36.5話 2日目で起こった事件

時間は後半⋯⋯今度は接客するターンがまわってきた僕だがコスプレができない!

何故ならば昨日持ってきたスイミーが無いからだ。

はぁ⋯⋯どうしたものか。


「立花!お前はこれを着るんだ!」


この人は昨日の聖女っぽいコスプレをしている人じゃないか。

誰かは分からないけどどうやら何かを持ってきてくれたらしい。

ということでその人の手に握られたそれを見てみると⋯⋯それは化け物死骸となったスイミーだった。


「え、ちょ⋯⋯これなんですか」

「何ってお前が昨日着ていたものだろう」


確かにそれは昨日僕が着ていた物なのだろうが⋯⋯所々に縫った様な跡があり継ぎ接ぎの魚となっているだけではなく凹んでいる部分も数多くある。

―――そして何より、

その色は紫と緑に別れておりまさにゾンビといえる容姿をしている。


「いや!こんなのじゃない!色が黒くなかったらそれはもうスイミーじゃないですよ!」

「スイミー⋯⋯?よく分からないが魚であることは変わらんだろ」


いやこれは魚ですらないだろう⋯⋯


「とりあえず着るんだ!そして宣伝に行ってこい!」


『そうだ涼!今話題のお前が行けば客も集まる!』

『そうそう、早く行ってこい』

『お前が行かなきゃ誰が行くんだ!』


なんてこった⋯⋯そういえばEGGsで話題になってるんだ。

まぁどうせこの衣装を着るということは邪魔になるということだから昨日と同じように客引きをするのは目に見えていたことだが。

ただ今日は一般の人がたくさん来てるし、何より時間帯的に父さんと母さんと出くわす可能性がある!


『おい!早く行けよ!』

『そうだぞ!邪魔だ!』

『怖いからどっか行って!』


これもうただの暴言じゃないか?

まぁ仕方ないから行ってくるか⋯⋯


「1年1組コスプレ喫茶やってまーす

良かったら来てくださーい」


(ざわざわ)


「コスプレ喫茶ー美味しい食べ物もありますよー」


(パシャッパシャッ)


「1年1組の演し物良かったら楽しんでってくださーい」


(バンッバンッ!)


なんてこった⋯⋯道を歩けば周りがざわめきシャッター音が響く。

そして⋯⋯


『化け物ー!』

『退治してやる!』

『オラオラァー!』


子供達から攻撃を貰う。

別に痛い訳ではないのだが⋯⋯

あ、やっぱ痛い。穴空いてる部分から足つねってる奴は許さん。


「ゴラァー怒ったぞぉー」


『うわぁー化け物が怒ったー』

『逃げろー』

『きゃーきゃー』


⋯⋯つい怒ってしまったが客引きの真逆の行為になってる気がする。

まぁいいか。


そんな調子でヒソヒソパシャパシャでたまに蹴られつつ、2年6組お化け屋敷に通りかかった時事件が起こった。


『あ、ちょっとそこの君なんでお化け屋敷から出てるの?』

「え?」

『忙しいんだから早く定位置について!』

「待って僕1年―――」


⋯⋯え?なぜこうなった?

僕を誰かと間違えるなんて有り得るか?

だって頭の部分には

『1年1組コスプレ喫茶やってます!』

と書かれた紙が貼られていたはず⋯⋯

もしかして途中で剥がれてしまったのか?

でも確かにあれだけ攻撃を喰らえば衝撃で落としてもおかしくは無いか⋯⋯

それにしてもここに入ったのは初めてだが雰囲気が既に怖い。

薄暗いし進みにくいし⋯⋯とりあえず入ってきた方から戻らないと。


『きゃぁー魚の怨霊ーーーーー!!!』


あ、駄目だ。人多すぎて戻れない。ってか足踏まれたし。


「あの⋯⋯誰か助けてくださーい」

『うん?どうし⋯⋯ってうわぁーーお化けぇぇぇ』


助けの声を聞いた血に塗れた白い服の衣装に特殊メイクで右目がエグれた人物が反応したがこっちの姿を見るなり逃げてしまった。


え!待ってよ!暗くてよく見えなかったけどあれ衣装的にお化け役の人だよね?

⋯⋯これどうしたらいいんだ?

奥の手だ!

この衣装を脱いで放置するしかない。

仕方なかったんだ⋯⋯シンプルに進みにくいし何より受付の人が勘違いしてるから。

ここに放置するのは心苦しいがきっとこの方が有効活用できるし⋯⋯うん。

そんな事を自分に言い聞かせ今度は自分が悲鳴を出しながらお化け屋敷から脱出するのであった。



「あれ、立花君コスプレ衣装はどうしたんですか?」

「色々あって無くしたんだ」

「えーと⋯⋯、そうなんですね」


教室に戻ると加納さんにそんな事を聞かれたが素直に捨てたと言うのも気が引けたのでそんな風に返した。

仕方ない。


「あ、そういえば立花君のご両親の方がそちらで待ってますよ」

「⋯⋯ほんとだ」


視線を両親の方に向けると父さんがこちらに手を振ってきている。

ちょっと恥ずかしい。


「涼、お前⋯⋯コスプレ喫茶なのになんで普通の格好なんだ!」

「確か小学生の時に使ったやつ持っていってなかったかしら?」


あぁ⋯⋯やっぱめちゃくちゃ恥ずかしいわ。





――――それから父さん達も帰り、後片付けをしていた時の話、僕が放置したスイミーは無事もっとボロボロになって帰ってきた。まぁ⋯⋯あんなところに放置したのだから当たり前だ。

でも、受け付けの人が間違えたのが原因だったこともありあまり怒られずには済んだ

ちなみに、受け付けの人からも謝られたのだが、忙しすぎて投げやりに動いてたせいでスイミーみたいなお化けが居ない事に気づけなかったそうだ。

あとお化け屋敷の魚ゾンビがEGGsのトレンドに入ってたけど僕は何も知らない。

僕は関係ありません。


――――――――――――――――――――

〈もう出て来ない『聖女』の紹介〉


聖女のコスプレの人ですが影野薄井先生です。

普段はアフロをつけていて、ガサガサとした声が特徴的な彼女ですが―――地毛は金髪で地声も普通に綺麗です。

職業は並杉高校の教師。

中世ヨーロッパ系の異世界から日本に転移してきたのですが職が髪色のせいで見つからなかったので普段は黒いアフロで地毛を隠しています。

なぜアフロなのかと思う人もいるかもしれませんがアフロだからです。

身分も偽っているため本名も影野薄井ではありません。










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