20話 僕は親友と話した

「───藍斗?」


藍斗は確か海岸に行ったから他県で一人暮らしを始めたはず……なぜこんなところに?

そんな事を考えていると藍斗の後ろから身長150cm程の小柄な茶髪ショートボブの少女が姿を現した。


「涼先輩、お久しぶりです」

「え、……君はもしかして」

「波乃です!」


波乃香菜なみの かな……それは中学生時代に入っていた水泳部のマネージャーをしている1つ下の後輩だった。


「……っていうかなんで藍斗が波乃さんと?」

「あぁ、今は休み期間だから


藍斗がそう言うと波乃さんは恥ずかしそうな素振りで顔を両手で覆ったのだが……これは多分そういうことなのだろう。


「そっか2人は付き合ってたんだ、おめでとう」

「な、なぜバレたんだ!」

「多分の反応のせいだよ……」


3年生の時は苗字で呼んでいた記憶があるのだが……どうやら2人の関係はだいぶ進んでいるらしい。


「あはは……でも2人が付き合ってるってことは遠距離恋愛?」

「あぁ、こうして長期休暇でもないと帰ってこれないからな!それでも電話してるんだが、たまには直接会って話したいからな」


そんな惚気話を聞いていると───


「あの、立ち話もなんですし良かったらあのお店に入りませんか?」


という気を利かせた波乃さんの提案により僕達は飲食店で話すことになった。



「それにしても……本当に久しぶりだよね、水泳の調子はいいの?」


「あぁ!中学の時よりもタイムが良くなったんだ」


飲食の注文を済ませると僕達はそんな会話を始める。


「2人がこうやって話してるのを見るのも久しぶりですよね」

「……そうだね」


───きっと彩乃さんは僕と藍斗の間に何かあったのを知っているんだろう。

だからこそ、こうしてきっと話し合いの場を設けたのではないだろうか。

あの頃の僕は意地を張って、嫉妬して、悔しくて、なによりも辛くて……僕は藍斗を拒んだ。

そしてそれを僕は未だに後悔していて、次に藍斗と話せる機会はいつになるかなんて分からない。

だから今話そう、そう決心をすると僕はずっと言えなかったことを口にした。


「藍斗、あの時は避けてごめん。

僕……もう水泳出来ないって思って藍斗に嫉妬してたんだ」


僕のそんな言葉に藍斗は一瞬固まったかと思うと次の瞬間には真面目な雰囲気で、それでいて笑顔になると返事をした。


「───いいんだ!俺こそお前にずっと謝りたかったんだ俺……お前の気持ちを考えないで、軽々しく発言したって気づいて……だからごめん!」


「許すよ、だからさ……僕の分まで夢を背負ってほしいんだ」


「……あぁ、そんなの当たり前だ!俺はお前の想いも継いで世界一の水泳選手になる」


「あぁ、じゃあこれで仲直りだな」


そう言って僕と藍斗は互いの手を握り───約1年越しの仲直りを果たしたのだった。



「───それにしてもまさか……告白したのって波乃さんからなんだね」


「そうなんですよ、藍斗ってばいつまで経っても告白してくれないから結局私の方から告白したんです」


「……いや、それは!いつかプロになった時に告白しようと思ってたんだよ!」


「本当ですか〜?」


「本当だって!

……そういや涼はどうなんだよ!新しい高校で恋人とかさ」


「……秘密かな」


「でも涼先輩の事ですからなんやかんやでモテてるんじゃないですか?」


「中学の時も部内にお前のこと好きな奴結構いたもんなぁ」


「え!?初耳なんだけど……」


いや、ほんとに……少なくとも中学3年間で告白された記憶はない。


「涼先輩が部活辞めちゃったら部活で先輩のこと好きだった子も告白するタイミング無くしちゃったんですよ」


まじか……。


「まぁ、涼なら彼女できるだろうよ!」

「……はは 」


そんな風に藍斗は励ましてくれるが最近振られたばっかり……

少し心が折れそうになるが幸せそうな2人を前に失恋話なんてする気にもならないので愛想笑いを返した。


「それじゃあそろそろお店でましょっか」


彩乃さんが言うように、食べ終わったのに長居するのもあまり良くない……ということで僕達は飲食店を後にすることにした。


「藍斗と久しぶりに会えて良かったよ。

時間が合ったら次は一緒に遊ぼう」


「おう!楽しみにしてるぜ」


そんな言葉を最後に僕は久しぶりに顔を合わせた藍斗らと別れた───








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