第15話 人質とか言われましても
アスランは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の忍者を除かなければならぬと決意した。アスランには忍術がわからぬ。アスランは、近衛府の騎士である。リュウと学び、狩りで遊んで暮して来た。けれども女に対しては、人一倍に鈍感であった。
--とかなんとか言っている場合ではない。
とにかく、アスランは激怒したのである。
憤怒とも言う。怒髪天とも言う。有頂天とは、多分言わない。
いくら何でも、目の前で、連れてきたエリーゼを盗んで拉致して遠い空まで軍事機密で逃げるとか、あるか?
「コ ロ ス !!」
思わず口から飛び出た言葉はそれだけだった。
アスランはエア・ヴィークルに怒りを伴う魔力をこめて、急発進させた。
自分でもこんなに頭にきた事はないと思っている。
怒りのあまり魔力がたちまち充填されていくような錯覚。アスランは、ミトラの神聖魔法による攻撃を、
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとか、そういうレベルではない。
アスランの
(やばい。本気で怒ってやがる)
それが目的だったくせに、
エリーゼの方は、盗み返される訳にはいかないので、縄で上手に縛り上げ、自分の前に固定していた。
エリーゼは最早、声もなく、真っ青になって震えているようだった。
どこにでもいる、田舎育ちの貴族の令嬢なのだろう。
そういうわけで、何度か急角度で旋回しながら、
だが、アスランもそういう
「吹っ飛べ!!」
アスランのエア・ヴィークルの前方に--魔法の術式が展開される。それは、
「嘘でしょ!」
流石の
途端に、キャノン砲のような光の塊が生まれた。かと思うと、その砲台が、魔力の塊を発射。長い流星のような尾を引きながら、
その初撃を、
「お前な! それがぶち当たったら、この子はどうなると思ってるんだ!! エリーゼが怪我してもいいのかよ!?」
「エア・ヴィークルが壊れればそうなるだろうな。お前は、
「なんだと!?」
「エリーゼだけは俺が責任を持って引き上げる。
「アスラン……」
「お前は心置きなく、海底の地獄にでもどこにでも行け。グッバイ」
本来、ないとなう! 原作に描かれた、ライバル同士の二人ではあるのだが、それを聞いていたエリーゼだって、黙ってはいられなくなってくる。
アスランが、
だが、
そう思うと、控えめで引っ込み思案で顔色が悪くてうつむき加減でという、日頃の性格の中から、エリーゼの本来の、滅法、気が強くて明るく、元気な性分が出てきてしまった。それが、生命力というか、本能というものなのだろう。
「や……やめて!」
エリーゼは思わず大声を出していた。
「アスラン様!
たかが15歳といえど侯爵令嬢。しかも、転生して二回目の15歳だ。言おうとすれば言える事はある。
そこで自分に意見してくるとは思わなかった、いつも大人しいエリーゼに、アスランは驚いているようだった。
「
そこで、エリーゼは
「私をここから降ろして! アスラン様のところに返してください。一体、何が目的なんですか! 私の鞄も、返してください。それ、大切なものが入っているんですっ!!」
「そうはいかないだな~お嬢ちゃん。こっちにも、メンツってものがあるからな~」
「10歳も年下の女の子の鞄を盗むメンツってなんなんですか! 何がしたいのよ!!」
「言うねえ……」
「私の鞄を盗んだりするから、アスラン様が怒っているんでしょう!? 鞄を返して下さい。そうしたら、私だって
「いや、アスランは別件で俺を追っかけるだろ? 人質はいた方がやりやすいんですけど」
「人質!? そういうこと!?」
いったん、整理してみると、成り行き上そういうことになってしまっているらしい。エリーゼは愕然とした。自分は、軍事機密を盗んで走る忍びの、自分の身を守るための人質になっていたらしい。
びっくりして声も出ないエリーゼだった。なんなのそれ。ないとなう! 原作には全くなかった描写ですけど。
「エリーゼを人質。
アスランがドスの利いた太い声を出し始めたのはそのときだった。
エア・ヴィークルでの砲撃は一回とめて、怒りだしたエリーゼの様子をうかがっていたのだが、
エリーゼに手を出す奴は誰だって嫌いだが、彼女を傷つけたり脅したり、怯えさせたりする輩はもっと嫌いだと、アスランは思った。
「もう一回だけ言う。
「ふうん?」
(お? 俺の勘がまた当たりましたか?)
アスランは、女にモテる。異常にモテる。当たり前だが魔王を倒した唯一の勇者、英雄として老若の女性に軒並みモテる。だが、本人は鉄の鈍感さで、それを気にした事はない。その理由は、魔大戦中にあったことが原因で、それを間接的に
そのアスランが、どうやら無自覚に、強烈に意識しているのが自分が前方に縛り上げて無理矢理押さえ込んでいる、小さい女の子であるらしい。
その件については、
「じゃあ俺の方から、ちょっと歓迎してやろうじゃないか」
勿論、いくらお互いにオノゴロ島出身の母を持つからといって、この場で赤飯を炊いたり赤飯を炊くために近衛府に戻ったりするわけにはいくまい。
そういうわけで、
先ほどのアスランの操縦を見て覚えたため、強烈な光の弾丸を、アスランの顔面狙って打ち出したのだった。
一瞬、怯んだ表情を見せるアスラン。
「あ、アスラン様に何をするのっ!」
「空気読めよ、お嬢ちゃん。このまま逃げるぞ」
さらに
元から、撒菱を使うような職業である。空中故に、撒菱は使えないが、そういものを使うタイミングの呼吸は出来ている。
東へ。
シュルナウの東部海岸を遙かに超えた、その場所--。
魔王決戦の発端となった、
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