第6話 暴走エア・ヴィークル
エア・ヴィークルについて、エリーゼが感想を言うのだとしたら、それは、空中を爆速で走り回るバイクということであった。
空中の高度は自由自在に上げたり下げたり出来るらしい。むしろ、空中だったら360度全角度にどこにでも超スピードで行ったり来たり出来るらしい。
その軍部開発のエア・ヴィークルをなんで
彼がそんな奇怪な行動を取ったが故に、エリーゼも、アスランの背中に捕まってエア・ヴィークルに乗る羽目になったのだが……。
(きゃああああああああああッ!?)
高い!
早い!
早すぎる!
高すぎる!
どっちに飛ぶか、わからない!!
そういうことである。
文字通り風の中を切って進むエア・ヴィークルは、運転しているアスランには爽快感があるのか、どうなのかは、わからないが、エリーゼにしてみれば、いきなり空中高く飛び上がって、信じられないようなスピードで滑走し始めたのだった。しかも、前方の
はっきりいって、
当然、高い空中から落下したら、基本は普通の女の子のエリーゼ、たまったものじゃない。それでエリーゼは思わず、アスランの背中に力一杯しがみついた。
「エリーゼ? 大丈夫か。しっかり捕まっていろ。絶対、
そこでアスランが後ろを振り返ってそんなことをいったもんだから、ますますたまったものじゃない。
「え……あぅ……」
そういってくれるのは嬉しいのだが。それよりも、何よりも。
(前向いて、前ーッ! 前向いて運転してーッ!! ビルにぶつかりそうで恐いーッ!!)
そういうことである……。
そうなるとエリーゼは益々アスランにしがみつくしかなくなるし、アスランはそれを意識しているのかどうなのか、腹に回り込んでいるエリーゼの手をぽんと叩いてくれた。
嬉しかった。でも。
(うわーん! 片手運転しないでよーッ!!)
既に、涙目。
それでは、
彼は、神聖バハムート帝国における押しも押されない第一皇女、れっきとした女性皇太子アルマース・リーン姫の私兵なのである。
それに対してアスランは、士官学校を魔大戦中に卒業し、近衛府に入って現在中将である。
エア・ヴィークルは近衛府が民間企業と共同で開発した本物の軍事機密で、最近、民間企業の方が仕上げを行った何体かのエア・ヴィークルを帝城の近衛府に納品した。
そのエア・ヴィークルの訓練、まずは中将であるアスラン達が、極秘に行っていたのだった。それで、アスランはエア・ヴィークルを難なく操縦出来るのである。
近衛府の大将は一名。
ベンジャミン・ベッカー。
中将は三名。
アスラン・アルノルト・フォン・ジグマリンゲン。
フォンゼル・ライアン・フォン・クーベルフ。
ジークヴァルト・ディートリッヒ・フォン・ビンデバルド。
この三名で、まずは中将達がエア・ヴィークルの運転を覚えた後に、問題点をフィードバックし、研究開発をすすめさせ、そのほか実用化出来るようだったら、少将以下にも教えてみようかな~? ぐらいの考えである。
所で今、ビンデバルドと書いたが、ジークヴァルトは
いわば、ビンデバルド宗家の切り札の一枚なのであった。
年の頃はアスランと同期で25歳。
ジークヴァルトは、皇家の血も引くビンデバルド宗家の王子様として名高く、容姿的にも能力的にも評判の良い男である。しかもそれを、本人自覚していたし、もっと肝心な事には、ビンデバルド宗家にとっては、自分が皇女アルマに対して最大の切り札だと自覚している事であった。
先祖代々、皇后の実家として覇を唱えてきたビンデバルド。現在は
女の子であるアルマ姫に対して、年上の様子のいいビンデバルドの王子が接近させる。そして見事アルマ姫を射止めた後は、ビンデバルド一族が総出で政治的に圧力を加えたり政治的画策をしたりして、見事ジークヴァルトを皇帝の位につける……というのが、ジークヴァルト本人にとって恩ある宗家の筋書きだということを自覚していた。
そういうわけで、ジークヴァルトは嫌みにならない程度に用事を作っては、
するとどうしても、
二月に入った直後、ジークヴァルトは、案の定、用事を設けてアルマの私室を訪れた。そのとき、
ジークヴァルトは用事の件は15分ですませてしまうと、やおら、綺麗な色合いの毛糸玉を取り出した。ビンデバルドの王子様が、毛糸玉を何個か手に取り、にこやかにアルマ姫に向かう。
そして意外と言えば意外な事をいった。
「姫は、
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