閑話 安藤優太は劣等生
小学生の頃で言えば優太が他の男子と足の速さを競えば遅い方に分類され、力でも少し優れた異性に負ける程度。
では、学力はどうなのかと言うとこれもまた平凡であり、簡単なテストで100点をとることはあっても平均的な点数の方が多かった。
恋愛においてと、何かしらの優れた点かそれなりに整った顔を持ち合わせていない優太は不利で、好意を抱いても抱かれることはなかった。
そんな優太が中学生に上がると今までは平均的であった学力も通用しなくなる。
小学生までは他の娯楽に時間を費やしていてもついて行く事ができたが、中学校ともなるとそうはいかず。
一つ一つの教科の難易度が上がったのも勿論だが、テストの密度のレベルが小学校とは比べ物にならない。
とはいえ、低い点数なんて取ろうものなら唯一平均的といえた部分までほかと同じく劣った物になってしまう。
そこで優太は部活動でも適当な1番楽そうな物を選び、青春の1部を勉強に費やすことで勉学では平均を保つことを選ぶ。
そんな生活を続け三年生となったある日、優太の心を突き落とす出来事が起こる。
それは体育祭のリレーの時であった。
優太は1位をキープした後続からバトンを渡され走り出すが、勉学に費やしたことでなまりきった身体は……何も無いところで足をくじく、という結果を引き起こしたのだ。
もちろん1位という順位も優太が体勢を立て直すまでキープすることはできず……他の選手がどんどんと、優太を抜かしていく。
優太ら三年生にとって最後のリレーであったが為に外野からは『早く立て』という急かしの言葉が飛んでくる。
決して心の強くない優太にとってそれは重荷となり心では分かっていても再び走り出す気力が湧かず立ち上がれない。
そうして、外野から投げかけられる声には罵声と言えるものまで聞こ始めた頃、優太に向かって誰かが走ってくる。
未だ立ち上がらない自分に我慢できずついには誰か直接危害を加えに来たのかと思われたが、駆け寄って来たのは優太との直接の面識のない現生徒会長である加納恵であった。
恵は優太に駆け寄ると優しい言葉と共に肩を差し出し、コースの外まで連れ出してその後も優太を労る言葉を掛けてくれる。
その後、駆けつけたもう一人のとある男に引き渡され保健室まで送られる。
そうして保健室で処置を受けたものの、実際の怪我が大したことはなかった優太はすぐにクラスメイトの元に戻る選択ができたが、今戻れば何を言われるかわからないと嘘の理由で早退することを選んでしまう。
そうして後日、クラスメイトに何を言われるかと内心怯えながら教室へと入るとその反応は予想とは違く……
『昨日早退したみたいだけど大丈夫だった?』
『昨日は急かしちゃってごめんな』
などの優太を心配した言葉であった。
その予想外な言葉に優太はすかさず自分のことを責めないのかと問いかけるが返ってきた言葉はこうだ。
『もちろん私達も昨日はそういう気持ちはあったのだけど───』
そこでは加納という言葉が出てきた。
先日に優太を助けてくれた本人が。
さして仲がいい訳でもない優太のために皆に対して説得の言葉をかけたという旨の言葉になぜ彼女がここまでしてのかと疑問を持つがそれはすぐに解明される。
───彼女について人に聞けばその人柄は正に天使であり息をするように人助けをする人間であることがわかった。
きっとあの日のことも彼女にとっては他の人にするような当たり前の事なのだろう。
それでもこんな自分を助けてくれた彼女に対して惹かれてしまう。
たとえそれが、自分でも高嶺の花だとは分かっていても……惹かれてしまうのだ。
あの一件以降、特に彼女と何かが起こることもなく卒業式を迎える。
優秀な彼女は自分が行く予定である公立の高校を選ぶとは思えないし告白をするのならば今しかない……だが自分の様な人が彼女の元に押し寄せそれは叶わずに終わる。
そうしてこの胸に秘めた想いを告げることはきっと来ないのだろう。
でも、もし再び彼女と再開できたのであればその時はきっと───
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