10話 僕はプールに行く①
楽しみな事が待っていると時間が流れるスピードが遅く感じるが、それと同時に早くも感じると矛盾した感情を味わえる。
そんなことで今日はついに水町さんとプールに行く訳だが、流石に家からプールは距離がある。
ということで僕は喫茶店まで行きマスターに水町さんと一緒に送って貰うことになっている。
「お、涼出かけるのか? ここ最近また出かけるようになったけどもしかしてお前───彼女か!?」
荷物を背負い部屋から出ると休日で家にいる父さんがニヤニヤしやながら僕にそんなことを言ってきた。
「いや!違うから、その……学校の女友達だよ!」
実際まだ付き合ってる訳じゃないし……
すると父さんのニヤニヤ具合が加速しその姿にいつもの威厳はカケラも感じられない。
「女友達か!そうかぁ……あの涼にもついにそういう子がなぁ」
そんな言葉を口にする父さんはちょっとキモイけど感慨深そうな顔をしている。
「ちょっとお父さん、涼が嫌がってるんだからやめなさいよ。おじさんが若者の恋の邪魔しちゃいけないわよ」
先程からの会話を母さんも伺っていたのか父を責める口調で会話に割り込む。
「でもなぁ」
「でももだってもありません!涼、お父さんは私が止めておくから行ってきなさい」
そう言って母さんが父さんを圧を出す。
昔から母さんは父さんに強いのだ。
「あ、でも車乗りたくないか?久しぶりにあの曲も聞きたいだろ?」
あの曲……か
「車は相手のお父さんのに乗るから大丈夫」
「お?もう家族ぐるみの関係なのか!?───」
「お父さんちょっといいかしら?」
後ろから父さんの悲鳴が聞こえた気がしたが、それを無視して僕は荷物を背負い家を後にした。
「いたた……母さんちょっとくらい手加減してくれよぉ」
「はいはい」
ソファにうつ伏せに転がった涼の父がそう口にする。
「でも、涼が水泳をしていた頃は恋愛する時間なんてなかったよな……」
「そうですね」
「何はともあれ涼の楽しそうな顔がまた見れるのは嬉しいな!」
「本当に、そうですね……」
◇
「おはようございます、水町さん、それとマスター。今日はよろしくおねがいします」
喫茶店の前に着くと荷物を持った水町さんとマスターが既に待っていた。
「安藤君!おはよう今日はよろしくね」
軽く会釈をしたマスターの横にいる水町さんが挨拶を返してくれる。学校ではわざわざ挨拶をするようなことがないから元気のよいこの挨拶は新鮮だ。
「すみません。わざわざ今日のためにお店を閉じてまで送ってもらうなんて……」
「いやいや、これも娘のためだからねぇ。
それに夜はお店を開くから問題ないさ。
それにして娘が男の子と2人で出かけるようになるなんて……子供の成長は早いなぁ」
何やらマスターに先程の父さんの姿が重なったように見えるのだが。
「ちょっとお父さん!そういうの辞めてよね!」
「そうですよ、ぼくと水町さんがそういう関係だなんて……」
水町さんの年相応の言葉に僕も合わせ僕も反応を返す。
「なんだい詩音。もしかして涼君じゃ不満なのかい?こんなにいい男他にいないぞ?」
「不満って!別にそんなことは……って、いいから早く車出してよね」
今の言葉……もしかして僕は期待してもいいのだろうか?
そんなことを考えているとマスターの車の中へと乗り込む。
車では僕が助手席に座り後ろにある席の右側に水町さんが座った。
僕も後ろの席に乗ろうと思ったが距離が近いと少し恥ずかしいからマスターの隣を選んだのだ。
「そういえば、安藤君って昔水泳やってたんだよね?」
後部座席から、水町さんが話しかけてきた。
「うん、一応中学生の頃は副部長もやってたんだ」
まぁ自分の誇れる部分は言っておきたい。女の子の前では僕もカッコつけたいのだ。
「副部長さん!安藤君すごいね?泳ぐのもすごい上手いんだろうなぁ」
「うん、部内でも1番……いや2番目に早かったんだ」
そう、僕は2番目であった。昔からの水泳仲間であり、部内では部長を担っていた藍斗の方が実力は上であった。父さんの指導を受けていた僕よりも藍斗の方が優れていたのはきっと僕以上に恵まれた体格……それに藍斗自身の水泳に対する努力あってのものだ。
藍斗の努力は僕も認めていたし、また逆も然りで藍斗は僕を認めてくれていた。だからこそ昔は2人で競い合い高めあってたものだ。
そんな親友と言える相手と僕は最後……
『〜〜♪』
この声は……水町さん?それにこの曲はあの
「あ、ようやく前を向いてくれた。話しかけても返事しないから心配したんだよ?」
「あ……ごめん。少し考え事をしてたんだ。その、もし良かったら水町さんの歌もっと聞かせてくれないかな?」
「……いいよ!安藤君が元気出るようにたくさん心を込めて歌うね」
それからは水町さんの歌声で心を安らげながら車に揺られていた。
やはり僕は水町さんが……水町さんから出される歌声が大好きだ。
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