第22話 仲が良いのか悪いのか V
そんなふうに安心してしまったエリーゼの様子を、
いつもと変わらない、東洋風の作務衣。その上にミリタリーのジャケットを防寒のために引っかけていた。
濃い茶色の髪にサングラス。まず整っている甘いマスク。
容姿に優れた
(ユーリエさんが、
勿論、他の誰も知らないはずなのである。
そうなるとエリーゼにとって気になるのは、25歳で、アスランのそばにいた女の子をかっぱらうような行動をする、
アスランの女性関係についても、色々と気になる事はある。「バルバラ」とは何もなかったようだが。
だが、先ほど、”情報の管理”という事で釘を刺されているエリーゼは、迂闊にそういうことを
それで、
「タバコって美味しいですか?」
とりあえず、恐る恐ると言った様子でエリーゼはそれを聞いた。
「旨いよ。タバコは、休憩時間には必須アイテムだな」
「えっと……銘柄は?」
「Lucky Strike。ないときはLark」
それがどういう味で、どういう意味なのかは、エリーゼにはさっぱりわからない。前世でも、タバコを吸った事はなかった。何しろ中学生なのだから。
「タバコ吸っている時って、どんな気持ちになるんですか?」
「……お嬢ちゃん、吸ってみるか?」
エリーゼが興味を示したので、
「い、いえ、そういうわけじゃなくって。た、タバコって、モノの味とかに影響あるって言うけれど、どんなのかなって……」
神聖バハムート帝国では、18歳未満の喫煙は法律違反でもある。
「ああ、タバコを吸っていると、味がわかんなくなるって、あれな。そんなことは関係ないよ。タバコを吸っていても、旨いものは旨いしまずいものはまずい。ちゃんとわかるよ」
「あ、はい……美味しいものわかるんですね。好きなものとかは、あるんですか?」
「食の好み? ないわけないだろ。まあ、こっちだと、、、そうだなあ」
東洋風の作務衣、それを忍び装束がわりに着ている男は、しばらく考え込んでしまった。
「こっちで手に入る料理だと、リゾットやパエリアには罪がないな。旨いと思う。あと、ライヒのストラッチ、あれは変に癖の強い甘さがあったが、慣れたら旨かった」
「……米?」
その話を聞いて、エリーゼはすぐに気がついた。
「米が好きなんですか、
まあ、私も好きだけど……とエリーゼは声を消した。神聖バハムート帝国に転生して15年。炊きたての米の良さは身にしみている。あのほかほかしたご飯は、二度と食べられないかもしれない……と子どもの頃は悩んでいたが。
神聖バハムート帝国と交流のあるオノゴロ島が、純和風の国であるらしい、とは聞いている。
「まあ、そうだな。米が旨けりゃ、何も文句はない。本当にな、いつも月夜に米の飯ってぐらいだ。後は味噌と醤油。って言っても、お嬢ちゃんにはわからないかもしれないけど、そういうソースがあって……」
エリーゼは猛烈に頷いた。食いついたと言ってもいいぐらいだ。
「米、大事ですよね」
「わかるか?」
「あ、えっと……学校の読書感想文で、オノゴロ島の民話の事を書いた事があって……それで知っているだけなんですけど。オノゴロ島の食文化って、美味しそうなものばかりですよね」
あらかじめガードを堅めながら、エリーゼはそう言った。
すると
「へえ。今のガッコじゃ、中学校からそんな民族発表会みたいな事するのか。まあ、いい傾向だな。外国の文化に、若いうちから理解があるっていうのは、悪い事じゃない。オノゴロ島の飯は、確かに旨いぞ。一生のうちに、喰っておいて損のないものばっかりだ。お嬢ちゃんも、大きくなったら、オノゴロ島で炊きたての米を食べてみるといい」
珍しいぐらいに饒舌になる
もしかしたら、本当に、オノゴロ島が母国なのかもしれない。遠いシャン大陸の近所の島国の人間が、なんでテラ大陸の超大国で、忍びをやっているのかはわからないが……。
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