38話 僕は諦めたくない(文化祭3日目)

―――ミスコンの優勝者として吉田先輩に1つのトロフィーが授与されると司会の人が口を開く。


『それではーーー!ミスコンの優勝者が決まったということで毎年恒例のアレを聞きましょうか!想い人がいるかどうかを!

もしいるのであれば愛を口にするもよし!

あえて秘密にするのもまたよし!』


そう言うと司会の人は吉田先輩にマイクを手渡した。


「私には好きな人⋯⋯いいや!大好きな彼氏がいるんだ!大樹!愛してるぞー!」


『ヒューヒュー』

『羨ましいぞーーー』

『俺の名前もタイキだぞー』


――― 堂々したその愛のこもったセリフに観客も盛り上がっている。

そして隣にいる大樹も少し⋯⋯いや、かなり顔を赤くしている。

ここは一押ししてあげるか⋯⋯


「よし、大樹も気持ち伝えちゃえ!」

「⋯⋯おう!!京子さぁぁあーーん!!!!俺も愛してまぁぁぁぁぁぁーーす!!!」


(ワァァァァァァァァァア)


大樹の返しに皆も歓声を上げている。


『なんとも素晴らしい愛!!それでは彼氏さんもステージに上がっちゃって下さい!

皆拍手だぁぁぁあーーー』


(パチパチパチパチ)


拍手の渦の中、大樹がステージに上がると―――なんと!吉田先輩が大樹をお姫様抱っこした!!

⋯⋯立場逆じゃないか?だが、これでいいのだ!!


『―――ということでこの2人には!優勝者の証として後夜祭の時に屋上から花火を見るという特別な特典が与えられます!』


学校でいちばん高い場所からの花火はきっと見通しもいい事だろう。

優勝者に相応しい特典だと思う。

一緒に花火を見たカップルは結ばれるという噂があることを踏まえると尚更。


―――そうして、ミスコンすらも終えてついに残るは後夜祭のみとなった。




「くやしいよぉぉおーーー」

「でも優太は頑張ったよ⋯⋯」


男なのにミスコンに出場した挙句に優勝まであと一歩のところにまで行ったのだ。

かなりの健闘だった。


「そうです、安藤君も凄く可愛かったですよ」

「か⋯⋯加納さぁぁぁん」

「うんうん⋯⋯間違いなく君は女の子の姿の方が似合っているよ」

「神成くぅぅうん」


2人に慰められるのはいいけど女の子の姿のが似合ってるって⋯⋯褒めているのか?


『もうすぐ文化祭も終わっちゃうんだね』


そんな事を音声にする水町さんの横顔は少し寂しそうに見える。

⋯⋯きっと後夜祭の時に色々な事が変わる。

それは加納さんに告白するであろう優太もそうだし、神成に告白する水町さんも⋯⋯

―――けれどそのどちらにも僕が関与することは出来ない。

ただその結果を見届けることしか出来ないのだ。



『オッホン!生徒の皆さん、そして本校の職員の皆そんもこの3日間に渡る文化祭、

お疲れ様でした。

この中にい皆さんによってこのような素晴らしい文化祭を作ることが出来ました。

そんな皆さんを労る意味も込めて⋯⋯

これより後夜祭に移ろうと思います』


大勢の職員に生徒を前に校長がそう告げ―――


(ウォォォオオオォォォォァォォオオオオ)


みんな大声を上げる。

そうして流れる音楽、それに合わせて歌う者もいれば踊る者もいて―――

もちろんこの場で想いを告げている者もいる。

大樹も先輩と2人でこの場を離れた。

まぁ、肝心の花火はまだ上がっていない。

多分今のタイミングで告白する生徒が続出しているあたり⋯⋯カップルの誕生を待つためにそのタイミングを遅らせているのだと思う。


『神成君、ちょっと行きたい場所があるんだけどいいかな?』

「あぁ、大丈夫だよ⋯⋯」


⋯⋯そして同じように、告白をしようと水町さんはそんな事を神成に言ってしまった。


「詩音⋯⋯2人だけで大丈夫?私も―――」

「加納さん、今は2人にしてあげよう」


これから告白するであろう水町さんの邪魔をする⋯⋯それは多分間違っている。

見守るべきなんだ。


「ごめんね姉さん。それじゃあ少し⋯⋯」

「えぇ⋯⋯それじゃあ気をつけてね」


そうして神成は水町さんと共にこの場を離れていく。


「ところで⋯⋯優太はいつするの?」

「え?」

「ほら、告白」

「⋯⋯!!」


優太にいつ告白するか耳打ちしたが⋯⋯この様子だとミスコンに夢中で忘れてたっぽい⋯⋯。

それにまだ女装のままだし。

ここはいっちょ気を使ってあげるか。


「3人になってしまいましたがどうしましょうか?」

「あ、僕も用事があるから2人で楽しん―――」

「それは嘘ですよね?」


くっ、僕の嘘じゃあ加納さんには通じないのか⋯⋯おい優太もなんか言うんだ!


「ごめんちょっと僕着替えてくるね!!!」


そう言うと優太が走って⋯⋯消えたァ!

多分普通に女装した姿で告白はしたくないからってことだと思うけど⋯⋯


「ところで立花君は行かなくていいんですか?」

「⋯⋯え?」


2人きりになったところで加納さんがいきなりそんなことを言う。


「詩音は今⋯⋯神成に告白しようとしてるんですよね?⋯⋯それなのに立花君はこんな所にいていいんですか?」

「え?」

「立花君は詩音の事が好きなんですよね⋯⋯?それなら追いかけないと駄目です⋯⋯どうして立花君は我慢するんですか?」

「だって⋯⋯僕はもう―――」

「1度振られたから、ですか?」


⋯⋯ほんとお見通しすぎる。


「うん、それにもう僕は諦めたし⋯⋯」

「じゃあどうしてそんなに悲しそうな顔してるんですか!それは立花君がまだ詩音こと諦められてないからじゃないですか」

「⋯⋯でも」

「心配なんです⋯⋯立花君のことが」


そう口にする彼女の瞳は少し潤んでいて―――


「加納さん⋯⋯どうしてそんなに僕のことを機にかけて―――」

「私はクラスの委員長ですから⋯⋯ただクラスメイトの立花君を心配してるんです」


僕はまだ見てもいいのだろうか―――夢を。

1度諦めた

⋯⋯父さんが母さんにしたように僕も何度も想いを伝えれば何かが変わるのだろうか。

きっとこれから僕がすることは最低な事だ。

だってこの恋が終わらないのは、水町さんが振られた時なんだから。

でも僕は水町さんが振られることを知っている。

あぁ、そうだ。例えそれが最低なこともいい。だからあの時のように好きな物を失いたくない!


「ごめん加納さんありがとう。僕にもたった今用事が出来たから⋯⋯行ってくる!」

「⋯⋯はい、今度は本当ですね」


告白する場所なら僕は知っている。

そして僕はあの場所へと全力で足を走らせた―――


――――――――――――――――――――

完結まで残り2話




























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