4話 僕を応援した


「ついに今日だね……僕絶対加納さんにいい所みせるよ!」

「俺の筋肉でこのクラスを優勝に導くぜ」


水町さんとの一件から月日が流れ、体育祭当日になっていた。

あの日以降水町さんとは次の日に一言交わしたくらいだ。


そうして迎えた今日、優太は前に送った動画を参考に身体を鍛えた成果が出たようで活躍した姿を見せようと張り切っている。


ウチのクラスには大樹を含む筋肉がそこそこいるからいい成果を残すだろう。


体育祭では奇数組、偶数組でチーム分けがされており、僕も含む全学年の1組は赤のハチマキを皆巻いている。

こうしてみると、自分も優太達と同じ所で戦いたかったという思いが湧いてくるがそこはいかないので応援に専念しよう。


まず最初は全男子出場の騎馬戦の結果は3位と無難な結果であった。

次に女子全員のでる棒引きでは5位。

それからクラス対抗リレー、台風の目、上級生のみの種目と続き、大樹の出場種目である綱引きが回ってきた。


「よしお前ら!綱引きはタイミングが重要だ。皆で息を合わせて引っ張って踏ん張れば絶対勝てる!」


大樹の言う通り綱引きはみんなの力を合わせることが必要だ。1人だけ強くても息が合わなければ勝つことは出来ない。


「「せーの! せーのっ!」」


大樹の大きな掛け声と共に皆で引っ張る。


結果1回戦、2回戦、3回戦……と全て相手チームに勝つことに成功した。2回戦では相手チームが綱を置いた後に動かすという小学生がたまにやるズルをしたが、それに気づいた大樹が指摘し結局反則負けになっていた。

GJ大樹!


その後、何個か種目を行われ、昼食休憩の時間となった。


「大樹は綱引きで凄い活躍してたな」

「おう!そりゃあ筋肉……いや皆で力を合わせたからな!」

「僕あんなに綱引き勝てたの初めてかも」

「僕は応援しかやることないから2人が羨ましいよ」

「なーに言ってんだ。応援すんのも立派な仕事だろ」

「うんうん」


そんなことを言って二人は顔を大きく頷かせた。


「はは、ありがとう」

「ところで次はついに長距離走だな!」

「昼食の後に長距離走って悪意しか感じないよね……僕でもやりたくないもん」

「はぁ、怖くなってきたなぁ」


優太は両手で顔を覆うとそんな弱音を吐く。


「大丈夫だよ!今日まで頑張ってきただろ?」

「そうだぞ。俺のプロテインバー食って頑張れ」

「うん……2人共ありがとう」



そうしてついにやってきた長距離走。

距離は1500m。

走るのにかかる時間を気にしなければ何とか休むことなく走り切れる距離だと思うが今回は速さも求められる。

ペース配分を失敗すれば待っているのは地獄だ。


「位置について、よーい!」(ドン!)


始まりの合図がなる。

優太の出だしは遅れることもなく順調だ。


「頑張れ!優太ならいける!」

「優太ー応援してるぞーいい所みせろー」


応援の言葉をかける。


そうして少しして400mを通過する。

順位は4位。

クラスの皆が声を合わせて優太を応援する。


───そんな中、事件が起こったのは800mを通過した頃である。


隣を走っていた別クラスの男子がバランスを崩して倒れ、それに足を引っ掛けた優太も同じようにバランスを崩す。


幸い両者共に起き上がったが、優太は片方の足を引きずるように走っている様子だ。

どうやら足を痛めたらしい……だがそれでも優太は諦める素振りを見せない。


1200m通過。残り300m。


1位のクラスは既にゴールを切ろうとしている。


「優太!あと少しだ!いける!頑張れ!」

「優太!頑張れ頑張れ!お前は男の中の男だ!」


残り僅か、僕達も、それ以外の人たちも応援の声を振り絞る。


「──────最後のクラスがゴールしました!」


実況の声が響く。


結果から言えば優太は6位、最下位だった。

だが誰も責めることはしない。

特段運動が得意でもない優太が足を負傷した上で最後まで走りきったのだ。


「優太!よく最後まで走りきった。俺は誇らしいぞ!!」

「うん、優太よく頑張ったよ!……本当に凄いよ!」

「でも……僕は最下位だ」


息は落ち着いたものの、いまだ額から汗を滴らせた優太が悔しそうな表情を見せる。


「いいや大事なのは順位じゃないよ。

最後まで諦めずに走りきった優太は誰がなんて言おうとかっこいいんだ」

「涼の言う通りだぞ」


すると優太は額のみならず、目から吹き出した。


「う、うえぇぇん2人が友達で良かったよぉぉ」

「泣け泣け今は俺の大胸筋の中で泣くんだ」

「はは……本当に頑張ったね」


こうして優太の長距離走は終わりを告げた。









長距離走の次を迎える種目は借り物競走だ。

借り物競走にはどうやら水町さんがでるらしい。


気が付かなかったが、髪が以前にカフェで会った時のように前は分けられており、後ろの髪は結ばれていた。

改めてみると凄い美人というか、可愛いと感じる。


そういえば借り物競走と言えば中に1枚だけ、

『好きな人』と書かれたカードがあるらしい。

そのカードは今後の学校生活が左右されるドキドキ♡生か死のみカードと呼ばれているらしい。


そんな悪魔のカードが眠る借り物競走がスタートした。


1番最初にカードに辿り着いたのは男だった。何を探しているかは分からないけど早くも探し物を見つけたのか、西側の座席に一直線に走り出した。


そうしてして続々と選手なカードの前に到着していく。

あるものは水筒。またある物はサングラス

そしてあるものはひとつなぎの大秘宝ワンピースを求め声を出す。


そうして水町さんもカードを拾うと……こちらの方向に歩いてきた。

おや、なんなんだろうか?


別にアレ好きな人カードだとは思ってないが、まぁきっと他のなにかだろう。

あれ、何か僕に近づいてないか?ってか手を握られて……ん?


「立花君、一緒にきてほしいの!」


お?お? 激しい運動はダメでも少し走るくらいならいいよね!?よしいくぞ!

そうして僕は座席から立ち上がると水町の後に続く。


本当に久しぶりに走る。

……やっぱり身体を動かすのは楽しい!


「3人目のゴール!はい、この方のお題はなんでしょうか!

……優しい男の人ですね!」


うん、まぁそうだよねアレ好きな人カードじゃないよね知ってたよ。本当に。

でも優しい男の人?


「あの、水町さん、僕って優しいの?」

「……うん。お父さんから私の歌を褒めてくれたって聞いたから優しい人だよ」


ねぇ、優しい人の基準低くない?


そんな感じで借り物競走がも終わり、好きな人カードを引いた人も判明した。

なんと最初に着いた人が好きな人カードだったらしい。

で、誰を連れていったか…

まぁ……誰というか美少女フィギュアだったのだが。いや、ここ学校だよ?

何で学校、それも体育祭の時に持ってきてるの?

まぁ美少女フィギュアでもキャラの種族が人ならセーフらしい。


残りは上級生のみの種目をやった後に、

男女別リレーがあるだけだ。

僕のクラスではアンカーは加納さんとイケメン男子が選ばれた。


そうして上級生の激しい戦い時間はあっという間に終わり リレーの時間がやってきた。


「それでは最後の種目となりましたー

準備はいいですかー?」


オー!って感じで皆盛り上がっている。

最後ということで、ポイントは100倍。

今までのは茶番で、ここでより良い結果を残した方が勝てる。

まぁ大事なのは勝利じゃないから。


皆、速いな。みんな選ばれた人ってだけあると思う。

それにしても加納さん足も速いなんて欠点が本当に見当たらないな。


まず結果を言うと僕のクラスでは男子の方は2位で女子が1位。

加納さんがすっごい速かった。


こうして長かった体育祭は僕達の赤組が勝利を収めたのだ。

大事なのは勝利じゃないとは言ったけど、なんやかんや勝った方が嬉しいよね。


でもきっと、自分も応援じゃなく選手としてチームに貢献できたら……そう考えてしまう───



優太は下校の時間に教室で一人机の前でたたずんでいた。



長距離走の結果が最下位だった。

僕は加納さんにいい所を見せようとここまで努力を重ねてきた。

アクシデントがあったとはいえ最下位は最下位。涼と大樹は優しいからああ言ってくれたけど僕は納得できずにいた。


もし僕がもっと努力をしていたら結果は違ったんじゃないか。結果論なのは分かっているけどそう思ってしまう。


それに加納さんは僕なんよりももっと速い人しかいない女子リレーで相手を圧倒して1位という成績を残した。こんな僕に加納さんを好きになる資格なんてあるんだろうか?

そんな事を考えていると───


「安藤君どうしたんですか?もう皆さん教室を出ましたけど」

「え、加納さん!?加納こそどうして」

「委員長ですので教室に人が残ってないかチェックしてるんです」


あ、そうか。クラスの委員長にはそんな仕事もそういえばあった。いつもはこんな時間まで残ることはないから忘れていた。


「いいや、なんでもないよ」

「嘘、ですよね?様子を見れば分かりますよ」

「そんな!僕は本当に」

「長距離走の結果もしかして気にしてるんですか?」


図星だ。加納さんは僕なんかのこともよく見てくれてる。本当に完璧な人。


「これは独り言なんですか……実はですね私、安藤君があの時長距離走をやろうと思って手を挙げた訳じゃないこと分かってたんです。 それなのに私ったらズルいから他の人がやろうとしないからって理由で優太さんの意見をちゃんと聞かなかったんです。

それに安藤君が運動があまり得意な方じゃないことも知ってたのに」


加納さんが僕がいるのとは逆の方向を向き語り始める


「それなのに安藤君は本番までずっと練習をしてましたよね。それは本当に、凄いことだと思うんです。ひとつの事を努力し続けることって難しいですから。本番でもちゃんと実力を発揮できてましたし。それなちょっとした事故が起こって足を怪我してましたよね?そんな状況でも最後まで走りきった優太さんを凄いと思うし感謝もしてるんです。

私は勝手な人間なので、身勝手に安藤君を選んでたこと後悔してたんですけど、この結果をみて私が選んだ選択は正しかったと思ってしまったんです。」


ちがう、きっと僕の為にこんなことを言ってだけで……情けないぞ安藤優太!好きな人にこんなことを言わせるなんて。


「ありがとう加納さん」

「はて、私は独り言を言っていただけですよ? それでは安藤君も、あまり遅くならない内に帰るようにしてくださいね」


あぁ、彼女はどこまでも強くてかっこいい。

この人の隣に立てるような人間になりたい。


だから前までの弱い僕とはお別れしよう。




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