7話 友達は失恋する そして僕は連絡先を得る
「うおぉぉーんおんおんおんおん」
優太が泣いている。
夏の風物詩と言えばセミの鳴き声だが今だけはセミの鳴き声が一切聞こえず、代わりに優太が泣いていた。
これは遡ること数分前──────
「放課後にこんな空き教室まで呼んでどうしたの?」
「僕決めたんだ!加納さんに見合う男になるために鍛えるって」
「ほう、それはまた急だね?っていうか大樹は呼んでないんだね」
「恋愛事に大樹を呼ぶのはダメだって学んだからね」
「そっか懸命な判断だと思うよ」
「それでね、涼にまた鍛えて欲しいんだ!主に加納さんのタイプになれるように」
「まぁ、少しぐらいなら協力してあげてもいいけど」
「よし!それじゃあ────ってあれは加納さん?隣にいる仲良さげに話している男は……」
あれは……
あの特定の人に対して態度を変えないと噂の加納さんが明らかに仲良さそうにしているし。
「そんな、あの
「あれは……ただの友達ではないね」
「無理だ!僕に神成に勝てる要素はない!僕の恋は終わりだァー」
────ということがあったのだ。
あの名前もかっこいいアイツは神が二つ入っていることから神が人間に化けた姿とも言われている。実際そう言われても納得できるオーラもある。
そんなのが恋のライバルときたら僕は諦めちゃうね。
ここは友人として精一杯泣かせて慰めてやろう。そして筋トレをたくさん教えてやるんだ。恋は裏切っても筋肉は裏切らない。
そうして大樹2号として生まれ変わるんだ。
そうすれば二度と失恋に悲しむことはないのだから。
「涼〜僕!僕どうしたらいいんだよォ!
こんな人生もう……くそぉお」
あぁ哀れなり。友人が今まで見たことが無いほどに取り乱している。
仕方ない友人が壊れていく姿を見るのは辛いものがあるからどうにかしてみよう。
そういえば水町さんは加納さんと仲がいいらしいから何かコイツを救うヒントを持っているかもしれない。
でも直接聞くの恥ずかしいな……水泳の2人でいる時間ならまだしも。
でも次の水泳は来週だし、かと言って連絡先も持っていない。
仕方がないから来週まで生きていることを願おう。
「優太!諦めたらそこで人生終了だ。だかまだ希望はきっとある!」
「そんなのないって……」
「優太もなんかあいつに劣らずの加納さんと特別な思い出とかあるだろ?それを思い出せよ!」
あるのかな?頼むあってくれ!
「特別な思い出……」
お?少し生気が戻ったな。まさか本当に特別な思い出があるのか。
「来週までに俺が何とかアイツの弱点か加納さんの好きなタイプを探るからそれまで持ちこたえるんだ!」
「加納さんの好きなタイプ?」
いいぞ!これは効いてる。
「でもどうやって?」
「秘密だ。だけど僕の事を信じてくれ。
絶対に何とかしてみせるから」
「信じていいの?」
「あぁ、信じてくれ」
「わかった、僕は涼を信じるよ」
「任せてくれ!」
ふぅ、なんとか友達の命を救う事が出来たようだ。
よし、人助けもした事だし僕も家に帰ろう。 おや?校門の前に見覚えのある姿が。
あれは……水町さんだ。加納さんを待っているのだろうか。
おや?こちらを見てないか?
なんか既視感だな。あの借り物競走の時みたいな。
間違いなくこっちも見て……わぁ!近づいてきたわ。
「立花君!よかったぁもう帰っちゃたんじゃないかって心配してたんだよ」
なんだって?僕を待っていたというのか。
「水町さんどうしたの?」
「あのね、もし良かったら連絡先交換してくれない?」
あぁ、今日こそ地球が終わる日だったんだね──────いい人生だった。
GOOD LUCK。
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