閑話 加納恵は完璧を目指す

加納恵の母は自分が生まれ間もなくして亡くなった。

唯一直接に血の繋がった家族である加納恵の父は複数の事業を展開しており、その内の1つでとある児童養護施設も開いている。

そこでは身寄りのない子供を主に引き取っているため一人一人の費用は恵の父親がほとんどを補っている。


当時小学一年生の恵は幼いながらに責任感が強くリーダー気質を持つ子供を演じていた。

理由は単純で、自分が大好きな多忙な父に迷惑をかけたく無かったからである。

そして、そこから生まれた責任感を助長させたのは周りからの『加納さんは偉いね』『加納さんは皆のお姉さんみたいだね』『加納さんは──────』と周りの大人達からの言葉であった。


学年がひとつ上がる事に身の回りの大人たちはこう言う。

『もう最高学年なんだがら』『もう小学生になったんだから』『もう小学二年生になったんだから』と。

これらの言葉を優等生である恵が直接言われたことはなかったが、他の誰かに向け言われているのを何度も耳にした。

この言葉により真面目な恵は父に甘える行為が少なかった恵は6歳にして自ら甘えることを辞めた。


そんな恵に変化をもたらしたのは小学三年生の参観日であった。

多忙な父が時間をつくりきてくれる特別な日。

そんな日の帰りに親子の会話が聞こえる。 『お母さん、私今日頑張ったでしょ?だから明日一緒にお歌を歌いに行きたいな』

『えぇ、詩音は今日たくさん授業でも発言したものね。明日お父さんにお出かけでけのお願いしよっか』

『うん!』


この他にも色々なクラスメイトが家族との談笑を重ねていた。

言葉にはしないが恵だって父親に甘えたいのだ。

ならば今日くらい甘えてみようと思い父親の手を握ってみる。

すると父親は恵の手を力強く、だけど優しく握り返してくれた。

甘えていいのだと思うことができた。


それからの恵は父に直接お願いをすることが増えた。例えばそれは「一緒に○○に出かけたい」だったり、「今日は家で一緒にゆっくりしたい」と。

そんな生活を続けて一年が経った頃にそれひげきは起こった。

父が倒れたのである。

理由シンプルで元々父親も病弱な体質であるにも関わらず過度に働いた結果、今回のように体調を崩したのだ。

だが、なぜ倒れたのかを考えた時に幼い恵はそれをと考えた。

実際にはその要求は多くの人が「それだけでいいのか」と思うような物であり過労の原因にすらなり得ないものだったが甘え慣れていない恵にとっては違かった。


このことをキッカケとして恵はとあることを誓う。

甘えというることを誓う。

そうして後の彼女はとある決心をする。

大好きな父に迷惑をかけないため全てにおいて完璧を目指そうと──────




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