32話 僕は覚悟する
時は過ぎ、下校の時間となった。
せっかく水町さんが学校に戻ってきたのにも関わらず僕は会話を交わす所かたった一言、声をかけることすらままならずにいる。
挙句の果てに僕は友達からの誘いも断り一人で帰路に着いていた。
今のこんな風に悩んでいる自分が情けなくて、マスターは僕を信じてくれたのにその期待に答えられない自分を嫌いになりそうだ。
そんな自己嫌悪に苛まれていると―――
「おい」
「⋯⋯」
「おい!」
―――という言葉と共に肩を捕まれ、感傷に浸りながら歩いていた僕を現実へと引きされた。
「神成⋯⋯?お前なんで」
そして、その声の主は神成であった。
だか、なぜ神成がここにいるのだろうか。
児童養護施設の方向とこっちは逆な事を考えるともしかして僕を追ってきたと言うのか?
「なんでって、⋯⋯はぁ」
そんな風にため息を着くと呆れたものを見るような目付きで神成は僕の腕を引いて路地裏の様な所に連れていかれ⋯⋯
「おい、このヘタレ馬鹿男!」
「⋯⋯?」
「お前の事だよ涼!」
「ヘタレ馬鹿野郎」というのが自分であることは理解していたが、神成の乱暴な口調の神成につい呆気に取られてしまった。
少なくとも僕が学校で見ている神童神成という男は明るく誰にでも親しげに接する、それでいて全てにおいて万能の男だ。
それでいて口調も決して乱暴な者ではなく加納さんが絡まなければ常に落ち着いている印象なのだが⋯⋯
「単刀直入に聞く、何でお前は今日詩音さんに話しかけなかった?」
「何でって⋯⋯」
その質問は簡単なことで理由は分かっているはずなのに中々言葉が口から出ようとしない。
「こんな事にも答えられないか⋯⋯どうやらお前は俺が思っていたほど出来た人間じゃなかったみたいだ⋯⋯なんでこんな奴を姉さんは―――」
僕が何も答えられずに居ると神成はそんな事を呟きその場を後にしようとする。
「ちょっと待ってくれ!なんで神成がそんな事を僕に聞くんだ?」
「は?そんなのお前が詩音さんに話しかけないでウジウジしてるからだろ馬鹿」
「でもそんな事お前には関係ないじゃないか!」
明らかに機嫌を悪くしている神成に対して僕も反論をする。
「⋯⋯はぁ、お前はそうやって目の前のことから逃げんのか?」
「僕が⋯⋯逃げてる?」
「詩音さんから逃げてんだろ?今日も俺が話してる時ずっと羨ましそうな顔して見てたくせにな」
確かに僕は水町さんの事を見ていたが神成にはそんな風に思われていたのか⋯⋯
「言うけど今俺がこうしてやってんのも姉さん⋯⋯恵さんの為だ。恵さんがへこたれてるお前を心配してるからわざわざ俺が慰めてやってるんだ」
「⋯⋯加納さんが?」
「恵さんは今日ずっと心配していたんだ。今日1日ずっと、戻ってきた詩音さんと同じ様に心配してお前の事も相談された」
どうした彼女は僕なんかを⋯⋯?
「明日⋯⋯いや、月曜日か。月曜日ちゃんと詩音さんと話せ。最初に話しかけるのだって本来お前がやるべき事だったんだ。次はないぞ」
最後にそう告げると今度こそ神成はさっていった。
「水町さんとちゃんと話せ、か。
まさか神成にこんなこと言われるなんて⋯⋯」
でもきっと、神成の言う通りで僕は水町さんと向き合わないといけない。
夏祭りの時に彼女に振られた事を原因にこのまま止まっていてはいけないんだ。
それに⋯⋯水泳をまだ想う気持ちがある様に僕は水町さんの事を未だに想い続けている。
だからこそこのままで関係を終わらせたくない。
僕は彼女からもう逃げない、そう決心をすると路地裏から足を1歩踏み出した―――
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