最終話 僕らの10年後

「「こんにちわーお邪魔します」」


まだ新しく綺麗な二階建ての家に入ると優太はそんな挨拶をする。


「おぉー!優太久しぶりだな!」

「いや先週会ったばかりだよ⋯⋯」

「でも昔と比べれば1週間ぶりってのは久しぶりだろ?」

「学生の時と比べないでよ⋯⋯」


そんな優太を出迎えたのは私服姿の大樹であった。そんな大樹からの言葉に優太は少し呆れたように返事をする。


「加納も久しぶりだな!⋯⋯いや、今は安藤か?」


優太と共に家に訪れた恵に対して大樹はそんなことを言う。


「いえ、まだ加納ですよ。ねぇ?優太君」

「うっ⋯⋯ごめんなさい」


自分の性がまだ『加納』であることを大樹に言うと優太の肩に手を置き、優太は申し訳なさそうな顔をして謝る。


「はっはっはっ!優太は相変わらずだな!

告白も確か加納からなんだろ?」

「うぅ⋯⋯」

「そうそう⋯⋯いつまで経っても告白してくれないので結局私からだったんですよね」


大樹は笑い優太は尚更縮み込み、恵は少し怒った様な顔を見せる。


「大樹ーーー!早く準備しないと!時間もうないでしょーーー?」

「あぁすまん!ちょっと思い出に浸ってた!」


家のリビングの方向から女性のそんな大きな声が聞こえると大樹は『あっ、やべっ』と言った表情になり言い訳を言った後に直ぐにリビングの方へと向かう。


「あはは⋯⋯やっぱり大樹は大樹だなぁ。

京子さんも大変そうだ」

「私は京子さんが羨ましいですけどね」

「ごめんなさい⋯⋯」


京子。それは大樹の高校時代に所属していた肉体改造部の部長であり、元恋人の名前だ。10年経った今では3歳と1歳の子宝に恵まれ、子供を産んだ際にジムのトレーナーを辞職して専業主婦となった。


「まぁ⋯⋯今日はなので許してあげます。早く私達も準備手伝いましょうか」

「はい!」


そうして大樹達の手伝いをする為に二人はリビングの方へと移動する。


「ゆーたとめぐちゃだ!」


リビングに向かうなり3歳の男の子が駆け寄ってくる。


「お、竜胆りんどう君!」

「前会った時はまだまだ喋れ無かったのに⋯⋯子供の成長は早いですね」


そうして優太が竜胆を抱き上げると恵は頭を撫でる。


「ゆーた!りょーはいないのー?」

「うーん⋯⋯もう少しで来るんじゃないかな」

「そっか!」

「“ヴアーァァ”」


そんな会話をしているとベビーベッドの上で横たわっていたまだ1歳の女の子の赤子が泣き声をあげる。


「あ!牡丹ぼたん泣いてるー恵ちゃん!こっち任せてもいいー?」

「はい!大丈夫です」


そうして料理の最中だった京子と恵は役割を交代すると台所に立った。



「いやーさっきはごめんね!恵ちゃんがいて助かったよ」


準備と牡丹のあやしを終えると大きなテーブルの前に集まり一息付いて先程の感謝を

京子が恵へと伝える。


「いえいえ、こういうのは昔から慣れてるので」

「ほんとに恵ちゃんは謙虚なぁもっと自信もっていいのに!大手企業の社長さんなんだし」

「ふふ、父の会社を継いだだけですから」


恵は高校から有名大学へ、そうして父の会社で数年務めた後に今では会社を継いで社長へとなっていた。


「だが加納だけじゃなくて優太も凄いぞ!!今じゃ中学の先生だもんな!」

「えへへ」

うちの子が中学校に上がった時に面倒見てくれよな!」

「もう!大樹ったら気が早い!でも優太君になら安心して任せられるわね」


優太は高校を卒業後、それなりの大学をでると教員免許を取得すると今は中学校の体育教師となった。教員を目指したキッカケは恵と接することによって子供に関わる職業を目指すようになったからだという。

なお、体育教師になったのは大樹の影響が大きいだろう。


「でもこうして皆で集まるのも1年ぶりなんですね⋯⋯」

「まぁ全員の時間が合うことなんて滅多にないからな!」

「うー⋯⋯ぱぱいつもいそがしー」

「ごめんな竜胆⋯⋯でも!時間がある時は好きなだけ遊んでやるから安心しろ!」

「大樹は警察官だからいつ仕事が入るかも分からないもんね」

「だが街の平和を守るって言うのはいいものだぞ!」


そうして誇らしげに胸を張る大樹の膝に上に竜胆は甘えるように膝の上に乗った。


「それにしても二人来ないねぇ⋯⋯」


優太は時計を見るとそう呟く。


「そうだな!俺も早くプレゼントを渡したいぞ!」


そうして大樹は置かれた3つのプレゼントに目をやる。


「あれ、そういえば優太くん達はそれぞれでプレゼントを用意したのか?」


大樹の言葉に同様にプレゼントの方に目を向けた京子はそんな事を思う。

それは大樹と京子は2人で1つのプレゼントを用意したからだ。


「ううん、これは神成君からだよ」

「あぁ!神成か!懐かしいなぁ」

「一応呼んだんですけど⋯⋯やっぱりあの子は忙しいみたいで、プレゼントを代わりに渡すように言われたんです」


―――神成は高校卒業後、施設から姿を消したかと思うとその5年後に唐突に海外で世界に名を轟かせる企業を立ち上げたかと思えばその権利を売り、今では多くの企業の超大手の 株主となっていた。そして、そこから生まれた莫大な資産はスラム街にいる子供の保護に使われているらしい。

噂ではその他に悪徳な宗教集団を潰す活動と、宗教により人生が破滅した者の支援もしてるいるとか。

ちなみに未だに結婚はしておらず、定期的に日本に帰ってきては恵の家で時間を過ごすか、施設『ハイビスカス』で子供の世話を見ている。


「なんか!皆の話を聞いていたら余計に早く会いたくなってきたな!」

「うん、僕も」

「きっともうすぐ来ますよ」


(ピンポーン)


「お!?チャイムがなったぞ!来たかこれは!」

「行こう!」


優太と大樹を先頭に皆で玄関へと向かい扉を開ける―――


「あ、皆!ごめん待たせちゃって」

「ごめんね皆、この子のオムツ替えてたら遅れちゃって⋯⋯」


開けた先には立花涼と、立花詩音がいる。そして紫音の腕にはまだ幼い赤子が包まれている。


「よく来たなぁ!準備は出来ているぞ!」

「3人ともいらっしゃい!さ、上がって」


そうして大樹と京子が先導して沢山の料理の乗ったテーブルの前に人を招く。


「それでは、皆集まりましたし⋯⋯始めますか」

「優太!お前が挨拶していいぞ!」

「え!僕が!?」

「優太君、君がやらないで誰がやるんだ!」

「そうだぞ優太ー早くしろー」

「優太君、男気だよ」


「じゃあ⋯⋯えっと、涼に詩音さん、第1子誕生日おめでとう!!」

「「「おめでとーーーー」」」


優太の言葉に続いて3人も祝いの言葉を口にする。


「ありがとう皆」

「⋯⋯ふふっ、この子も皆に祝われて喜んでる」


「ちなみに涼、その子の名前はなんて言うの?」


優太が涼に向かって聞く。


「―――マリ、立花マリだよ」


「マリちゃん!うん、いい名前だね!」


「私と涼が出会えた様に、この子にも縁がありますようにって名前を付けたんだよね」


「うん⋯⋯今まで諦めた時もあった、けど優太と大樹と友達になって、加納さんに何度も助けて貰って⋯⋯まぁ、神成と色々あったり、病院の帰りに詩音と偶然出会えたことも、その全部に縁があったからこそ今の幸せがあるんだ。

だから⋯⋯皆、いつもありがとう」


「僕も涼に感謝してる!多分涼が居なかったら恵さんと今みたいになれなかったし⋯⋯」

「ふふ、そうですね」


「俺もだ!俺も涼がいなかったら今の筋肉にはならなかった!」

「うん、私は大樹の筋肉が大好きだから涼君には感謝している」


「私は⋯⋯涼が居なかったらきっと、声も元に戻って無かったと思うし、歩くことも出来なかったと思う。いつも優しい涼が大好きだよ」


(夢を諦めたあの頃の僕はきっと、こんな未来が待っていることは予想もつかないんだろうな⋯⋯でも、今では守るべき存在が居る。まぁ今の僕は水泳選手にはなれなかったけど⋯⋯それでも僕は幸せだ)


fin

――――――――――――――――――――

紹介出来なかった奴と後書き


立花涼の10年後:高校卒業後医療関係の学部に進学した後に新型声帯炎症病に関する研究を始めた。そうして長年の成果により新型声帯炎症病の原因となる新種のクラゲこと

『魔女クラゲ』(頭の部分が帽子のようなっていることから名付けられた。特徴として水の中では完全に透明となり姿が見えなくなる)から抗体を作り出すことに成功した。

これにより詩音を含む新型声帯炎症病にかかった者の喉の炎症を引き起こす毒を打ち消す特効薬を開発し、一定期間の療養により治すことを可能とした。

また、毒の足の神経を発達させる神経毒の改良によって障害をおった足を再び動かすことの出来る薬の開発に成功した。

これらの功績によりかなりの大金を得ることができ、一時は医療関係の仕事に就くことも考えたが詩音を治す目的を終えた以上、本当にやりたいことが別にあるのでやめた。

そのやりたいことはかつて恵に言われた水泳に携わる物、ということで水泳教室のコーチを始めた。

一応足は完全に復活したが、

『プロ水泳選手の夢は親友に託したから』という理由で目指さなかった。

そんな涼は最近、大金を元手に投資を始めたらしく、そのコツを神成から電話で聞いているらしい。


立花詩音の10年後:新型声帯炎症病の特効薬を打って声を出せる様になったばかりの頃は久しぶりの声を出す感覚に慣れず長いリハビリ期間の末に以前のように歌うことができるようになった。

まだ新型声帯炎症を患っていた高校卒業後は、涼と恵と同じ大学を目指すことは出来なかったため高校卒業後、ファッションデザイナーとなった従兄弟の吉田明美の旦那の開く美容院にてメイク関係の勉強がてら働ていた。

完治してからは昔のようにカフェで歌うのと並行して配信サイトで顔出し無しの歌い手としての活動をしているらしい。

その美しい歌声が人気を呼び、有名なVアイドル事務所から勧誘を受けたが自由に歌いたい事を理由に断った。

妊娠をキッカケに活動休止を発表し子育てに今は専念している。

そして妊娠を発表した時に熱狂的なファンによる脅迫が来たらしいが、その事を恵越し聞いた神成が何かをしたらしく、それ以降特に問題は起こっていないとか。


28話で人魚姫症候群を涼に教えたやつの正体:神成の裏アカ。

たまたま人魚姫症候群という単語を見つけた神成が涼と詩音をくっつける計画の一旦として27話の際に眠った涼のスマホを勝手に触ってアカウントを特定して送った。


最後に神成の苗字が変わった理由:シンプルに自分の育ての親である神童家の事が嫌いだったからその名前を捨てたかった。

下の名前まで変えなかったのは恵から神成呼びれているから。




〈後書き〉

ということで人魚姫シンドローム症候群〜夢を諦めた僕と失った君 これにて完結です。

急遽10年後に飛びましたが締め方がこれしか思いつかず無理やり終わらせた感の否めない展開になりました。

ですが、当初よりこの終わり方の予定ではありました。

一応展開を変えて病気を治す決心をするタイミングをずらすことで1年生の終わりまでは書くことも可能でしたが小説を書く実力が無いために違和感が増えない内に終わらせました。


本作を書いていて自分でも思いましたが、小説を書く才能がありません。基礎の基も出来ていなければ読みにくい、表現技法の引き出しが少ない、展開も下手と悪い所が多くあります。

―――ですが、そんな本作が好きだったりします。

とは言っても改善できるのならそっちの方が良いので次に長編を作る際には他の小説で勉強してからにします。


それとこれで完全に終わりのような雰囲気ですが『本編完結』なだけで『番外編』という形で続けます。

優太と加納さんの重要なシーンも書けていませんし……何よりも藍斗君が最終話なのに触れられもしていない。

ということで本編では描くことの出来なかった部分やオマケエピソード、涼と詩音の付き合った経緯などは書きます。

ただし、今までの様に毎日投稿では無く、不定期と言った形になります。


―――そんなことで拙作にはなってしまいましたが、ここまでご覧いただきありがとうございました。

特に投稿する度に毎話見てくれてハートもつけて下さった、ただ1人のお方には頭も上がりません。

それではまたいつか会えることを願っています。

































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