絶望に塗れた世界が一から構成され直していく。
そうして作り直された世界では、命も夢を失った者、異形に成り果てた結果想い人に否定された者、そして魔女に上半身をパクッとされた者も生きている。
だが、その世界には主人公は居ない。
そして主人公を救うために繰り返してきた少女は新しい世界の観測者となったのだ。
……重い!やっぱ内容が重たい。
初めて見た時にも思ったけど子供向けではないわ。でもそこがいいんだよなぁ。
「うぅぅ……辛すぎますよぉ」
館内から出ると香奈さんは堪えていた涙を滝のように流し始める。
気持ちは分かる。僕も泣きそうだし。
「やっぱり全員が救われるENDはないんだような」
「でも作品的にはそれが正解なのかもしれないね」
……多分あれが完結編っぽいから続編は無いだろう。それに前回と比べれば救われた者が居て悪の存在も消えた訳だからあの作品においては幸せなENDだと言えると思う。
それでも、誰も犠牲になることなく終わるようなifの続編が作られるならそれも見てみたいな。
───と、なんかシンミリしてしまった。
「……私決めました!」
ん?香奈さんが泣き止んだかと思ったら財布を取り出したぞ?
「今からクレーンゲームで全員の人形取ってその子たちと幸せに暮らす!」
「……香奈ってそういうの苦手じゃなかったか?」
「数やればいけるの!」
……多分きっと間違いなくこれから長ーい
闘いが始まる。
◇
「それじゃあここでお別れですね」
「そうだな!今日は楽しかった……涼ありがとな」
小銭袋が空っぽの財布を見つめる香奈さんとたくさんの人形の入った紙袋を抱えた藍斗がそう言う。
「うん、僕も楽しかったよ」
「……次に会うときは、もしかしたら俺たちにも子供がいるかもしれないな」
「それはそれは、楽しみにしてるよ」
「ちょっと藍斗、子供よりも前にやりたい事あるんじゃないの?」
「ん、あぁそうだったな!」
やりたいこと……?なんだろうか。
「涼!また一緒に水泳をやらないか?」
「……それはプロとして?」
「あぁ!足も治ったお前なら今からでも目指せると俺は思うんだ」
「んー、現役の藍斗が言うと説得力がある」
「だろ?」
「……でも、僕はプロは目指さないよ」
そう言うと藍斗は口を閉じて真剣な眼差しで僕の次の言葉を待つ。
───足が治った時、1度考えた事があった。
もう一度プロを目指すことを……だけど。
「意外と今の仕事……水泳教室の講師好きなんだ。それにもう
「……そうか!」
「うん、でもまたプールで一緒に泳ぐくらいないいよ」
「お!じゃあ次は一緒にプールだな。今の俺は手強いぞー?」
「昔から手強かったけどね!まぁでもやるからには勝つ気で行くから!言っとくけどそっちがチャレンジャーだから」
「涼は相変わらずだな」
でも次会えるのいつになるかなぁ……
「じゃあお盆の間はこっちに泊まってく予定だから明日行くぞ!」
「え、早くない?」
「いいですね!久しぶりに私も2人の勝負見たいです!」
「ってことだ、明日は奥さんも一緒でいいぞ?」
「ん、分かった分かった。また明日ね!」
そうして2人の後ろ姿を見送ると僕も帰路へとつく。
まさかいきなりこんなことになるとは……でも、せっかくだし優太とか大樹も誘ってみようかな。
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ということで2つ目の番外編でした。
終わり方的に次回はプール編っぽくなりましたが次回は例の文化祭のあそこです。
予定では次回文化祭のやつ→涼と詩音が付き合うまで を書いて一旦完結にします。
気分次第で変わるかもしれませんが残り2話も楽しんでいただけると幸いです。
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