14話 僕はドライブに行く

わっかんねぇや……わかんねぇ。

ショッピングの翌日、殆ど眠れなかった僕は頭を抱えながらベッドから起き上がっていた。

僕は昨日とんでもないことを聞いた気がするんだ。

水町さんの好きな人がどうとかなんだとか。


正直恋とかした事ないし、水町さんに抱いてたのが恋愛感情なのか僕には分からない。

でも水町さんが神成アイツのこと好きって聞いて憔悴しょうすいしているのだから少なくともそれに近い感情があったのだと思う。


あの衝撃のカミングアウトには続きもあって……なんだったかな───



「え、それは本当です?」


突然すぎる衝撃のカミングアウトに心が雷に打たれたような感覚に陥りながらも僕は真偽を確かめる。


「うん……そうなんだ」


そう肯定する水町さんの表情は恋する少女そのもので……それが、僕の心にトゲが刺さるような衝撃を与える。


「詩音は神成のどんな所を好きになったの」


やめてくれ……それを聞いたら水野さんが神成の「顔」に惚れただけという自分に残った可能性すら残らなくなる。

水町さんが惚れるまでの理由ストーリー なんて聞きたくない。


「体育祭の時に私が後片付けしてたら足を怪我することになったんだけど、神成君が怪我した私をその……優しく抱き上げて保健室まで連れて行ってくれたの!それがキッカケで───」


顔だけじゃなくて性格までいいなんて……そんなの反則じゃないか。



───うん確かそんな内容だったな。

あれから水町さんの水着も選んだはずだけどそこの記憶は曖昧すぎて思い出すことはできない。


「あー……こんな形で優太の気持ち理解することになるなんて思わなかったなぁ」


僕は起き上がったばかりなのに再びベッドへと転がりこむと自室の天井を見上げ呟いた。

それにしてもそのキッカケとなった男まで一緒だなんて偶然にしたって出来すぎた話だと思う。


(コンコン)


自室の扉を叩く音だ。


「入ってもいいよ」


そう僕が反応を返すと相手は父さんだった。


「ちょっと出かけないか?」

「……めんどい」


夏休みとか道路混み混みだし……何より色々と辛い。


「まぁ、そのなんだ。そう言わず久しぶりにドライブにでも行かないか?

少しは気が晴れると思うぞ」


きっと父さんは昨日の帰りからやけに静かな僕を見て何かを察しているのだろう。

……まぁでもこのままクヨクヨしてるよりは幾分かマシか。


「どこ行くの?」

「お、行く気になったか!じゃあ昔よく行ってた場所に行くぞ!」


昔行ってた場所ってどこだ?

思い当たる物が多いせいで逆に目星がつかない。



(〜〜♪)


ドライブレコーダーから流れるあの曲終わりなき旅に耳を傾けながらどこかへと向かう。

水町さん好きな人との始まりの曲。

僕をいつも勇気づける曲も今はその逆の役割を果たす。


「涼もこの曲覚えてるか?」


前を向いた父さんが車の中にあるミラー越しに僕を見つめてそう問いかけてくる。


「うん、終わりなき旅……最近よく聞いてたから」

「それはお前が今そうなってるのと関係してるか?」

「……」


僕の答えは沈黙……だがこの沈黙は肯定に他ならない。


「曲、変えるか?」

「そのままで良いよ」


そのままでいい。だってこの痛みが辛さを和らげてくれてるような気がするから───


そうして曲に耳を傾け時間を過ごしていると窓から見覚えのある物が見えた。

これは───


「行く場所って海だったんだね」

「昔よく行ったろ?」

「まぁ……」


実際海にはよく行った記憶も残っている。


「なんか……海に来るの久しぶりだね」

「そうだなぁ、最後行ったのは涼が中学1年生の時に『水泳部の先輩に負けた!』なんて言ってしょぼくれた時だったか?」

「やめて、それは黒歴史なんだ」


あの頃は自分の実力を疑うことなく自分たちよりも歴の長い相手にも勝てると思っていた。


見ていた世界がまだ狭かったあの頃は僕の黒歴史に他ならない。


「まぁ人間なんて間違ってなんぼなんだ。

問題は間違った後にどうするか……

お前に何があったかは聞かねぇけどこの先お前はどうしたい?」


どうしたいか……分からない。


「父さんは母さんとどうやって結婚したの?」

「お!いい質問だなぁ。じゃあ海に着いたら教えてやろう」


……父さんは結構雰囲気を大事にする。





海に着いた。

時期が夏休みの真っ最中ということもあり人が大勢いる。


「とりあえず人が少ない場所行くか!」

「日陰……あるかな」


───まぁもちろん日陰のあるスペースは予めいた人に占領されており僕たちはジリジリと燃える日に照らされながら会話を始めた。


「母さんと結婚した時のことかぁ……懐かしいなぁ」


すごい思い出に浸ってる。


「母さんは昔ヤンチャしててな、それこそ高校生の時初めてあった時なんかレディースの女番長として恐れられてたもんだ」


まじか……普段温厚なイメージな母さんの新たな一面だ。


「あの頃は学校側も適当なもんでイジメは放置だし、教師に殴られるわで大変だったなぁ」


……


「父さんはイジメするやつは大っ嫌いだったからイジメをする奴らから人を守ったりしてたんだけど、そのせいで目をつけられちまってな。

それも水泳の大切な大会が備えてた時期に殴られたり蹴られたりたもんだ」


「そんな明るく話すことじゃないって……」


「まぁ、これがなきゃ母さんと今みたいになんなかったからなあ!

でだな、不祥事なんか起こせば大会に出れるもんも出られねぇってもんで……やられてもやり返せないって時に母さんが現れてな」


そうか……きっとそこで母さんが助けたんだな。


「1発ドカンと殴られたよ!父さんがな」

「え!?」

「やられてばっかでダセェ!男ならやり返せ!ってな……水泳の大会が大事で何も出来なかった俺には無理だって言ったんだけど母さんなんて言ったと思うよ?」

「分かんないや」

「だろうな!母さんはそんなありもするか分かんない未来よりも今の自分の事を考えて行動しろって言って不良に抵抗するよう言って来たんだな。もう頭にきたさ。でもな、逆にどうでも良くなって不良にやり返して返り討ち……とは行かずとも反抗したんだ」


「それで……最終的にどうなったの?」

「母さんが全員ボコボコにして俺に土下座して謝れってさ。あの時の母さんは漢だった!」

「……なんか色々すごいね」


「結局不祥事起こしたせいでやる予定の大会を逃すことにはなったけど相手も相手だったから水泳の道が閉ざされることも無かったシなんならあそこで抵抗してなかったらボコボコにされて一生できない体にされてもおかしくなったかくらいだから母さんには感謝してもし足りないな」


……すごい時代だな。


「母さんの漢気に惚れ込んで何度も告白しては振られて告白しても振られて……それでようやく付き合って、結婚までして……それが子供ができたらあんなに丸くなったわけだ」

「父さんは……すごいね」

「なーに言ってる!そんなすごい父さんの血と母さんの血をお前は持ってるんだ。もっと自信持て!」

「……うん」



───僕は1度の挫折で諦めてたけど、もう少し頑張って見ようと思えた。

だってまだ神成と水町さんは付き合って居ないのだから……僕が告白するとしたら約4週間後に控えた8月21日の夏祭りだ。

いつ水町さんが神成に告白するかは分からない以上ここが告白できる1番のチャンスだと思う。


そうと決まれば先ずはその日、予定が空いているかを聞くのみ。


『8月21日の夏祭り、一緒に行きませんか』


──────────────────


「あれ」


お父さんのカフェの手伝いを終え、スマホの画面を見ると誰かから連絡が来ている。


「立花君だ!え〜と、『8月21日の夏祭り、一緒に行きませんか』」


夏祭りにお父さんかメグちゃん以外の人から誘われたの初めてだ!

やっぱり立花っていい人だなぁ〜。

じゃあせっかくだし!


『いいよ、8月21日にの夏祭り恵ちゃん誘っておくから立花君もお友達誘ってきてね』


立花君の恋も応援できるし、前に誘った時は男の子がいかったの理由なのか、ちょっと気まずそうに感じたのでお友達も呼べるような内容を返す。


うん、我ながら完璧な反応だね!

───あ、どうせなら夏祭り当日はチャレンジしてようかな。



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