第7話

「ハル、だよね? どうしたの、こんな寒い日に」


「えっと……あなたこそ、どうしたの」


「僕は、その……いつもここにいるから」


 少年の答えに、私は首を傾げました。


「どういうこと?」


 ここは私の秘密の場所なのに、という言葉は、なんとか飲み込みました。

 少年は少し考えた後、言いました。


「ここは、僕が管理してる花畑だから。僕は、ここに住んでいるような感じかな」


「そうだったんだ……」


 どうやら、ここは私だけが知っている場所ではなかったようです。なんだか特別感がなくなってしまい、私はがっかりしているのを感じました。


「じゃあ、勝手に入っちゃってごめんなさい」


 名残惜しいですが、私はここから出ていくことにしました。二人の墓標を撫でると、私は立ち上がります。


「待って! いいよ、ここにいて。だってここは、君に教えた場所だから」


「私に教えた場所?」


 私は彼からこの場所を教わった覚えはありません。ここは確か……えっと、誰に教えてもらったのでしょうか。

 思い出そうとしても、わかりませんでした。

 そんな私を見て、彼は口を開きます。


「ここはもともと、君のお父さんに教えた場所だよ。僕は君のお父さんと友だちだったから。そして、君のお父さんが君に教えたんだ」


「私のお父さんが……」


 そうです、ここはお父さんに教えてもらった場所だったのです。どうして、今まで忘れていたのでしょうか。

 懐かしい思い出が急に蘇ります。

 初めてお父さんがここへ連れてきてくれた時、私は五歳でした。お父さんは私と手を繋ぎ、にっこりと笑いました。


「今から素敵な場所へ連れて行ってあげるよ」


「素敵な場所?」


「そう、春の神様がいる場所さ」


 春の神様がいると聞き、私はうきうきし、スキップを始めました。

 そうして、やっと着いた花畑。すると、花々はきれいに咲いていました。

 赤色、白色、黄色、橙色、桃色、空色、藍色、紫色、色とりどりの花々。そして黄緑や深緑の葉っぱたち。

 そして、そういえばその花々に埋もれるように、その少年はいたのです。

 最初に見つけた時、彼は小さな小さな枯れ木の下に座っていました。

 彼はそこでじっと動かず、静かに下を向いていました。

 でも、私はそんなこと、気にも留めなかったのです。

 彼はなぜ、あそこで悲しそうにしていたのでしょう。なぜ、あの木だけが枯れていたのでしょう。

 声をかけてみれば良かったのに。


 気がつけば、私は泣いていました。涙はとっくに枯れたはずなのに。


「ハル、大丈夫?」


「うん」


 私は涙を服の袖で拭いながら答えました。貸してもらったハンカチ返せば良かった、と思いながら。


「私、もう行くね。ありがとう」


 私は少年に向かって微笑むと、背を向けました。


「待って!」


 少年は大きな声で叫び、私の腕を掴みました。

 私はびっくりして振り向きました。


「急にどうしたの?」


「だって君、今にも死んじゃいそうな顔してるよ……」


 私ははっと頬に触れました。

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