18話 僕は……
(ヒュルルル〜)(ド-ン)(ドッカ-ン)
「メグちゃん!花火綺麗だね〜」
花火が始まった。辺りには他のお祭り客が溢れかえり、動画を撮るもの、飲食しながら見るもの、恋人や家族と一緒に見るもの……と色々な人がいる。
好きな人の隣で花火を見られている今が幸せに感じるからこそ、これからする
振られたらきっと……今の時間は二度と体験出来ないんじゃないかと。
だけど、それ以上に、今告白しないで水町さんを失う方が怖いから……。
「水町さん……ちょっといいかな?」
「……?」
「話したいことがあるんだ」
「どうしたの?」
「ちょっと人が居ない所で話したい」
僕達は小声で、耳元でそんな会話を交わす。これなら花火のおかげで他の人にはきっと聞こえないと思う。
「……いいよ」
その言葉を合図に僕は水町さんの手を掴み人混みをかき分ける。
人が少なくて……さっきまで聞こえていた花火が少し静かになり始めた場所で僕らは足を止めた。
「水町さん」
「うん」
どうか……君の想いを知った上で告白する僕を許してください───
「僕は、」
君の事が───
「僕は、水町さんが、水町さんのことが好きです───」
頭を下げる。手を……差し出す。
「……」
返事は無い、僕の手が掴んでいるのは虚空だ。
僕はもう一言、付け加える。
「付き合ってください」
もう戻れない。
……それでも聞こえるのは花火の音だけで
顔を上げるのが怖い。君の顔は今どうなっているんだろうか。
───長い沈黙の終わりに僕の手が掴まれ、そして彼女はそれを口にした。
「……ごめんなさい」
◇
花火が始まった。
詩音と、皆と一緒の夏祭りの締めを飾るに相応しいそれが次々に上がっては散ってゆく───
「──────」
花火を聞いていると隣から僅かながら声が聞こえた。
「───人が───話したい」
そんな声が聞こえ、隣を見ると
何となく、意味があるのかは分からないけど加納恵はその後を追いかけてしまった───
追いかけた2人が止まったのは人気が少なくなった先程いた会場から離れた場所だ。
加納恵はその雰囲気から何かを察し、辺りにある木々の物陰に姿を潜めた。
『僕は、水町さんが、水町さんのことが好きです───』
それから、少し間を空けてその言葉は口にされた。
『付き合ってください』
加納恵は告白の現場に居合わせていた。
───なぜだか2人の後を付け、そしてその様子を隠れて見ていた。
立花が発した言葉を聞くと、何故か理由は分からないが胸がザワザワした。
数時間……いや実際は数秒であろう時間を得て、その一言によりその場を支配していた沈黙は解放された。
『ごめんなさい』
そんな水町詩音の一言によって。
そう口にした水町の姿は何故か震えており、それこそ今にでも涙を流すんじゃないかと思わせる。
『ごめん……水町さん』
先程まで顔を下げていた立花が正面を向き口にした。
『なんで、なんで立花君が謝るの?』
おかしな話だ、振られたはずの立花ではなく水町の方が先に涙を流した───
『僕のせいで、さっきまで笑顔だった君にそんな顔をさせてしまったから……だからごめん』
『だって……そんな、立花君が悪いわけじゃないのに』
『……』
『ごめんなさい、ごめんなさい……』
『〜〜♪』
『……?』
『水町さんとの思い出の曲……僕の君のキッカケの曲。僕はこれを歌ってる時の君が好きだった。』
『〜……〜〜♪』
『やっぱり、綺麗な歌声だ。水町さんは……泣いてる時より歌ってる時の方がいいよ』
『うん……︎︎うん……』
『僕はもうちょっと、ここに居るからさ……水町さんは先に戻っててくれるかな』
そう言うと水町は少し間を置き……来た道を戻っていった。
『はぁ〜。終わったなぁ……僕の初めての恋…………───っ』
立花は人目が無くなると先程まで堪えていたはずの涙が零れだし、それを両手で覆うようにして、ただ涙を流した。
そしてこれを物陰で聞いていた加納恵も
また、涙を流していた。
それは何故か。
立花への同情からなのか、親友が涙を流していたからなのか、はたまた……自分が立花へ抱えて始めていた、加納恵にとって
初めての……その感情のせいなのか。
加納恵という人間にその答えを出すことは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます