28話 人魚姫症候群
お泊まり会の翌日……僕は体調を崩した。
理由は明白で、外に長時間出ていたせいで身体を冷やしたからだろう。
情けない事に父さんに迎えの車を出してもらって家に帰宅することになった。
帰り際には優太に加納さん、それに施設の子供たちから心配の言葉を貰ってしまった……カッコつけて夜風に当たり続けなければ良かった。
「涼、お昼おうどん作ったから気が向いたら食べてね」
「あい〜、母さんありがとう」
家に帰ってからは僕はひたすら布団でゆっくりしていた。
母さんが温かいうどんを作って部屋の前に置いてくれたが喉が少し痛んでいたり食欲もあまりなかったので半分程残してしまった。
……それにしても体調を崩すなんていつぶりか。
記憶では中学1年生の冬にインフルエンザにかかったのが最後だがあの時は本当に辛かったな。
咳止まらない喉痛い、体が痛いだるいって言うのが何日も続いた。それに加えてあの頃はトレーニングの管理をしていなかった事もあり体がなまるのが怖くて、体調悪い中でも無理に動いて悪化させてしまい両親に怒られたな……
そんな昔の思い出に浸っているといつの間にか眠っていたようで時刻は17:00程になっていた。
寝て起きると体調も回復したのか明日からの学校にも普通に行けそうなくらいだ。
まぁ、明日は念の為に休むことになるだろうがきっと火曜日からは学校に行くことができるだろう。
「ふあぁ〜あ」
そうな風に軽く伸びをすると夕飯までの時間を潰すためにスマホを手にして適当に動画を漁ることにした。
「あ、
IKAKINは子供から大人までの色々な世代から人気な配信者でその登録者は最近では2000万を突破した程だ。
「うわぁーでっかぁ……でも家にプールってロマンあるなぁ」
やはりIKAKINは凄い。
最初は職業が配信者ということでバカにされてきたが、今では国内で知らない人の方が少ないまでの有名人となり、結婚して3人の子供に恵まれている姿を見ると憧れてしまう。
(ティロリン)
ん?動画を見ていたら
『あああさんからダイレクトメッセージが届いています』
僕はその通知が気になり、世界的に使われるSNSアプリであるEGGsを開きダイレクトメッセージの内容を見てみた。
送り主の名前は「あああ」で、アイコンは初期アバターがそのまま使われていることからそれが捨て垢である事は用意に想像でき、スパムメッセージの可能性もあったが内容はたった1文であり、そこには
『人魚姫症候群』
とあった。
「人魚姫症候群……あああ、とかいう言うやつ何を言いたいんだ?」
送られてきた意味不明なメッセージにそんな感想を口にしたが『人魚姫症候群』というのが何か気になった僕はEGGsで調べて見た。
するとトレンドの下の方に同じく、
『人魚姫症候群』というワードがありそこから匿名の人らによる書き込みを見てみた。
『人魚姫症候群って病気やばくね?感染とかすんの?』
『人魚姫症候群、足と喉だけピンポイントに症状がでる奇病らしい』
『新型声帯炎症病ってなんで人魚姫症候群って言われてんの?』
『(画像)人魚姫症候群の原因がこの新種のクラゲのさいってマ?』
『#人魚姫症候群
人魚姫症候群は日本の医療機関が人為的に作り出したウィルスが漏れ出てしまったせいで───』
検索すると最近書き込まれたものから数日前に書き込まれた内容がズラっでてきた。
「これって……もしかして、いや間違いなく」
水町さんの症状と一致している。
謎の人物より送られてきた
頭の中では、このメッセージを送ってきた人物は一体何者なのか、そして呟きにもあったように、新型声帯炎症病というものがなぜ人魚姫症候群などと呼ばれているのかが疑問となって頭で回転する。
まず『お前は誰だ』というメッセージを
あああ、に送る……が直ぐに既読になったが返事が送られる気配はない。
一体何の目的があってこのメッセージを送ってきたのか。
内容と状況を考えるに、あああという人物が僕の身近な人物である事は間違いないと思う。
そして、水町さんの状況を知っていることから人物はかなり絞られる。
水町さんの海であった事を知っているのは僕が知っている限りでは優太、大樹、加納さん、神成、それにマスターだ。
憶測だが学校の担任も事情をマスターか加納さんあたりに聞いて知っているかもしれない。
他にも候補はいるかもしれないが僕の情報では分からない。
次にこの候補から絞っていくと、優太と大樹に至っては連絡先を交換しているのだからこんな遠回しなことしないだろう。
仮にあの二人だとして何の意図があってという話だ。
いや、それ以前にこの中にいる誰だとしたら匿名でメッセージを送るのだろうか?
わざわざ捨て垢のようなもので送る内容とも思えないし、返事をしない理由も理解できない。
……分からない。いや、まず匿名が何者であるかで何が変わるって話なのだ。
別に悪意のある内容やスパムでもなければ僕に対して人魚姫症候群という名前を告げただけなのだ。
不気味ではあるが誰であるかを詮索する必要があるとも思えない気がしてきた。
「はぁー」
頭を使って考えたがそれは無駄手間だったと思うとため息がでた。
……とりあえず次は人魚姫症候群って呼ばれてる理由でも調べようかな。
人魚姫症候群、名前だけ聞けば童話に出てくるヒロインの名前がついており可愛らしいものだが、人魚姫という童話の内容は可愛いものでは無い。
確か内容は……王子様に一目惚れした人魚姫が溺れている所を助けるのだが、別の女が王子を助けたと名乗り出て2人が婚約することになるんだ。
だな「自分が助けた」ということを王子に言えば婚約できると考えた人魚姫に魔女が声を代償に人間の足を渡す取引をして人魚姫はその美しい声を失う。
そうして王子と出会えたのは良いが女といる王子の幸せそうな顔を見た人魚姫は結局、想いを告げられず……といったものだ。
そして最後には残酷な事に魔女の呪い「愛するものと口付けを交わせなければ泡となって消える」というものにより人魚姫は泡となって消えるのだ。
重すぎる。
小さい子に読み聞かせする内容とは思えないほどに内容が重たい。
だが内容を思い返すと新型声帯炎症病の症状と似通っている部分はある。
例えば声が出なくなる部分……いや、これしかない似ている部分がない。
仕方がないから直接人魚姫症候群について検索してみることにした。
───そうすること数分、投稿されたのが1日前とある人魚姫症候群について書かれた記事をネットで見つけた。
「新型声帯炎症病、またの名を人魚姫症候群
と呼ばれています。
現段階での症例としては足の異常なまでの発達により引き起こる神経麻痺で足の植物化を起こす、そして喉の激しい炎症により声が出なくなるといったものが挙げられます。
では、なぜ新型声帯炎症病は人魚姫症候群と呼ばれているのか……
人魚姫の内容は多くの人が知っていると思うので詳しい説明は省きますが内容の1部として魔女により人魚姫は声を失う代わりに人間の足を得ます。
『声を失う』という部分は一致していますが足についてはどうなのか?となりますね。
これは私たちの場合『元から人間の足』だからと考えられています。
つまり、本来魚の下半身から人間に変える
これらの理由から
なお、まだ症例は少ないのでこれらは確定した情報では無いのでご容赦を。
───最後に、もし人魚姫症候群も人魚姫と同じような結末を迎えるのならこの病気にかかった傷病者も泡になってしまうかもしれませんね(笑)」
……最悪だ、最悪な気分だ。
途中までは丁寧な文体で内容にも関心を持っていたが最後の部分で気分が悪くなった。
泡になって消えてしまう?記事を書いた本人は冗談のつもりだろうがとても笑えなかった。
現実的に考えて
仮に水町さんが泡になって消えるなんて事をなどと考えるとそれだけで恐ろしく思えて仕方がない。
人魚姫症候群……水町さんは自分を苦しめている病名がそう呼ばれていることを知っているのだろうか。
(トントン)
「涼起きてる?夕ご飯は食べれそう?」
母さんが部屋をノックしてそんな声をかけてくれた。
「うん、大丈夫……」
そう返事を返し、僕は自室から出ると食卓へと向かった───
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