22話 僕は学校に行くが……

(ガラガラガラ)

僕は教室の扉を開け教室に入る。

夏休み明け、最初の登校日だ。


「涼、おはよう!」


教室に入るなり大樹が挨拶をしてくる。


「ん、おはよ」


挨拶を返し、久しぶりに自分の席へ向かう。


休み明けの学校と言えば、何人かは自分の席を間違えて……なんてのは定番だが、

そんなことを起こすことなく自分の席に行くと机の中に色々なものを詰め込む。


───そうしてすっかり軽くなった鞄を片付けようと席を立ち上がると優太が教室内に入ってきた。


「おはよう涼。それに加納さんもおはよう……ございます」


……どうやら夏休みの間に優太と加納さんの距離が縮まる、ということは特になかったようだ。



「それでは、朝のホームルームを始めます」


加納さんが教壇の前に立ち、いつも通りの学校が始まる。

……おや?加納さん眼鏡つけてないな。

まさか眼鏡忘れたのだろうか?

いや、あの加納さんに限ってそれは無いだろう。

きっとコンタクトに変えたのだ。

眼鏡が無いだけても印象というのは変わるもので……少し雰囲気が柔らかくなったように感じる。


「───次に今日の欠席者ですが、水町さんだけですね」


その言葉でふと教室を見渡すと確かに1つだけポツンと空いた席があり、そこは水町が座っていた場所であった。

休み明けに体調を崩し休むことはそう少ないことでは無いのだから、そこまで心配する必要はないのだが……僕の胸は嫌にザワついていた。

そんな、なんとも言えない感情を募らせ僕の二学期は始まることとなった。



「…………」

「涼、そんなボケーっとしてどうした!」

「大樹、察しなよ……水町さんだよ」

「ん?水町がどうしたんだ?」


始業式も終わり、机で考え事をしていると二人が心配したようにこちらの様子を伺ってきた。

人間は1度悪い思考に入ると、とことん悪い方向に行ってしまうもので……水町さんの欠席と僕の告白が関係しているんじゃ、とか海で何かあったんじゃないかとか……挙句の果てにはなどと別の方向性での悪い事も考えてしまう。

そうして


「あの……立花君、なにやら思い悩んでいるようですが大丈夫ですか?」

「あ、加納さん……心配かけてごめん。」


どうやら加納さんにまで心配をかけさせてしまったみたいだ 。

……いっそ水町さんについて聞いてみるべきか?

加納さんは海に一緒に行ったらしいから何か知っているかもしれない。

そうして僕は加納さんに質問を問いかけることにした。


「加納さん、水町さんが欠席してる理由について何か知らないかな……」

「海……」

「海?」


海に行ったことが水町さんが休んでいることに関係しているのだろうか。


「はい、海に行った時に起こったが原因だと思うのですが」

「良かったらそれについて詳しくは聞かせて貰えないかな」


───僕がそう言うと加納さんは少し考えるような仕草を見せた後に、それを語り始めた。



「それが……詩音が神成と泳いでいた時ことなのですか、唐突に詩音がもがき初めたかと思えば溺れてしまい───」


あの水町さんが溺れた……?


「───神成も異変に気づいたことで大事に至る前に助けることができたのですが……声も出せない様子だったので急いで救急車に通報したんです」


「それでその後、水町さんは……」

「それ以降は私には分かりません」

「いや、加納さん教えてくれてありがとう」


……一体、水町さんに何が起こったのかは分からないけど、それが悪いことなのは間違いない。


「あ、そういえば他にも───」


加納さんは何かを思い出したのかそれを口にする。


「───救急車が来るまでの間、看病していたのですがその時に右足の一部が黒く腫れていて……もしかしたらクラゲの様な物に刺されたのかもしれません」

「クラゲ……!?加納さんは大丈夫だったの?」


傍で聞いてきた優太が心配した素振りでそう反応を返す。


「はい、私はあまり海には入って居ないので大丈夫です」


加納さんのその言葉に優太は安心した様子を示す。


「……もし詩音のことが心配なのであれば

放課後に、お見舞いに行ってあげてください。」

「うん、加納さんありがとう」


僕よりも神成が行く方がきっと喜ぶのだようが……それは加納さんの気遣いへの冒涜だよな。

幸い登校初日ということもあり短縮授業だから加納さんの家まで行って帰るとしても遅い時間にはならない。

そうして水町さんのお見舞い、そのついでとして学校からの配布物を届ける役目を担うことになった。



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