35話 僕は水町さんと待った(文化祭1日目)
「それでは、どこに行きましょうか⋯⋯」
加納さんが各クラスの演し物の書かれた紙を広げながらそう発言する。
僕と優太はあれから直ぐに2人と合流したのだが、文化祭1日目終了まで残り1時間ちょっとということで、何処に行くのか頭を悩ませていた。
一応明日も午前の部をまわる事は出来るため『絶対に今日行かないといけない!』という物はないのだが⋯⋯
いや、だからこそ悩んでいるのか。
唯一、1日目と2日目で内容が全く違うものに変わるの演し物⋯⋯先程まで水町さん達が行っていたバンド発表を見に行くにしても次に入場チケットが配られるのがだいぶ後らしいので断念。
本当にどうしたものか⋯⋯と考えていると
「じゃあ僕お化け屋敷のクラスに行きたいな」
とそんな提案を優太がした。
「まぁ別に僕は良いよ」
「私も大丈夫です」
『大丈夫』
ということで特に意見割れもしなかったためお化け屋敷のクラス改め2年6組のクラスへと向かうことになる。
『もう訳ないのですが、中は狭いので車椅子での入場は厳しくて⋯⋯』
2年6組に向かったが受け付けの人にそんなことを言われてしまった。
まぁ流石に無理を言って中の物を壊したりするのも良くないからここは引き下がるべきだろう。
『じゃあ私は待ってるから3人で行ってきていいよ』
「詩音、ほんとにいいの?」
『うん、3人で楽しんできて』
「水町さんを1人にしたくないから僕も待ってていいかな?」
流石に水町さんを1人残すのは心が痛いし、何よりも文化祭を理由に浮かれた男が水町さんに害を与えようとするかもしれない。
そうなった時、今の水町さんは抵抗手段がないからここは一緒に居るべきだろうと思いそう発言する。
「立花君になら安心して詩音の事任せられるので良かったです。」
「その、涼、それに水町さんもありがとう」
そう言うと2人は受け付けを済ませてお化け屋敷の中へと入っていった。
特に意識してた訳では無いが、結果的に優太と加納さんが2人きりか。
好きな人とお化け屋敷に行くというのはラブコメとかじゃ定番な展開で吊り橋効果的な奴で2人の距離が縮まるとよく聞く。
優太が明後日に告白することを考えると少しでも少しでもこれで関係が縮るといいな⋯⋯いや待て。
よく考えたら凄い大きな
もし優太が告白するとして神成が何らかの方法で邪魔をしてくる可能性は高い。
少なくとも以前告白してた男と違って神成と加納さんの関係を優太は知っているから「自分が恵さんの恋人だ」と言って遠ざけることはできないだろう。
でも、だからこそ強硬手段に出るのではないかという不安がある。
そして一番の問題は仮に
実際にそれほどまでに神童神成という人間は周りから信頼されているのだから。
ただ、加納さんが告白されたことがないと言っていたことを考えると、以前見た人の他にも同じような被害者は多くいてもおかしくはなく、もしそれら全員が口を揃えて被害を訴えれば可能性はあるかもしれない。
まぁ⋯⋯神成がその危険性を考えていないとは到底思えないのだが。
つくづく敵にまわすと厄介な男である。
(ちょん)
―――と、神成について考えていたら隣の水町さんが心配した様子で僕の腰の当たりを触ってきた。
「あ、ごめん。水町さんどうかした?」
なんて自分で口にしたがそれは水町さんのセリフか。
『やっぱり退屈だよね、ごめんね私のせいで』
「ううん、そんな事ないよ。ちょっと考え事してただけで⋯⋯」
『考え事ってもしかしてあの時のこと?』
「あの時のことって⋯⋯?」
水町さんの言葉が何を指してるか分からなかった僕はそう返答すると音声ではなく文字を打ち込んだだけの画面で水町さんは見せてくる。
『告白の時のこと』
告白⋯⋯つまり水町さんは夏祭りの時の事を未だ僕が悩んでると思っていたらしい。
まぁ事実、少し前に悩みはしたのだが。
「ううん、ちがうよ。別のこと」
『そっか、ごめん。でもあの時のこと今謝ってもいいかな』
再度音声入力に切り替えて水町さんはそう返した。
でも謝りたいこと?僕が謝るならまだしも水町さんに謝られる覚えは無いのだが。
なんて考えていると水町さんは再度音声ではなく普通の文字を入力し始めた。
それも時間のかかり用から見るに中々の長文だ。
―――そうして書き終わると何度も自分の書いた内容を見直す仕草をしてからスマホの画面が差し出された。
『私、立花くんの気持ちに気づかないでずっとメグちゃんのこと好きなんだって勘違いしてた。だから2人が仲良くなるように手を回したりして。
それに、夏祭りで手を引かれた時だって口にされるまで告白だって思わなくて。
告白だって分かったとき頭が真っ白になっちゃって⋯⋯メグちゃんじゃなくて私を好きになる人は居ないと思ってたから。
立花君に好きだって言われた時、自分が今までしてた気遣いは本当はただの自己満足でしかなくて⋯⋯きっといつの間にか傷つけてたと思うの。だからごめんなさい』
その内容はあの日から今日に至るまでずっと水町さんが抱えてきたであろう罪悪感を書いたもので、この内容を考えてあの日を思い返すと涙の理由も分かった気がした。
「ううん、いいんだ。まず勘違いが起こったのも僕のせいだから」
そう、元の始まりは僕が加納さんについて聞き出したのがキッカケであり、それよ勘違いするなと言う方が無理だという内容だったわけで水町さんが悪い訳では無い。
『やっぱり立花君は優しいね』
水町さんは微笑んでそんな言葉を自動音声で読み上げる。
「ぎゃああぁぁああーーーーー」
⋯⋯いい感じの空気の時に優太らしき
優太、怖いの苦手なのにお化け屋敷提案したのか。
「怖かったよォォォォォ」
「安藤君⋯⋯元気出してください」
「優太、そんなに怖かったの?」
(ブンブン)
優太は声を出すことなくただ首を縦に大きく振った。
まぁ加納さんにしがみついてるのに恥ずかしそうにも離れようともしていないあたり相当だったのだろう⋯⋯
「それじゃあどこ行こうか?」
「次が最後になりそうですし私たちのクラスに行きませんか?」
『いいね』
(ブン)
そんなことで加納さんの提案で最後は自分のクラスに戻ることになった。
「お客様いらっしゃいませ⋯⋯って、涼か」
クラスに戻るなり僕達を出迎えたのは神成だった。⋯⋯コスプレはしてない。
コスプレ喫茶とはなんなのか。
ちなみに大樹は警官のコスプレをしている様だ。
「あら、神成はコスプレしないの?」
「姉さ⋯⋯恵さん、一応コスプレはしてるよ」
加納さんに引っ付いた優太に触れることなくひっぺがすと神成はそんことを言う。
まぁ何もしてないように見えるが。
『もしかして神様のコスプレ?』
水町さんがそんなことを言ったので改めて神成を見てみると⋯⋯なんか後光っぽいのがあることに気づいた。
それも何も無いところに浮いている⋯⋯というか触ることすら出来ない。
なんだこれ。
「詩音さん、よくわかったね」
⋯⋯水町さんは神成の事をよく見ているのが分かり、改めて好意を抱いている事実を理解させられた。
もう少し前ならこの恋も応援出来たかもしれないが神成の本性を知った今そんなこと出来るはずもなく⋯⋯いや、本性関係なく出来なかったかもしれないのだが。
―――そうして文化祭1日目最後はコスプレ喫茶を最後に終えたのだった。
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最終話まで残り4話か5話(の予定)
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