26話 僕はお泊まり会をした
あの後、僕は加納さんからの誘いもあり親に施設に泊まることになったと連絡を入れた。
ここでは1部屋で5〜8人が共同生活しているのだが、施設で1番年齢が上である神成のみ1人で使っているらしいので僕と優太はそこを使うことになった。
当たり前だが加納さんは別の部屋である。
どうやら彼女の場合は泊まる時にはスタッフの人が使っている部屋を使わせて貰っているらしい。
『それでは皆手を合わせて、いただきます』
日替わりの挨拶の当番であった幸ちゃんがそう口にすると皆も口を揃え「いただきます」と声にする。
僕は中学校までは給食だったが、昼食が購買か弁当になってからは無くなった食べ物への感謝を示す一連の流れを少し懐かしく感じた。
今日の夕飯の献立はカレーライスとコーンがたくさん入ったコールスローサラダだ。
ちなみにカレーに入っている人参は星型になっており、これは施設の子供達と一緒に型抜き使い作った。
『優太、これあげる〜』
「ーーちゃん、好き嫌いは良くないよ」
小さい女の子がカレーに入ったピーマンを優太のお皿に押し付けるとそれを再び戻す、というやり取りを繰り返している。
「お兄ちゃんの言う通りだよ。ピーマンさんをしっかり食べようね」
『じゃあメグちゃんが食べさせてー』
「もう、仕方ないな」
そうして小さな女の子が口を開けて「あ〜ん」と言うと加納さんがスプーンを使いカレーを口元まで持っていき───そしてその光景を横から優太が羨ましそうに見つめている。
ダメだぞ優太、いくら加納さんでもお前には
ご飯を食べ終えると僕と優太は神成に使う部屋について説明をすると言われ、神成の後に続いた。
神成の使っている部屋は驚く程に物が少なくともミニマリストなのかと思う程だ。
勉強机と椅子以外に神成の私物らしいものは無く、唯一私物が入っているであろう机の中身も気になったのだが鍵が付いていて勝手に見るということはできそうにない。
「それじゃあ、そこのクローゼットの中に余った布団がいくつかあるから寝る時は敷いてくれ」
「うん、それじゃあ神成君!今日はよろしくね」
「……は?」
「そうだね神成、今日は同じ部屋で1夜を過ごすわけだからね」
「……」
優太の発言に付け加えるように僕がそう言うと神成は明らかに面倒くさいものを見るような目をしているが、まぁいいか。
◇
「あったけぇー」
湯船に浸かると今日の疲れと共にそんな声が出た。
僕と優太は2人で施設内にあるお風呂に入っていた。理由は神成含む子供達は既に入浴済みだからだ。
「……涼って加納さんと仲良いよね」
「そう?」
「うん」
お?友情崩壊の予感がするぞ?
「まぁ……その、うん」
なにか気の利いた言い訳でもしようと何か口にしようとしたけど何も出なかった。
「怒ってないよ、嫉妬もしてない。
だって涼は良い奴だから」
優太は少し悟ったような顔をしてそんなことを言う。
「本当に何もないよ……優太は勘違いしてるかもしれないけど僕が好きなのは───」
「水町さんでしょ?」
……どうやらバレていたようだ。
まぁ僕が水町さんの事が好きということは最近の行動……いやそれ以前から出ていたのだから当たり前なのかもしれない。
「うん、僕は水町さんが好きだ。振られたけど」
「そっか」
「……うん」
「涼は水町さんのことはもう諦めたの?」
諦めた、どうなんだろうか。
既にもう諦めたつもりではいるのだが、本当に僕は諦められているのか?
「そう言われると、分かんないかも。
っていうか優太は加納さんに告白しないの?」
「僕が!?」
優太は先程まで肩まで湯に浸かっていた状態から立ち上がる位には動揺している。
つまりは、お察しである。
「告白しないの?」
改めてそう聞くと、優太は再び湯に浸かって口を開いた。
「……まだちょっと」
「でも加納さんモテるからなぁ。ウジウジしてると彼氏できるかもよ?」
「うーん……そうだよね」
「いや……でも」
そういえば加納さん今まで彼氏出来たことないどころか告白されたこともないって言ってたよな。
正直信じらないが加納さんが嘘をつくとも思えない……かなりの謎である。
「それにさ、来年また同じクラスになれるとも限らない訳だしさ」
「……じゃあ文化祭の時に告白しようかな」
「文化祭……ってことは来月か」
文化祭、今年入学した僕に詳しい内容は分からないがよくカップルが誕生するイベントであるのには違いないだろう。
文化祭の前に水町さんは戻ってくるだろうか……戻って来て欲しいな。
「文化祭の最後に上がる花火を見たカップルは永遠に結ばれるって言うし……」
「お、優太ロマンチストじゃん」
「それで、もし加納さんと付き合えたら───」
おっと優太が妄想タイムに入ったみたいだ。
「───それで、いつか加納さんの水着とか選んじゃって!」
だいぶ興奮してるようで、優太の顔が真っ赤になっている。……いや、これのぼせてない?
「優太!しっかりしろ!夢から覚めるんだ!」
「あれぇ……涼が2人、3人いるぅ」
ダメだこりゃ。
仕方がないから僕は優太を背負ってお風呂場を後にした。
「……あれ、ここは?」
「神成の部屋、優太風呂でのぼせたんだぞ」
「……」
風呂から上がった後、服を着た僕は部屋で指1本で倒立腕立てしている神成を呼んで一緒に介抱をした。
「優太君、もう大丈夫かい?」
「うん、神成君もありがとう」
「でもそこまで長風呂でも無かったのにどうしてのぼせたんだい……? 」
「……ちょっと興奮しすぎて」
おい、ちょ待て優太それは語弊を───
「へぇ……君たちそういう関係だったんだねぇ」
「ちがうわボケ!優太は加納さんにだなぁ!」
「は?姉さんがどうしたって?」
「あわ、あわわちょっと涼ー!」
「で?姉さんと付き合う妄想をしただって?」
結局僕は先程風呂で起こったことを話した。
だってホモォって勘違いされたくなかったし。
「……ごめんなさい」
「挙句の果てに姉さんの水着を選ぶ妄想までしたと」
「まぁまぁ、神成許してやりなよ」
「涼、お前はどの立場なんだ?」
神成が珍しくお怒りだ。
「でも水着か……」
「おい、お前も姉さんの水着を妄想するのか?」
「いや、妄想っていうか……選んだって言うか」
「「は?」」
おっと失言してしまった。2人から睨まれてしまっている。
「いやぁ、夏休み入ってすぐの頃に色々あって……」
「まさか……いやでもあの時の姉さんは詩音さんと一緒としか……」
「ねぇ涼、どんな水着買ったか教えてくれない?」
「え、いやぁ」
「まぁ俺は一緒に海に行ったから見たんだけどね」
そういえば神成も一緒に海に行ったって言ってたな。
「くっ、僕だけが見てないのか!」
「まぁまぁ、優太も加納さんと付き合えればいつか見れるさ」
「……うーん」
「それは無理だよ」
いつもトーンよりも更に数段低くして神成はそう反応した。
「いや、そんなの分かんないじゃないか」
「分かる、姉さんのだから」
「……」
あー優太が黙っちゃったよ、もう凹んでる。
「それに姉さんは今まで告白をOKしたことがないんだ」
「そんなぁ……やっぱり無理かなぁ」
「優太、諦めるな、絶対なんてこの世にはないんだ!諦めたらそこで試合終了だって」
「まぁ、振られたいんならいいしゃないの?」
「うぅぅ……」
こうして凹む優太、追い打ちをかける神成、そして慰める僕の三角形が生まれるのであった。
◇
……結局、優太は話している最中に眠ってしまった。
きっとのぼせたり泣いたりして疲れてたんだろう。
神成はどっか行ったし暇である。
そして時間は22:00で生活リズムが乱れてしまった僕にとって正直あまり眠くない……というか眠れない時間帯だ。
けど施設の子供たちのほとんどは既に眠ってるから一緒に遊んで暇つぶしともいかないし。
……そういえば近くにベランダがあったな。
眠れない時は夜風に当たるといいとか聞いたことがあるような、ないような……
とりあえずアニメとかでそんな描写を見た記憶がある。
それで1人でいると女の子が来て……みたいな。
シリアス系だと途中で来た女の子の手で突き落とされる展開に、なんて。
まぁそんなの2次元の話であって現実では起こりえないと思い、夜風に当たりに行くことにした───
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